周囲を隣家に囲まれた住宅地であっても、外からの視線を気にせず、景色や戸外の空気を存分に楽しめる「中庭」。空間的なゆとりだけでなく、心理的なゆとりをも生み出す中庭は、住まう人の生活をより豊かにします。
ここでは、建築家ならではなの「中庭」を有した実例を紹介します。ぜひみなさまの家づくりの参考にしてください。
中庭が叶えた「パブリックとプライベート」の両立
「家族と個人」のほどよい距離感
京都府木津川市 / 「高の原の家」
中に一歩足を踏み入れると、外観から想像がつかないほどの開放的な空間が出現する。その秘密は中庭。Y邸の中心には中庭が設けられて、各棟と回廊は中庭に面しているのだ。
美しい景色という点では、2階からの眺望も格別。吹き抜けにある階段を登ると、眼下にはリビングと中庭、その向こうに広がる周囲の景色という2つの景色を楽しめる。そして、この家ナンバーワンの眺望といってもよいのは、2階の寝室の先にあるテラスからの眺め。右を向けば町の様子が眺められ、遠くには山焼きで名高い若草山も見える。左を向けば、ガラス越しにリビングや中庭が見える。
さらに、天井に三角に切り取られた開口から入る光が、とても面白い陰影をつくりだしてくれるというおまけ付き。
中庭があることで北が南に。
中心から太陽の光が行き渡る家をつくる
新潟県 / 中庭のいえ
堀井さんやK様が暮らす新潟県の中でも、K邸がある周辺では毎年1mほどの積雪があるそう。しかし風が少し吹くと雪は屋根の上を通り過ぎる感じになり、意外に中庭には降り積もらないのだとか。そうはいっても雪だけでなく大雨が降ることも考えられるため、中庭の水はけについては熟考したという。そこで、コンクリートによる基礎工事より前に、まず中庭から外部に排水する設備を整えることから工事を始めることにした。十分な対策のおかげで「K邸が竣工してから2年経ちますが、雨や雪に関しての困りごとはないようです」とのこと。
室内空間は一般的な平屋の構成を部屋ごとにカットし、それぞれのボリュームを変えずに中庭の周りに配置するイメージ。「中庭を中心とした大きなワンルームのように考えました」という堀井さん。部屋を仕切るものはすべて建具枠の必要がない引き戸にし、また、床も全て同素材でまとめて一続きの空間を強調することで回遊性を生んだ。室内と同じ高さで繋がる中庭のウッドデッキも、ぐるりと一周している。
屋上庭園や中庭の緑を望む開放空間
音楽を楽しむ理想的な環境も
神奈川県鎌倉市 / K邸
中でも、LDKは親しい人と憩う和やかなシーンが目に浮かぶ魅力的な空間だ。「親戚が集まる機会が多いこの家では、LDKは来客をもてなす公の場でもあります。中庭と行き来しながらパーティーなどができるよう、屋外感覚の開放的な空間にしようと考えました」と工藤さん。
天井高3.2mのLDKはそれだけで開放感があるが、さらなる開放感をもたらしているのが床から天井まで大胆に開口した中庭側の掃き出し窓だ。ここは枠の少ないビル用サッシを用いており、たっぷりの自然光とともに、向かいのピアノホールの上につくられた屋上庭園や中庭の緑がダイナミックに目に飛び込む。LDKと中庭には段差がなく、床には同じ素材を使用。リビングと中庭の「地続き感」が増し、室内にいても屋外にいるようで気持ちがいい。
小さな家でも広々と暮らしたい。 中庭を配した、開放感あふれる住まい
栃木県宇都宮市 / K邸
の家の開放感に一役買っているのが、中庭の存在である。中庭スペースは部屋にすることもできたが、床を増やすと工事費も上がってしまう。ここをあえて部屋にしなくてもすでに必要なスペースは配置できたということもあり、中庭にしたのだそう。
また、LDKを挟んだ反対側にはテラスも設けられており、左右から明るい光が入るため室内も非常に明るい。建物の中だけでなく、外側のスペースもうまく活用して住環境をより良いものにする。そんな吉田さんの工夫が感じられるデザインだ。
家の価値は広さや部屋数ではない 中庭が生み出した、自然とつながる家
大阪府吹田市 / U邸
橋野さんが自邸を建てるのに最も重視したのが「自然を感じながら人間らしい暮らしができる家」ということ。
橋野さんはそれを実現するための1つとして約4.5帖の中庭を設けることとした。通常の発想であれば、土地に対してどれだけ床面積を広くできるか、部屋数を増やせるかということになりがちだが、橋野さんはあえて部屋数を犠牲にしても、中庭を設けた。
「抜け感・解放感を大事にしたかったんです。来ていただいた人からも、『広く感じる』と言っていただけています」と橋野さん。
外観からはこの家に中庭があるようには思えないが、それがとてもよい役割を果たしている。
八角形の中庭、坪庭、前庭、それぞれ完ぺきな役割分担
愛知県一宮市 / I邸
Iさんが建築家の渡辺さんへ、最初にだした要望は中庭だった。お子さんは小学校にあがる前の元気な男の子がふたり。子どもたちのために、思いきり走り回って遊べる場所を家のなかにつくりたいと考えていた。名古屋の郊外の広い土地だったからスペースの制約はない。どんな庭にしようかと、井川さんと渡辺さんは何度も検討をくり返した。
現在の芝生の広場に決まるまでには、砂場やすべり台がある案もあったし、遊ぶための広場と眺めるための広場を分けて、いくつも広場をつくる案もあった。「最初は正方形の案もありましたが、四隅を落として、どの部屋にも面しているようにした方が、より中に庭がある感じが出ます」と渡辺さん。建物全体のバランスを考え、最終的に現在の八角形の芝生の広場に落ちついた。
静かな中庭と明石海峡
2つの景色を望む家
兵庫県淡路市 / 二つの景色が望める家
ベンチに腰掛けると、目線の先には主役の1つともいえる中庭が目に飛び込んでくる。津村造園と協力してつくられたというこちらの庭。中心には苔庭が据えられており、その周りに山もみじや岩、水琴窟が配されている。小さなスペースではあるが、日本庭園らしい趣を感じさせる美しい庭だ。
この庭に色を添えるのが、奥に配された離れのような和室。こちらが茶室のような佇まいで、中庭との一体感を醸し出している。見えるものすべてを1つの風景としてまとめた、みごとな設計である。
思い出と上質素材が調和。
住み心地も抜群の、中庭のある家
静岡県焼津市
心地よさをもたらしているスペースの1つは、齋藤さんの提案で設けた中庭だ。「建物は中庭を囲むコの字型。空間的な豊かさや緑を眺める楽しさを生みますし、中庭を介して、離れた部屋にいる家族の気配がわかる一体感も得られます」と齋藤さん。
施主さまご一家のライフスタイルも丁寧に反映している。仕事をもち忙しい奥さまのために、リビングから出る広いバルコニーは洗面室近くにも出入口を設けて洗濯動線を良好に。また、気持ちよく家事ができるようキッチンに中庭が見える窓をつくり、来客から贈答品をいただく機会が多いと聞けば玄関に荷物を置けるベンチを造作。齋藤さんはどの家づくりでも、こうした細やかな配慮で使い勝手のよさをカスタマイズしてくれる。
平屋の採光性を配慮した設計
コンセプトは「箱をつなげた家」
愛知県津島市 / 箱つなぎの家
NATURE SPACEでは、「設計を考える上では、土地を平面としてとらえるのではなく、高さなども考慮して空間全体として立体的にとらえます」という。採光を確保しつつ、空間を広く見せるために配置した2つの中庭は、空間を区切る役目も持たせることで、仕事部屋と居住スペース、LDKと子ども部屋をそれぞれ区切っている。「知り合いの家族が遊びに来た時は、子どもたちはウッドデッキや子ども部屋で遊び、親たちはリビングで談笑していることが多いのですが、子どもたちの騒ぎ声はあまり気にならず、姿は見えるので安心できます」とN様。仕事場にいても、同様に生活空間と仕切られているため生活音は気にならないが、ちょっと体をずらして覗いてみれば、家族の様子がうかがえる距離感も気に入っているという。