建築家ならではの匠の技が光る  「傾斜地」に建つ家特集_VOL.2

住まいを計画する上で、一般的に懸念材料として考えられがちな「傾斜地」。
一方で、土地の特性を巧みに活かすことで、「傾斜地」という懸念材料をむしろメリットに変え、魅力的な空間につくり上げることは、腕のいい建築家に任せれば可能です。
ここでは「これぞ建築家が建てる家」といいたくなる傾斜地に建つ家を紹介します。
ぜひみなさまの自分らしい住まいづくりの参考にしてください。

傾斜を生かし、ストレスなく暮らす。 広がる街並みや山々の絶景が楽しめる平屋

群馬県高崎市 / GABLES HOUSE 高崎の家/傾斜地に建つ絶景平屋の家

松下さんは「傾斜を生かして景色を堪能できることはもちろんなのですが、加えて、傾斜によるストレスを感じないような家づくりをしなくてはと考えました」と話す。近隣には1階を駐車場にし、2階から上を生活スペースとしている家が多い中でK邸は平屋としたのも、傾斜をできるだけ意識せずに生活できるようにするため。さらに、Kさま夫妻がこの先、終の棲家として安全に暮らすために今できることの工夫も、K邸にはたくさんある。

まず、駐車場から玄関までの高低差をできる限り少なくした。玄関までのアプローチに現在ある6段の階段も将来はスロープにできるという。また、リビングとダイニングの間の30cmの段差は上り下りがしやすいように1段ステップが設けられている。

大屋根の佇まいはまるでパワースポット。朝日を浴び、活力が得られる住まい

山口県岩国市 / 山手の家

日の光や空、風などを家の中に存分に取り入れられる「山手の家」。それだけにとどまらず、テラスに水盤をダイナミックに配置し、水も組み入れた。家の完成後、「つくってよかった」とお施主さまの特にお気に入りとなったという水盤。家の中からでも水紋から雨を知ったり、波によって風の強さを伺うことができたりと、自然を近しい存在とすることに一役買っている。

プランをブラッシュアップしていくにつれ「家にいながら、外部に、自然にどう繋がるかを考えるようになりました」と西本さんは語る。それは、これまで述べてきた自然との関わり方を見てもよくわかるが、さらによく表現している部分が家とテラスの関係だ。全面開口した東側の壁面からフラットに続くテラスは、大屋根もあり室内との境界線があいまい。窓を開けていると知らずのうちに外と中を行き来していることがあるほどに、ナチュラルに続いている。

高低差のある土地をあえて活かす 設計の力で、ウイークポイントを強みに

神奈川県川崎市 / 生田の家

実はこの家が建っている土地は、高低差がある土地。東西2方向道路で、約1.6メートルの高低差があり、さらに南北方向にも傾斜があった。通常こういった高低差のある土地の場合、切土で土地のレベルを下げるか、盛土や擁壁で高くする、地下部分を車庫にするなどで、土地を平坦に整形した上に家を建てるのが一般的だ。実際、ハウスメーカーが手掛ける物件では、そういうものが多い。

しかし、中尾さん・重盛さんは、K邸の土地の形状をあえてそのまま生かすという方針をとった。
「私たちは、それぞれの土地に合った設計をすることを大切にしています。ウイークポイントとも思える高低差も、その土地の個性なのです。弱点があれば、それをいかに設計の力で解決できるかが腕の見せ所です」と中尾さん。

別府の地で愛犬とともに暮らす 理想のライフスタイルを叶えた住まい

大分県別府市 / house-N

家を外から見てまず目を惹くのが、リビングの外側に広がる芝生の庭だ。別府湾に向かって傾斜する扇状地という立地。その高低差を活かした庭はドッグランを兼ね、「リビングのカウンターに座ると庭で遊ぶ愛犬と目線が合うよう、少し地盤を上げています」とのこと。また、芝生の緑が砂防公園の豊かな環境と連続する気持ちのいい空間となっている。

敷地を囲む塀はやや低いように感じられるが、これもリビングから桜並木が眺められるよう高さを計算。あえて塀を低く抑え圧迫感のない軽やかな形状にすることで、地域の人々とコミュニケーションを促す狙いもあった。Nさま夫妻のお人柄ゆえか、今では塀越しに近所の方々と会話することもしばしばだとか。

天空の別荘地で気分転換 願いを叶えたリフレッシュ空間

静岡県三島市 / 芦ノ湖高原の家

富士山と駿河湾という趣の異なる景色が同時に楽しめると人気の、芦ノ湖高原別荘地。川崎市に住むAさま夫妻は、週末を箱根で過ごしたいとこの地に土地を購入、理想を全部詰め込んだ別荘づくりを始めた。

ご主人は寒冷地での単身赴任の体験から、家づくりはその土地の気候に精通した人に依頼すべきだという考えを持っていた。購入した土地は傾斜地で、崖にも詳しいほうがよいというポイントもプラスして設計事務所や施工会社をリサーチ。そこで米村和夫建築アトリエの米村和夫さんと出会った。

北向きでも明るく、快適省エネ生活。 雄大な景色を美しく楽しむ家

福岡県福岡市 / J邸

ここは福岡市内の住宅街。なだらかな丘陵地に無数の住宅が並ぶ中、日が落ちるとひときわ目立つ家がある。H2DO一級建築士事務所の久保和樹さんが設計したJ邸だ。

あたりが暗くなった頃、なぜJ邸が目立つのか。それはほかの家よりも窓が際立って大きく、家の明かりがともると、その大きさがいっそう目につくからだ。

それにしても、どうしてJ邸以外の家は窓が小さいのだろうか? 「それは、大開口を設けたJ邸のLDKが北向きだから。ほかのお宅は北側に大きな窓をつくっていないので、J邸が目立つんです」と久保さん。