縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い
敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家

「どういう家なら楽しく住めるか」を考え、住むプラスアルファの要素を加え、他人に自慢できる家をと、常に住む人の暮らしのことや家づくりの満足度を意識しているという建築家の塚本さん。そんな塚本さんが設計事務所を起ち上げて最初の顧客となるM様邸は、敷地条件を生かしたコンセプトワークにも注目してほしい。

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隣地の緑を生かしながら、
前庭、中庭、後庭と繋がる家に

自然豊かな愛知県瀬戸市に計画した木造2階建て住宅のM様邸。周辺は調整区域のため、田畑や住宅が点在するのどかな地域だ。建築家の塚本さんの仕事関係の知り合いだというM様は、親類の土地に家を建てることを決め、塚本さんに相談して設計を依頼。その土地の隣地には、敷地を包み隠すかのように自生した木々が生い茂っており、塚本さんはそんな隣地の草木の緑を借景として取り込みたいと考え、プランニングをしたという。「自然の緑の壁が目隠しとなって、完全には閉ざされていない、開かれた中庭をつくろうと考えました」。

個人で建築事務所を起ち上げて独立後、最初の依頼だったという塚本さん。「隣地の木々から種子が落ちて、その種子から芽が出て、大きく育ち、家になる」というイメージをテーマとして設計。自生する木々の生命力が、良い意味で敷地内を「侵食する」ということを建物の形や配置計画で表現。自然の壁は、車の通る音や人の視線を遮りながら、風で揺れる木々の触れ合う音が耳に心地よい住まい空間を生み出している。

そんなM様邸には、前庭、中庭、後庭があって緑と繋がり、中央に建屋を配した敷地レイアウト。建物の角度のズレがもたらす、奥行きのある空間、高さの異なる四つの屋根、それぞれ違った役割を持つ3つの庭で構成した。前庭は、敷地周辺との共用部としてとらえて、建物と周辺とを緩やかにつなぐ役割を、中庭は隣地の木々を敷地内に取り込むツールとなり、本来は閉ざされた空間となる中庭が、開かれたプライベート空間として家族の憩いの場となる。また、建物の南側に位置する後庭は、M様の所有地で今後、ほかの建物が建つ計画もなく、光や風を室内にもたらして、居住空間を豊かにしている。

さらに、インナーガレージ、寝室のある建屋、平屋部分、2階建て部分と、それぞれの建屋の屋根の形状や高さもあえて異なるようにした。寝室のある建屋は、他の建屋と比べて斜めに配置し、角度を変えた。植物の芽が伸びるのと同じように、奥行きだけでなく、地面から空へと縦方向の奥行きも出すことを意識した設計だ。
  • 広々とした玄関には、和のテイストが好きというM様の好みに合わせて、玉砂利の洗い出しを採用

    広々とした玄関には、和のテイストが好きというM様の好みに合わせて、玉砂利の洗い出しを採用

  • 玄関へ入ってすぐのホール正面には大きなFIX窓を設け、中庭を望めるようにした

    玄関へ入ってすぐのホール正面には大きなFIX窓を設け、中庭を望めるようにした

  • 南北に大きな窓を設けた広いLDK。リビングの天井には垂木を見せる化粧を施し、和のテイストを醸し出している

    南北に大きな窓を設けた広いLDK。リビングの天井には垂木を見せる化粧を施し、和のテイストを醸し出している

  • ダイニングには出窓を設けており、ベンチ代わりに腰掛けることもできる

    ダイニングには出窓を設けており、ベンチ代わりに腰掛けることもできる

暮らしの中にプラスアルファの楽しみや
遊び心を取り入れた設計を意識

M様からのご要望は、「プライベート空間となる中庭を作りたい」「広々としたLDKが欲しい」「寝室はリビングから少し離れた場所におきたい」「インナーガレージが欲しい」ということ。インナーガレージは、ご主人が趣味の車いじりをしたり、アウトドア用品を収納したりする空間として用意。

寝室は、LDKと離れた場所に配し、前述のように建屋自体をほかの建屋と並行ではなく、あえて斜めに配置。天井に化粧で垂木を見せた和モダンテイストのインテリアを意識したというLDKは、中庭と後庭に挟まれる場所に。東西方向に空間が広がるだけでなく、南北方向の壁には大きな窓を設けることで、窓からの視線の抜けをつくって、より開放感を感じられる空間に。

リビングからは中庭を望め、隣地の緑までを見通すことができる。同様に、中庭を囲む建屋のコの字形に沿って広いウッドデッキも設けており、家のどこにいても、緑とともに暮らせる空間を実現。中庭に照明計画にもこだわり、昼間とは違う夜の中庭風景を楽しめるように配慮したという。またインナーガレージは、LDKとの間に中庭を介することで、ガレージで音が出るような作業をしても響きにくいよう防音にも配慮した。

建物は北側正面から見ると平屋に見えるが、奥のLDKのある建屋には、2階建て部分もある。そのため、南側から見た外観と変化のあるデザインになっている。この2階建て部分には勝手口のような出入り口を設け、平屋部分の屋根に出られるようになっている。ガルバリウム素材を採用したこの屋根は、全面をバルコニーのように利用できるよう、一寸勾配程度の緩やかな勾配に。「屋根の上に敷物を敷いて寝転がったり、布団を広げて干したりできるように考えました。将来的には中庭から梯子をかけて、屋根へ行き来するのもおもしろいと思いました」と塚本さん。

M様とのコンセプト打ち合わせの際に、「何か、おもしろいことをしたいですね」と話していて、ほかにも和室には夜、室内の灯りが漏れたときに外からはやわらい光が見えるように丸窓を設けたり、屋根からは可愛らしいくさり樋を採用したりと、プラスアルファの遊び心を取り入れている。設計の際には、「その家に住むご家族が、楽しく暮らせる」ことを意識しているという塚本さん。「自然の生命力が侵食する」というコンセプトワークから、暮らしの中での細やかな楽しみまでが、M様邸には存分に生かされている。
  • インナーガレージの横に配した洋室は、M様の趣味を楽しめる書斎として使用している

    インナーガレージの横に配した洋室は、M様の趣味を楽しめる書斎として使用している

  • 床の間の奥の明り取りになっている障子は、外から見ると丸窓になっている

    床の間の奥の明り取りになっている障子は、外から見ると丸窓になっている

  • 中庭を囲む塀の外側は、木々の隙間を縫うように南北に繋がり、人が通れる小径になっている

    中庭を囲む塀の外側は、木々の隙間を縫うように南北に繋がり、人が通れる小径になっている

  • 庭自体は、M様が自身で手配した造園屋さんの作。庭の照明計画にはこだわり、塚本さんも一緒に考えた

    庭自体は、M様が自身で手配した造園屋さんの作。庭の照明計画にはこだわり、塚本さんも一緒に考えた

撮影:佐治秀保

間取り図

基本データ

作品名
瀬戸の家
所在地
愛知県瀬戸市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
398.6㎡
延床面積
181.01㎡
予 算
4000万円台