北海道や東北、北陸地方などの寒冷地に住む方々にとって、「冬の寒さ」対策をいかに施すかは重要な課題です。
外は極寒であっても、家の中は寒さと無縁の、快適な環境を作りたいもの。
そのためには「高断熱」や「高気密」、「基礎断熱」「床断熱」など、設計的にも施工的にも、知識と経験が求められます。
ここでは、建築家ならではの設計と工夫で、寒冷地でも快適に過ごせる建築事例を紹介いたします。
ぜひみなさまの住まいづくりの参考にしてください。
大きく窓を開口しても夏涼しく、冬暖か。
高性能の設備で、ますます暮らしやすい家
北海道札幌市 / 下見天井の家
北海道札幌市にあるT邸。この家の設計を担当した株式会社ホリゾンアーキテクツ 一級建築士事務所の一原寿寛さんによれば、T邸は高い断熱性能が要求される北海道でも抜きに出て高性能な家なのだという。
札幌市には独自の、高断熱・高気密住宅の基準を定める「札幌版次世代住宅補助制度」がある。T邸はその中でも設計的・施工的に熟練の技術が求められる、最上位の等級「トップランナー」に認定されているのだ。その実力はUA値が0.17[W/㎡・K]!
では、具体的にどんな対策が取られているのだろう。まず、T邸はほぼ全ての窓をトリプルガラスとした。トリプルガラスは、一昔前の断熱材を入れた壁と同程度の断熱性を持つという。さらに一原さんは、トリプルガラスが持つ日射遮蔽と日射透過の機能を建物の方位によって使い分けた。
高気密・高断熱を採用した
「パッシブデザイン」の家
長野県佐久市 / 下平尾の家
佐久市郊外ののどかな田園風景のなかに「下平尾の家」はある。この辺りは積雪量こそ少ないものの、冬の寒さは相当厳しい。厳冬期にはマイナス15度にも達することもあるそうだ。それゆえ、住宅も寒さに対する設備は必要不可欠。当然ながら、下平尾の家も寒さ対策をしっかり考えて設計されている
「いわゆる高気密・高断熱の家です」。そう話すのは、設計を手掛けたアイネクライネ一級建築士事務所の伊藤克弘さんだ。
数ある断熱材から下平尾の家で採用しているのは、吹付け硬質ウレタンフォーム(A種1H)。自己接着力がある発泡性の素材で、現場で吹き付けて施工するため住宅内部の隅々まで隙間なく充填することができるのが吹付ウレタンフォームの特徴だが、そのなかでもA種1Hはクラス最高の断熱性能を誇り、湿気も通さない性質から壁内結露の心配もない。
まるで公園!広い庭とテラスで
内と外がつながる、開放的な住まい
青森県南津軽郡 / 福島の家
「内部空間と外部空間の関係性や可能性」を常に考えて設計するという葛西さん。
今回も公園の雰囲気に近づけ、空を近く感じられるよう、建物の高さはミリ単位で工夫したそう。建物の高さを抑えることで建物の圧迫感を下げ、コストも下げることができたのだという。
寒冷地ということで外部空間を取り入れることによる断熱の問題が気になるが、外壁の断熱を外張り断熱と充填断熱の付加断熱工法とし、床下空間にも寒冷地用のエアコンを2台入れ、冬でも温かく過ごせるのだそう。
その甲斐あってKさんも、新たな住まいでとても気持ちよく暮らしていらっしゃるとのこと。「リビング・居室がすべてテラスに開いているため、カーテンのない生活がとても開放的だそう。テラスから空が見えるところも気に入っていただけているみたいです」と、葛西さんも嬉しそうに笑う。
薪の活用や高気密・高断熱
SDGsや地産地消にもつながる家づくり
長野県中野市 / 土間の家
実はこの家は、自然エネルギーを上手に活用し、省エネを実現した「パッシブハウス」でもある。
その手段の1つに「薪」の活用がある。県土の約8割が森林といわれる長野では、薪ストーブの家も珍しくない。薪の入手のしやすさや保管場所などを考えても冬場の暖房として活用されることも多いのだろう。
先程ナカタさんは、薪ストーブは暖房のメインではないと言っていたが、では「薪」はどのような活用をされているのだろう? その秘密は家の一部につくられた「ボイラー室」にあった。ここに、「薪ボイラー」がある。詳細な説明は割愛するが、薪を燃やして得られた熱で湯を沸かし、その湯が家の中に張り巡らされたパイプを通り、家をじんわり暖め続けるのだという。湯の一部は、お風呂やキッチンの給湯としても利用できる。
さぞや、大量に薪を使うのだろうと思いきや、
「日中は、屋根にある太陽光の集熱パネルも働いてくれるので、薪は一度に20~30本入れておけば、3日くらいはもちます」とナカタさん。
1日に薪10本程度で、長野の寒い冬を快適に過ごせるのだ。
「この家がほしい!」から始まる 狭小住宅の完成形
新潟県新潟市 / ministock-10
M邸の外観は、鈴木さんが手掛ける他の物件同様、耐久性やメンテナンス性を考えた、新潟県産の杉板とガルバリウム鋼板。杉板は、経年によって風合いが変わり“味”にもつながる。
玄関扉を開けるとそこは、家の中に玄関フード(風除室)が組み込まれたような土間空間。冬の寒さが厳しい新潟では、外と中との間に中間層を設けることで、気密性や冷暖房の効率を上げるのだ。また、この土間空間は、ちょっとした収納スペースにもなる。ベビーカーや雪かきの道具など、外で使うものの一時置きとして重宝する空間だ。
室内に入ると広がるのが6畳ほどの空間。実はこのスペース、奥様のお母様の形見であるという思い出のグランドピアノを置くために考えられたもの。家族が出入りするときにお母様のことを思い出したり、訪れるお客様を迎えるインテリアにもなる。隣の部屋との境界を、障子とすることで洋のインパクトの強いピアノを、和のテイストでやんわりと包み込むという和洋折衷。また家の中心近くにあるため、気密性・断熱性の高さも相まって、外への音漏れは驚くほど小さいという。