いつか自分のお店がやりたいというクライアントの夢を叶えるために建てられたカフェ。建築家の五十嵐理人さんは、カフェとしての使い勝手の良さ、居心地の良さを追求すると同時に、建物のこれからも考えた。壁や窓を全て取り払っても建物は残り、新しい使い方ができるというこの建物がどのように生まれたかを探る。
この建築家にそれぞれ独立した4つのテーブルを重ねた構造。床面の下には補強のための柱も加えられている。着想はジャングルジムから。「子どもがジャングルジムをいろいろなものに見立ててそれぞれの遊び方をするように、人の解釈でどんな使い方にも変身できる建物にしたかった」と五十嵐さん
重いはずのコンクリートの屋根や階段が、軽やかにつくられている。
シンプルな構成でコストとデザイン性のバランスを取りながら
重いものが軽やかに感じられる不思議な違和感をデザインしている。
駐車場からエントランスを見る。宙に浮いたような階段が軽やかな印象を与えている。一番低い位置の屋根が大きく外に出ることで庇のような役割を果たしている。程よく太陽光を遮るため、客席では眩しさを感じない
素材の基本はコンクリートとペアガラス。ガラスの間の黒い部分は、ペアガラスの縁に入っている保護剤が直射・紫外線に弱いため貼ったカバーで、サッシではない。コンクリートは光を反射しやすいよう、つるつるとした仕上げにした
店内の中心に植えられた木に向かって天井が段階的に上がっている。上に行くほどガラス張りの面積も狭まり、建設における費用と、空調などのランニングコストのバランスを取るように計画している。床を上げたことにより、店内からは道路の向こうに広がる海を楽しめるようになった
見上げると天井にたくさん照明がついている、という状態を避けるため客席部分の照明はごくわずか。テーブル上のダウンライトも控えめな印象にした。日中、夕暮れともに光の入り方に関して模型や3DのCGでシミュレーション、実際の照明器具を購入して実験を繰り返したうえで建物の凸凹やライトの位置を決めた
写真奥の北に配されたソファ席背後の窓のうち、一番左側のものが開く。この場所は南北に風が流れるため、換気時はこの窓と対面にあるエントランスを開ければ、風が抜けるようになっている。夕暮れ時をすぎると、下から当てられたライトによる樹形や葉の影が美しく映える
お客様との距離を近く感じるようオープンキッチンにした。壁面は木材で、黒に空や海を思い起こす青を混ぜた塗料で塗装。ここにも外と中を曖昧に、というこだわりがある。「ぱっと見わからないかもしれないけれど、こういう小さなものの積み上げで完成後の建物の雰囲気がガラッとかわります」と五十嵐さん
日が落ちてからは、建物の外側に設置したライトによって、光と影の表情がよりドラマチックなものに
写真右手前、海沿いにあるカフェは街並みに馴染みつつも存在感を放つ。角地にあり道路と2面で接しているため、あえてどこからでも敷地に入れるような雰囲気をつくった。海側の植栽は店内から外を眺める人だけでなく、道行く人の目も楽しませている
撮影:矢野紀行