難条件をクリアして快適に。
狭小地のハイデザイン・ローコスト二世帯

敷地条件や予算などの制約を逆手に取ったアイデアあふれる設計で、「ハイデザイン・ローコスト」という希望をかなえた建築家の角倉剛さん。プロならではの着眼点と高度なスキルをかけ合わせ、狭小地で快適な二世帯住宅をつくり上げるまでのストーリーを紹介する。

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敷地、予算、法規制。
数々の制約のなかでつくる二世帯住宅

下町情緒が残る東京・台東区の一角に、街の景観に馴染みながらも人目を引く、洗練された建物がある。建築家の角倉剛さんが小さなお子さまをもつYさま夫妻と、Yさまの叔父さまのために設計した二世帯住宅だ。

敷地は13坪とコンパクトな上、既存地下配管の関係で基礎工事可能な範囲が限られ、1階で家を建てられる広さは約11坪。また、耐火規制で木造よりコストが高い鉄骨造にする必要があり、予算バランスも考えた計画が求められた。

難易度の高い家づくりだったが、Yさまは角倉さんが手がける住宅を見て、「こんな素敵な家に住みたい」と依頼を決めた方。そのためY邸は、「敷地条件や法規制をクリアして、ハイデザイン・ローコストの二世帯住宅をつくる」がテーマとなった。

完成したY邸は、スッと伸びた4階建てのシャープなラインも、上階だけ張り出したデザインも、クールな色使いも文句なしにかっこいい。シンプルなのに印象に残り、「素敵な家に住みたい」というYさまの思いにしっかりと応えている。

「期待通りの住まいができ、とても満足しています」とYさま。「角倉さんはこちらの希望の取り入れ方と、プロ目線の提案のバランスがすごくいいんです。わからないことは丁寧に教えてくださるので、全て納得して進めることができました」と振り返る。しかし大満足の住まいができるまでには、どんな条件下でも最適解を出す角倉さんならではのハイレベルな着眼と設計力があったのだ。
  • 街並みに溶け込みつつも目を引く外観。下半分のボリュームを抑え、3、4階が張り出したデザインが印象的

    街並みに溶け込みつつも目を引く外観。下半分のボリュームを抑え、3、4階が張り出したデザインが印象的

  • 1、2階は奥に寄せて前庭をつくり道路との距離を確保。緑の彩りと壁から跳ね出した外階段で洒落た佇まいに

    1、2階は奥に寄せて前庭をつくり道路との距離を確保。緑の彩りと壁から跳ね出した外階段で洒落た佇まいに

制約をデザイン性と快適性に転換。
プロの技が光る3つのポイント

Y邸の外観のかっこよさには、「建物のボリューム配分」「窓」「階段」という3つのポイントがある。特筆すべきは、いずれもデザイン性だけでなく、住み心地や制約のクリアなど実利的な目的も果たしていることだ。

まず、「建物のボリューム配分」を見てみよう。Y邸では予算から逆算して建物のボリュームを最初に決めている。それをどのように配分するかが、最初の検討となった。
Y邸は1、2階のボリュームが奥まった位置につくられ、4階のボリュームが道路側につくられている。このバランスが立体的な魅力となっているのだが、実は1階を小さくしたのは、道路側に前庭をつくり、屋外とのつながりや道路と密接しない心理的なゆとりを生むためだった。さらに2階も小さくしたのは、前庭の上方に開放感を出すためだ。また3、4階のボリュームが道路側にあることで、3階奥にバルコニーが設けられている。

では「窓」はどうか。窓の位置は内部空間への影響と表情ある外観をつくり出すことを同時に考え決められている。印象的なのは、4階の道路側にあるYさま世帯の子ども室の窓だ。ここは端部の外壁の抑えがない、立面の幅一杯の窓で、シャープな印象を外観に与えている。しかしこの窓は「家族が増えて子ども室を2分割した際、各室の非常用進入口(消防隊が入るための窓)に必要な窓幅を確保する」という、条件を解決するための窓でもある。

最後に「階段」。2階玄関に続く外階段は宙に浮いたようなデザインで、外観の洒落たアクセントになっている。ところがこれも、先述の地下配管の制約で、地面に基礎をつくれなかったことから生まれたデザインなのだそう。

条件や制約を完璧にクリアするどころか、デザイン性や快適性に転換してくれるとは、住まい手としてこれほどうれしいことはない。聞けば聞くほど角倉さんのアイデアとセンスに驚き、「そこまで考えてくれているのか!」と感動してしまう。
  • 叔父さま世帯の1階LDKは前庭と同じモルタルの床。前庭との一体感が増し、屋外とつながる心地よさがある

    叔父さま世帯の1階LDKは前庭と同じモルタルの床。前庭との一体感が増し、屋外とつながる心地よさがある

  • 叔父さま世帯の室内階段。宙に浮く踏み板、床と平行する手すりの支えなど、個性的なデザインで抜群の存在感

    叔父さま世帯の室内階段。宙に浮く踏み板、床と平行する手すりの支えなど、個性的なデザインで抜群の存在感

心地よく暮らせる
ハイデザイン住宅をローコストで

Y邸の室内も紹介しよう。二世帯は完全分離されており、2階の道路側と1階が叔父さま世帯、2階の奥と3、4階がYさま世帯という構成だ。

前庭から入る叔父さま世帯は1階がLDK。床は前庭と同じモルタル仕上げなので地続きとなった広がりを感じ、ウッドフェンスで囲われた前庭もリビングの一部のよう。光と緑を感じる心地よい空間となっている。

一方のYさま世帯は、外階段でアプローチする2階奥の玄関から入り、3階へのぼると2面採光の明るいLDKが広がる。4階には主寝室や子ども室などが配され、動線や住み心地も抜群だ。

都会的なモノトーン調の内装のなかでも目に留まるのは、各世帯のLDKにある室内階段だ。角倉さんは外階段と同じく宙に浮いたような軽快な階段をつくり、手すりの支えを床や踏み板と平行させる珍しいデザインで、オブジェのような存在感をもたせた。予算を抑えるため、内装はあまり余計なことをしないように仕上げたというが、階段の印象が空間の質を上げている。

角倉さんに、狭小地で理想の住まいをつくる秘訣を聞いてみた。すると、「できることが限られるケースが多いので、基本的な要素をしっかりつくり込むことが大切だと思います」とのこと。

確かにY邸は高価な素材を使わずとも、建物のボリューム配分や窓、階段など、「基本的な要素」が考えつくされ、ハイデザイン・ローコストの二世帯住宅となっている。信頼できる設計力と、秀逸なデザイン力を兼ね備えた角倉さんの力量をあらためて知る好例だ。人生の一大イベントだからこそ、そんな角倉さんに家づくりを託す人が後を絶たないのもうなずける。
  • Yさま世帯の3階LDKで東を見る。3階以上は下の階よりボリュームがあるため広々としており、家族そろってゆったりとくつろげる。東の道路側の窓からは明るい自然光が入ってくる

    Yさま世帯の3階LDKで東を見る。3階以上は下の階よりボリュームがあるため広々としており、家族そろってゆったりとくつろげる。東の道路側の窓からは明るい自然光が入ってくる

  • Yさま世帯の室内階段。叔父さま世帯の黒い階段とデザインをそろえ、色はホワイトにしている。見た目が軽やかで、空間を広く感じる効果も。洗練されたデザインの階段があると、インテリアの質が上がる

    Yさま世帯の室内階段。叔父さま世帯の黒い階段とデザインをそろえ、色はホワイトにしている。見た目が軽やかで、空間を広く感じる効果も。洗練されたデザインの階段があると、インテリアの質が上がる

  • 4階の子ども室から通路側を見る。出入口の引き戸は、子ども室を2室に仕切って使うこともできるよう2つ用意してある。引き戸の右奥に見えるのが主寝室。家族の距離が近く、お子さまも安心して眠れる

    4階の子ども室から通路側を見る。出入口の引き戸は、子ども室を2室に仕切って使うこともできるよう2つ用意してある。引き戸の右奥に見えるのが主寝室。家族の距離が近く、お子さまも安心して眠れる

間取り図

基本データ

作品名
浅草橋の家
所在地
東京都台東区
家族構成
2世帯
間取り
1LDK+2LDK
敷地面積
43.88㎡
延床面積
115.69㎡
予 算
4000万円台