これからの活躍を期待される若手建築家。「新しい発想」や「工法・設備に関わる新鮮な情報」、「施主に対する熱い想い」は、年齢や経験に関わらず目を見張るものがあります。ここでは20代・30代の建築家が設計した住宅事例をご紹介いたします。「若手建築家特集」を、ぜひみなさまの住まいづくりの参考にしてください。
無限の可能性を秘めたシンプルな構造。 多様なスケール感が居心地いいカフェ
広島県広島市宇品 / Y様
広島県広島市宇品。のどかな雰囲気の中で海を見渡せる絶好のロケーションに、コンクリート打ち放しに全面ガラス張りのモダンな建物が立っている。建設中から何ができるの? ギャラリー? それとも美容院? と行きかう人の注目を集めていたこの建物の正体はカフェ。設計したIGArchitects一級建築士事務所の五十嵐理人さんは、「今はカフェですが、実はギャラリーとしても美容院としても、住宅としてでも使用できるようになっているんです」と言う。
その理由はご依頼の経緯に遡る。クライアントであり、現在このカフェの店主でもあるY様はご高齢の女性。カフェの建設は、いつか自分でお店をやりたいという夢を叶えるためだった。ご自身はそんなに長い間お店をやることはないかもしれないとお考えのようだったが、建築物は一度そこに建つと長い間残るもの。Y様から引き継ぐ人が商売替えをする、または住宅としてその場所を使用したいという場合もあるかもしれない。「どのような状況になっても、一度全部壊して建て替えるのでなく建物は残ればいいなと思いました」と五十嵐さん。建設にあたり2社が参加したコンペにて、五十嵐さんはY様のご要望はもちろん、この思いを反映したプランを提案し、見事勝ち取った。
外とつながる。家族がつながる。暮らしを豊かにする「吹抜けのある庭」
神奈川県横浜市 / house H
完成したH邸はシンメトリーなL字の建物で、Lで囲まれた正方形の部分が広い庭。L字の建物の中央は真南に向かっており、住空間の大部分が陽光あふれる南の庭に面している。
邸内のどこにいても光と風を感じられるよう、L字の建物で庭を囲んだ住宅は決して珍しくない。しかしH邸は、建物の骨格となる屋根、柱、梁などが庭まで伸び、庭が適度に囲われている点が大きな特徴。そのため庭・邸内のどちらにも外部の視線が届きにくく、心おきなくカーテンを開け、気軽に庭に出るのびやかな暮らしを満喫できる。
庭の空間デザインも洒落ている。大きく開口した白壁やコンクリート床、ウッドベンチなどが植栽スペースを囲み、海外のリゾートホテルのプライベートテラスのよう。家族が憩える屋外リビングのようでもあり、庭の楽しみ方のバリエーションも幅広い。
3人の建築家のアイディアが結集! 斜面地で実現した理想の住まい
奈良県生駒市 / Sou
三角屋根が特徴のH邸。外壁には徳島杉が用いられており、シンプルでありながら、温かみのある外観となっている。1階部分にLDKや水回りなどの広い空間を確保するため、入口はあえて2階に設置。アプローチを抜けて中に入ると、広い土間の玄関がある。その左右には、子ども部屋とベッドルームが。内装には杉材が用いられており、外の自然と一体化するよう工夫されている。
1階に降りると、そこにはリビングダイニングとキッチン、そして水回りが。リビングダイニングは、南側の開口部や寝室のトップライトから太陽光が降り注ぐ、とても明るい空間だ。キッチンに立った時に南側の丘を望めるよう目線の高さを考えて設計されており、住宅地であるにもかかわらず、森の中にいるような気分を味わうことができる。
フレキシブルで、さらなる価値を 築50年のビンテージマンションリノベ
東京都文京区 / A邸
配管の構造上、水回りは部屋の中心に持ってこなければならず、部屋割の自由度が限られた。大規模マンションであることから法規制が厳しく、使用できる素材も限定された。ガス給湯器も適合する機種が1つしかなかった。さらには50年の歳月が天井のコンクリートをたわませ、壁付近と中央では高さが変わってしまっていることもわかった。
建築当時の図面は残っているものの、50年の歳月の中その後のリフォームや改修により、間取りや設備が図面と違う中、1つひとつ実測し、調べあげ数々の障壁をクリアしていった。この丁寧な仕事ぶりには、お2人のこれまでの経験が、存分に発揮された。
夫婦が憩い、人の縁を育む ずっとここに居たくなるウッドデッキ
茨城県結城市 / A邸
敷地に一歩入ると、芝の緑の美しさの奥に佇むAさん邸が見える。一見すると平屋建てのように感じるが、勾配屋根の奥側は、2階建てになっている。
Aさん邸の最大の魅力といっても良い場所が、リビングから続くウッドデッキと、その先に広がる景色だ。リビングは、吹き抜けの天井がもたらす高さと、大きくとられた掃き出し窓による開放感抜群な場所。さらに窓を開けると広いウッドデッキと一体化し、大空間となるのだ。ウッドデッキの上部は、ひさしを約2m出してあり、夏の高い日差しは遮り、冬の低い日差しは入る設計。また、樋はデッキに雨水が落ちてこないような仕上げにもなっている。
吹抜け空間に部屋が浮く? 家族がつながる、無柱の開放的なLDK
栃木県宇都宮市 / K邸
大塚さんによれば、K邸の吹抜け×無柱空間には4つのメリットがあるという。1つ目は、「空間の落ち着き」だ。リビングを天井の高い吹抜けにする一方で、ダイニング上部には2階の一部を配置。浮いているように見える2階がほどよい高さのダイニング天井となり、家族が落ち着いて憩える空間に仕上がった。
2つ目は「日照コントロール」、3つ目は「風の流れ」である。1階~2階に配した東西南北の窓から入る光や風が、吹抜けと、吹抜けに面した2階通路などを介して至るところに行き渡る。
スケール感あふれる吹抜け空間でかなえた、 光と空がきらめく「緑と戯れる家」
東京都葛飾区 / H邸
H邸は、家全体が大きなワンルームのように設計された2階建て。1階は床面積の約半分に和室・寝室・水まわりが並んでおり、残り半分がスケール感あふれる吹抜けのLDK。2階がオープンになった吹抜けなので邸内の一体感が高く、日当たりのよい2階に鉢植え植物を置くと1階からもよく見える。これが、「直接見る実像の緑」だ。
普通ならこれで満足しそうだが、かまくらスタジオの2人は違っていた。2階から1階LDKへゆるやかに下がる勾配天井を鏡面仕上げにし、2階の植物が映り込むようにしたのだ。大空間を覆う天井に映る植物は、当然ながら邸内の至るところで目に入る。これが「鏡面に映る虚像の緑」である。
LDKに入ると吹抜けを介して2階の豊かな緑が見え、真上の天井にもきらめく緑。しかも、この天井には2階テラスの白壁に反射する青空も映り、グリーンとブルーの万華鏡のような華やかさ。不思議な開放感と美しさで、心がすうっと落ち着くミュージアムのような空間となっている。
暮らしが広がる土間、吹き抜けリビング…。
こだわり溢れる「住まい手オリジナルの家」
東京都 / S邸
「この人なら、自分の希望をしっかりと叶えてくれる気がする」。そう思い、幸地さんに家づくりを依頼したというSさん。設計時点でまず要望したのは、子どもの遊び場や接客スペースも兼ねた広いエントランスとセカンドリビングと、空を眺めることができる南向きのリビング。そして、敷地の不整形部分も最大限に生かした外観という3点だった。
この要望を叶えるべく、いくつかプランを考えた幸地さん。最終的に決まったのが、1階に広々とした土間とセカンドリビングが一体化した開放的なスペース、2階に吹き抜けのLDKと水回り、そして3階に夫婦の寝室と子どもスペースを設けるという案である。
1階は保育園の園庭で2階が住居?併用住宅に夢と可能性を感じさせる居心地の良い家
兵庫県 / M邸
松浦邸の1階はピロティとして構成され、2階は松浦さんのお母様が暮らすスペースとなっている。通りに面した「土間のピロティ」には、2つの出入口がある。1つは松浦さんのお母様が使う玄関。もう1つは、将来、店舗として使えるスペースへ通ずる出入口であり、現在はお茶を飲むスペースとして使われている。そして「園庭のピロティ」は、文字どおり隣接する保育園の園児たちが遊ぶ空間と、遊具などを保管するスペースとして貸し出されている。園庭のピロティの天井は、もっとも高いところで4.7mあり、開放的な空間が広がる。また、2階の住居部分が屋根の役割を果たし、園児たちは雨の日でも濡れることなく遊ぶことができるのだ。
これまで、隣接する保育園と松浦邸の間はブロック擁壁で仕切られていた。今回、松浦邸の建て替えにあたり、このブロック擁壁の一部が解体・高さが下げられ、代わりに木製の格子状の柵と扉が設けられた。防犯上、柵と扉はあるものの、松浦邸にある「園庭のピロティ」と保育園の裏庭が自由に行き来できるようになった。その結果、園児たちは安心かつ安全に移動できるだけでなく、双方の距離感がグッと縮まったといえるだろう。
敷地の内外、庭と建物、建物内の空間…。
境界を限りなく減らして「つなげる」ことで、人も街も伸びやかに暮らせる家
岐阜県岐阜市 / K邸
実際に住まうK様ご家族が暮らしやすいよう、採光性や通風性、動線にも配慮。1階の和室からダイニング・キッチン、洗面室、脱衣室までや、スキップフロアから繋がるデッキ、リビング、2階の廊下、寝室、バルコニーまでを一直線に配置。行き止まりをなくして、外へと抜ける広がりや開放感を演出、光も空間全体に行き渡りやすくしている。さらに、2階の廊下には開閉式のトップライトを配することで、外光をより取り込めるように設計。
また、リビング側にある2階洋室には、大きな窓をはめこみ、吹き抜けを通して1階までを見下ろせる。「ここに大きな開口部を設けておけば、将来、お子さんが独立して、リノベーションをしようと思ったときに、ガラス外して空間をつなげるなど、いろいろなアレンジが可能になります」と、将来的な間取りの可変性も意識した。
縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い 敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家
愛知県瀬戸市 / 瀬戸の家
自然豊かな愛知県瀬戸市に計画した木造2階建て住宅のM様邸。周辺は調整区域のため、田畑や住宅が点在するのどかな地域だ。建築家の塚本さんの仕事関係の知り合いだというM様は、親類の土地に家を建てることを決め、塚本さんに相談して設計を依頼。その土地の隣地には、敷地を包み隠すかのように自生した木々が生い茂っており、塚本さんはそんな隣地の草木の緑を借景として取り込みたいと考え、プランニングをしたという。「自然の緑の壁が目隠しとなって、完全には閉ざされていない、開かれた中庭をつくろうと考えました」。
個人で建築事務所を起ち上げて独立後、最初の依頼だったという塚本さん。「隣地の木々から種子が落ちて、その種子から芽が出て、大きく育ち、家になる」というイメージをテーマとして設計。自生する木々の生命力が、良い意味で敷地内を「侵食する」ということを建物の形や配置計画で表現。自然の壁は、車の通る音や人の視線を遮りながら、風で揺れる木々の触れ合う音が耳に心地よい住まい空間を生み出している。
何かが違う…。何が違う?木造に見えない、上質モダンな木造住宅
千葉県船橋市 / 西船橋の家
デザイン性の高い住宅を希望していたIさまが、開口一番に八田さんに伝えたのは「木造に見えない木造住宅にして欲しい」というリクエスト。このお題に対し、どんな思考を巡らせたのかを八田さんはこう振り返る。
「最初に考えたのは、“木造らしさ”。木造らしさを消せば、ご要望に沿う住宅になるのでは?と思ったからです」
完成したI邸は、全面が大判タイル張りの高級感あふれる住宅だ。フラットな屋根や正面の袖壁など、RC造を思わせる外観デザインが目を引き、「木造住宅に見えない木造住宅」を見事に体現している。