友人が集まるレトロポップな洗練空間
思い出が息づく居心地抜群の『キジノイエ』

「友達と楽しく過ごせる空間にリノベーションしたい」。施主さまの要望に応えてフレイム一級建築士事務所が提案したのは、吹抜けの天井にひと工夫したユニークなプラン。レトロ×80’s風の洗練空間を引き立てる内装や家具の情報も要チェックだ。

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友人をたくさん呼べる
居心地満点の空間をつくりたい

たいていの人は、この家の2階に上がると「本当に家なのかな?」と思うのではないだろうか。それくらい、内装も家具もお店みたいに洗練されて個性的。中でも目を引くのはリビングの吹抜けだ。最大で1.5階分ほどある高い天井は斜めになっていて、あちこちに四角い穴が開いている。しかも、穴の縁には1羽のキジ。もちろん本物ではなく置物のキジだが、これは、この家が『キジノイエ』と名付けられた理由の1つでもある。

天井でキジが見守るこの部屋は、施主のAさまが今回ご実家で一人暮らしをすることになった際、リノベ―ションしてできた空間だ。Aさまはフレイム一級建築士事務所(以下、フレイム)の小俣忠義さんと金子有太さんに、築30年ほどを経た建物の耐震強化と共に2階のフルリノベーションを依頼。以前にフレイムが設計した友人の住宅をご覧になっており、居心地やデザインを気に入ってのことだった。

そんなAさまの要望は、友人を呼んで楽しく過ごせる空間をつくること。改修前の2階は「和室2間+納戸+小屋根裏」だったが、障子仕切りを減らして小屋根裏の床もなくし、「吹抜けの広いリビング+寝室」というシンプルな間取りにすることが決まった。

小屋根裏があったところの床をなくして吹抜けにすれば高い天井が誕生し、開放感たっぷりのリビングができるのは間違いない。しかしフレイムの提案は、これだけでは終わらなかった。現在お店を経営しているAさまは雑貨店で働いていた経験があり、インテリアにも抜群のセンスをお持ちの方。そこで小俣さんと金子さんは、より素敵な空間を楽しんでいただきたいとの思いから、一般の住宅ではなかなか見ない、普通ならプレゼンを控えてしまうようなアイデアを提案。それが、冒頭でご紹介した天井のキジにつながっていくのである。
  • お店みたいにかわいいレトロポップな空間は、居心地も抜群。日中は南一面の連続窓からたっぷりと光が入り、とても明るい。ストリングスカーテンの先は小上がりになった寝室(写真奥)。この小上がりの一部はリビングのベンチとして使える

    お店みたいにかわいいレトロポップな空間は、居心地も抜群。日中は南一面の連続窓からたっぷりと光が入り、とても明るい。ストリングスカーテンの先は小上がりになった寝室(写真奥)。この小上がりの一部はリビングのベンチとして使える

  • 造作の吊戸棚。ホワイトバーチ材の塗装は試行錯誤し、断面の縞模様を残しつつ、深い色合いを出すことに成功

    造作の吊戸棚。ホワイトバーチ材の塗装は試行錯誤し、断面の縞模様を残しつつ、深い色合いを出すことに成功

お気に入りのキジをどこに置く?
吹抜けを生かしたデザイン天井

フレイムの2人のアイデアはこうだ。

小屋根裏の床をなくして新たにつくる吹抜けの内側に、意匠の1つとして斜めの室内天井を入れる。その上に残された小屋根裏の壁と天井は、コストを抑えるために手を入れず、そのままブラックに塗装。斜めの天井にはランダムに四角い穴を開け、先述のキジの置物をあたかも生きているようにとまらせる──。

このキジはAさまが幼い頃から家にあり、「やひち」と呼んで親しんでいたものだそう。リノベ後もどこかに置きたいというAさまの相談に対し、「天井」を提案する小俣さんと金子さんの発想にはびっくりだが、2人は「賛同してくださるAさまがすごいんです。商業空間的な発想を受け入れてくださり、とても感謝しています」と楽しそうに振り返る。

穴の開いた斜めの天井なんて奇抜に思えるが、完成してみると、この天井のおかげで、よく見られるシンプルな吹き抜けよりも空間が格段にランクアップしていることに気づく。まず、以前の小屋根裏にあった南向き窓からの直射日光を天井がほどよくバリアし、室内全体を上からほんのり明るくする間接光に変換。また、抜け感を生む四角い穴も、そこからランダムに差し込む陽光も、好奇心を刺激するブラック塗装の屋根裏も、全てが住宅っぽくない洗練された雰囲気を生み出している。

何より、慣れ親しんだキジと一緒に暮らしているかのような「室内を見守るキジ」という演出は、一人暮らしを始めるAさまの心をホッと和ませてくれるに違いない。単に「面白い」だけではない、デザイン性、住み心地、そして住まう人の心も豊かにする、フレイムらしさを実感できる仕上がりとなっている。
  • リビングの一角には小上がりの寝室があり、映画の主人公が暮らすプライベートルームといった雰囲気。ほどよく壁で囲い、ベッドはリビングから見えない配置としている。出入口のストリングスカーテンは繊維の街・群馬の桐生で生まれた『Lineview』

    リビングの一角には小上がりの寝室があり、映画の主人公が暮らすプライベートルームといった雰囲気。ほどよく壁で囲い、ベッドはリビングから見えない配置としている。出入口のストリングスカーテンは繊維の街・群馬の桐生で生まれた『Lineview』

  • 寝室。小さなスリット窓から光が入る。木彫りの欄間はデニム柄の壁クロスに合わせ、ブルーグレーにペイント

    寝室。小さなスリット窓から光が入る。木彫りの欄間はデニム柄の壁クロスに合わせ、ブルーグレーにペイント

丁寧な内装、照明の名品、カラフルな家具
新旧が調和するレトロポップな空間

天井以外のインテリアについても見ていこう。

小俣さんと金子さんは、内装や家具の検討で写真かと思うほどリアルなCG画像をつくり、候補のアイテムを入れた完成イメージを可視化。その画像をもとにAさまと相談し、以前の家から引き継ぎたいもの、新たに入れる家具、新旧のハブになる内装の色や素材のベストバランスを綿密にシミュレーションしたという。

その結果、内装ではデニムのリペアの仕事に興味をお持ちのAさまにちなみ、天井や壁の一部にブルーグレーのデニム柄クロスを使用。昔からあった木彫りの欄間もブルーグレーに塗装して取り入れ、インテリアに馴染ませている。また、ご祖母さまの代から使われており、Aさまも大切にしているレトロなミシンに合わせたカウンターや吊戸棚の造作では、ホワイトバーチ材を試行錯誤してステイン塗装。時間を重ねたミシンに負けない味わいのある表情を創出した。

「例えば、既存の欄間を塗りつぶすというようなチャレンジには躊躇してしまう方も多いのですが、Aさまは快く了承してくださいました。完成後の全体像をイメージし、デザイン意図を理解してくださったのだと思います」と小俣さんと金子さん。Aさまの深い理解に助けられ、丁寧に計算し尽くされた内装が新旧のアイテムを調和させるバランスの良い空間に仕上がった。

家具はAさまがお好きな80年代風デザインで、友人と車座になれるように選んだソファやテーブルは、ポップでカラフルなものばかり。照明は玉ねぎ型がかわいい北欧の名作『Sipuli』。リズミカルに高低差を付けて複数設置し、天井の高いおおらかな空間に躍動感を添えている。これらの家具の詳細は写真説明でご紹介しているので、ぜひチェックを。
  • 四角い穴が開いた斜めの天井はインパクトがあり、空間のデザイン性を大幅にアップ。キジの置物がちょこんととまっているのも楽しい。その上は、小屋根裏だったときの内装をブラックで塗装。コストを抑えつつ、よく見られる吹抜けとは一線を画す洗練された空間に仕上げている

    四角い穴が開いた斜めの天井はインパクトがあり、空間のデザイン性を大幅にアップ。キジの置物がちょこんととまっているのも楽しい。その上は、小屋根裏だったときの内装をブラックで塗装。コストを抑えつつ、よく見られる吹抜けとは一線を画す洗練された空間に仕上げている

  • この家のキッチンは1階だが、リビングの一角にはミニキッチンもあり、何かと便利(写真右奥)。床柱や太い梁は、以前の家にあったものを塗装し直して再利用。内装や家具は素材感・色使いなどをCGでシミュレーションし、新旧のアイテムが馴染むベストバランスを実現した

    この家のキッチンは1階だが、リビングの一角にはミニキッチンもあり、何かと便利(写真右奥)。床柱や太い梁は、以前の家にあったものを塗装し直して再利用。内装や家具は素材感・色使いなどをCGでシミュレーションし、新旧のアイテムが馴染むベストバランスを実現した

『キジノイエ』という名に込めた思いとは?
家族の思い出に包まれる住まい

大切な要望だった「友人と楽しく過ごせる」というテーマへの配慮も厚い。リビング内には壁で囲った小上がりの寝室があるのだが、その小上がりの一部はリビングのベンチとして使えるように計画。床座で歓談しやすいようにテーブルなどは低めのものを選んでいる。意匠性に優れたグレーの床材も、じかに座っても暖かく、痛くないコルク素材を選定し、その下にはさらにコルクを積層して厚みを持たせながら床暖房も設置。既にこの部屋には50人以上の友人が遊びに来ているとのことで、見た目も居心地もパーフェクトなのか、誰もが楽しく長居をしてくれるのだとか。

ここであらためてご紹介したいのが、この家の『キジノイエ』という名の由来だ。1つは、冒頭でお伝えした天井にとまる鳥の「キジ」。もう1つの由来は、デニムのリペアの仕事に興味を持つAさまにちなんだ「生地」である。鳥のキジの置物も、生地を扱う上で欠かせないミシンも、Aさまがご家族から受け継いだ大切なものたちだ。だから、『キジノイエ』という名前には「Aさまとご家族の大事な思い出が詰まった家」という意味もある。今後は天井のキジや古いミシンをきっかけに友人との会話が弾み、新たな思い出もできるだろう。

最後に、小俣さんと金子さんはニコニコしながらこんなことも話してくれた。

「一説によると、キジは幸運を表す鳥でもあるそうです。幸せの鳥が見守る部屋で、大勢のご友人と一緒に楽しい時間を過ごしていただけたらうれしいですね」

2人が手がける建築に込められた思いは、どこまでも温かい。
  • 古いミシンを置くカウンターや吊戸棚を造作。木製部分はホワイトバーチ材。ステイン塗装し、時間を重ねたミシンや床柱と馴染ませた。色椅子はITOKIの『vertebra03』。このスペースのレトロな表情が、ポップな家具を入れたリビングにシックな深みを添えている

    古いミシンを置くカウンターや吊戸棚を造作。木製部分はホワイトバーチ材。ステイン塗装し、時間を重ねたミシンや床柱と馴染ませた。色椅子はITOKIの『vertebra03』。このスペースのレトロな表情が、ポップな家具を入れたリビングにシックな深みを添えている

  • 「生地」を扱う古いミシンは今でも現役。「キジ」の置物と並ぶこの家の象徴的なアイテムの1つ

    「生地」を扱う古いミシンは今でも現役。「キジ」の置物と並ぶこの家の象徴的なアイテムの1つ

基本データ

作品名
キジノイエ
所在地
東京都 目黒区
敷地面積
91.15㎡
延床面積
127.14㎡
予 算
〜2000万円台