この土地にはどんな家を建てられるだろうか?」と、お悩みになる方が多いのではないでしょうか。
建ぺい率、容積率、斜線制限、接道義務、さらには地域特有の環境協定など、土地には様々な制約があります。
希望通りの広さの土地を購入されたとしても、これらの制約によりイメージ通りの住まいを建てられないケースが多々あります。
複雑な建築規制を解決するためには、行政や地元の協定窓口などとの調整や確認が必要不可欠となります。
ここでは、建築家の豊富な知識と経験を活かし、制約の多い土地でも機能性とデザイン性を両立した魅力的な住まいをご紹介します。
ぜひみなさまの住まいづくりの参考にしてください。
防火地域ながらも、外壁の安心に囲まれて家族の将来を見守り続ける木造の家
愛知県名古屋市 / K邸
名古屋市内の商業地に広い土地を持ち、戦前から住み継いでいるK様は、商業地とはいえご近所同士のつながりが深く、昔ながらの人の温もりあふれるこの土地を愛していた。そんなK様が、ご実家の広い土地の一角に、娘さんご夫婦の新しい家を建てたいと、「裕建築計画」の浅井さんに相談。この場所が防火地域であることから、『予算が多く必要なのでは?』『工法が限られるのでは?』など、気にかけていた。「建物の構造は、鉄骨に耐火被覆を加えるか、RC造でないといけないと思っていました。また、建築部分の敷地が狭いこと、敷地の一部を飲食店舗に貸していたり、奥に死地があったりと、土地の形態が複雑なことも不安要素になっていました」と浅井さん。
そのため、当初の計画地設定から苦慮。K様の敷地は、借地として飲食店舗に貸している部分もあるため、建物が隣接している。そんな敷地内の建物との関係なども含めて、考えを整理していったため、プランづくりには1年以上かかったという。
「K様の土地に建つ建物の現在のレイアウト、10~20年後にはどうなっているか、30年後は?50年後は?など、将来的にどう変化する可能性があるかを含め、新しく建てる家を長く住み継いでいけるよう、配置計画についても複数案を提示して、一緒に検討していきました」。
条件・規制クリアもぬかりなし。
建売とは違う“オンリーワン”の家づくり
東京都文京区 / S邸
地上3階建てにすることができないわけではない。しかしそうなると、法規制のさまざまな制約が生じてくる。その1つが耐火規制に絡む「ナチュラルな木を多用した内装」だ。つまりSさまが望む「アジアンヴィラ風のリビング」にぜひとも欲しい、木の風合いを生かした天井をつくれなくなってしまう。
また、この土地は敷地の奥が北になるのだが、北側には斜線制限がある。南の隣地の採光を遮らないよう、建物の北側の高さを制限する法規制だ。S邸の敷地はこの規制が厳しく、地上3階建てにすると北側の天井がかなり低くなる。同じ3層の建物でも地下1階+地上2階建てにしたのはこれらの制約を回避するためで、要望・生活しやすさ・規制のバランスを熟考した結果なのだ。
木製ルーバーが暮らしを守る、中庭でつながった二世帯住宅+アトリエ
愛知県名古屋市 / S邸
住宅部分は親子各世帯の機能を完全に分離した二世帯住宅。笹野さんは子どもを含む家族で暮らす十分なスペースを、親世帯である母親は一人の暮らしながら近所に住まう姉家族が遊びに来ても泊まるのに困らない部屋数と、趣味であるピアノ室を、という希望があった。建築事務所には、笹野さん自身を含む最大5名が働けるワークスペースと打ち合わせルーム、資料室、トイレが必要。しかし、ここは敷地面積270㎡、第一種低層住居専用地域という建ぺい率や総床面積の制限が厳しい場所でもあった。「この土地条件に対して必要とされるボリュームはあまりに過大な印象で…。難解なパズルを解いているようで、何度もプランを組み立てては潰しての繰り返しでした」。
解決への糸口となったのは、駐車場だ。3台分の駐車場の屋根を諦め、道路に面した南面に配置したことで、住宅部分がシンプルな四角形になり、東側の台形となった土地を建築事務所とするプランにたどり着いた。「木造でも合理的な二間…、数字で言うと3640㎜という建築で一般的な寸法のグリッドでほとんどの設計ができ、明快なプランになりました」笹野さんはそう振り返る。
難条件をクリアして快適に。狭小地のハイデザイン・ローコスト二世帯
東京都台東区 / 浅草橋の家
下町情緒が残る東京・台東区の一角に、街の景観に馴染みながらも人目を引く、洗練された建物がある。建築家の角倉剛さんが小さなお子さまをもつYさま夫妻と、Yさまの叔父さまのために設計した二世帯住宅だ。
敷地は13坪とコンパクトな上、既存地下配管の関係で基礎工事可能な範囲が限られ、1階で家を建てられる広さは約11坪。また、耐火規制で木造よりコストが高い鉄骨造にする必要があり、予算バランスも考えた計画が求められた。
難易度の高い家づくりだったが、Yさまは角倉さんが手がける住宅を見て、「こんな素敵な家に住みたい」と依頼を決めた方。そのためY邸は、「敷地条件や法規制をクリアして、ハイデザイン・ローコストの二世帯住宅をつくる」がテーマとなった。
広々とゆとりあるLDKを実現した、
天井とルーフテラスの工夫とは?
愛知県一宮市 / I邸
土地は南北に細長く、東にたなびく旗竿地。土地の西面、旗部分は隣家に、竿部分は幅員2mの細い道路に接する。この複雑な土地条件は、「高い天井を設け、なるべくLDKを広く取りたい」という第一条件をクリアするにあたり最大のネックとなった。
西面道路の斜線制限による高さの制約は、かなり厳しい。そこで建築家の川本さんは、旗部分に配置する建物をなるべく隣地側へ寄せることとした。その上で、どうしても道路斜線にかかってしまう場所を、玄関とルーフテラスにすることで、大部分の室内空間に高さ制限の影響が出ないようにした。
「隣地斜線は、道路斜線よりも高さ20m分のアドバンテージが得られますので、一般的な住宅であれば高さに影響を与えることはありません。また、施主が敷地内でいずれ畑をしたいとお話されていたので、建物をなるべく隣地側に寄せ、竿部分を将来的に畑として利用できるようそのまま残すことも意識しました」。
旗竿地、斜線規制…。土地のデメリットをみごとに解決!
開放的で明るい「スキップフロアの家」
東京都目黒区 / S邸
ホームページを介して山口さんと出会い、約1年間にわたり、山口さんと相談しながら土地を探していたSさん。ようやく見つけた土地は、四方を家に囲まれた旗竿地だった。接面道路もジャスト2m。車が入れられるかどうかも不安だったというSさん。しかし、相談を受けた山口さんはこんな印象を持ったという。
「斜線の制限など難しい面はありましたが、うまく利用すれば道路に面していないメリットを生かしてプライベートな感じの住宅ができる期待感がありました。この土地は、竿の道路に向けて真南に10m以上視線が通っているんです。これは都心では希少だと思いました」。
すでに山口さんとの信頼関係ができていたSさんも、この山口さんの意見に後押しされ、土地の購入を決心。こうして2016年の暮れから、山口さんとSさんの家づくりがスタートすることになる。
設計当初Sさんから山口さんに寄せられた希望は「駐車場1台分と、2部屋の個室+ゲストルーム。これらを確保しつつ、できるだけ開放的な家にしたい」というシンプルなものだった。ここで問題になったのが、斜線規制である。「この土地の場合、斜線の関係で南側に3階部分を集めないといけなかったのですが、僕は視線が開ける南側に庭(空間)をつくりたかったので、これは避けたかったんです」。
豊富な知識・経験を活かし、
制約の多い土地での家づくりを可能に
東京都世田谷区 / Y邸
建築家の中川龍吾さんが設計を担当したこちらの家づくりは、「この土地で家の建て替えが可能だろうか?」という、基本のキともいえる相談からスタートした。
施主さまはお寺の若い住職さんで、住まいはお寺の本堂とつながる庫裏(くり)と呼ばれる部分。住職ご夫妻とお子さま1人の3人家族が住み、将来はお母さまも一緒に暮らせる家への建て替えを考えていたのだが、お寺の境内~つまり建築予定地には多くの建築規制があった。昔ながらの木造の本堂があったり、この地域ならではの環境協定があったりなどである。そのため、家を建てる際は行政の多くの部署や地元の協定窓口などとの調整や確認が必要で、設計者にはこれらの複雑な制約を突破することが求められた。
対応可能な設計者は限られるであろう難しい相談だったが、中川さんは有名建築家のもとでキャリアを積み、数々の著名な建築物を設計してきた人物だ。豊かな経験と知識でスムーズに関係各所との調整を進めて制約をクリアし、晴れて、若き住職一家の新たな住まいがつくられることになった。