住まいを計画する上で、一般的に懸念材料として考えられがちな「傾斜地」。一方で、土地の特性を巧みに活かすことで、「傾斜地」という懸念材料をむしろメリットに変え、魅力的な空間につくり上げることは、腕のいい建築家に任せれば可能です。ここでは「これぞ建築家が建てる家」といいたくなる傾斜地に建つ家を紹介します。ぜひみなさまの自分らしい住まいづくりの参考にしてください。
難しい敷地条件を生かし居心地のよさを向上 美しい海を眺めながら暮らす、週末住宅
和歌山県西牟婁郡白浜町 / 白浜町の家
宿泊施設として、本棟と4棟の独立した小さな宿泊棟で構成されていたという以前の建物。日常で住まうわけではない週末住宅のため、お施主さまもしばらくの間はそのまま使用されていたのだとか。しかし、トイレに行くにも一度外に出なくてはならない、湿気がすごいなど気になる点もあり、老朽化も進んだことから建て替えに踏み切ったという。普段の週末は夫婦おふたりで過ごし、長期休暇のときにはお子さまたちとそのご家族など10人程度の人数になっても対応できる家をつくることになった。
まず直面したのが敷地の問題だ。白浜町の家は玄関から奥に向かって敷地が1m程度上がる。さらに玄関左手を走る道路に向かっては急な斜面になっており、それをカバーするように鉄骨が配置されていた。
安定性をより高め、遊び心もプラスした豊かな住まい
神奈川県横浜市 / Y邸
Y邸は一見すると2階建てに見えるが、室内は半階ずつ床レベルが変わる4層のスキップフロア。1階と1.5階は個室や水まわり、2階と2.5階が眺望抜群のリビング、ダイニング、書斎である。
眺めがいいということは、この住宅が高台、つまり「傾斜地にある」ということでもある。実際、敷地は東の道路から一段下がっており、眺望が開けた西側の先は崖になっている。
正直、建物の安定性が気になってしまう環境だが、そんな懸念も蘆田さんは高度な設計ノウハウで吹き飛ばしている。まず、地盤は調査で十分な安定性を確認。そのうえで傾斜の角度に対して最も安定する安息角(あんそくかく)を計算し、建物を建設。さらに強固な地盤に建物を1mほど埋め、「念には念を」といわんばかりに安定性を高めている。
3人の建築家のアイディアが結集! 斜面地で実現した理想の住まい
奈良県生駒市 / Sou
さっそくHさんと共にその土地に足を運んだatelier thuの3名。実際に見てみると、北側が斜面。この斜面の土砂を、フェンスのようなもので防いでいるという状態だった。「通常だと斜面側の土砂を擁壁で受けるのですが、そのためには造成が必要でした」。と、振り返る。
しかし、造成するとかなりコストがかかってしまうため、限られた予算内に収めるのは難しい…。どうするのが最善か3人でアイディアを出し合った結果、造成はせず、既存建物を解体して残された平地の部分に家を建てることに。さらに建物基礎を立ち上げて、北側の土砂を受けるというプランを考え出した。
パン教室のできるキッチン!難しい土地で実現した妻子の大満足!
千葉県 我孫子市 / S邸
白砂さんがまず悩んだのは、崖条例に沿って建築計画を立てると、南側に6mほどの空き地を作る必要があるということ。この場合は空地を庭として利用することになるが、それでは日が差さない暗い庭になってしまう…。この問題を解決すべく白砂さんが思いついたのは、RC造の擁壁(待受擁壁)をL字型に配置することで建物を南側に寄せることを可能にし、北側に明るいテラスを造り出すという、実に斬新なアイディアだった。
加えて白砂さんは、1階のリビングの天井を9mの吹き抜けにすることを提案。これにより、S邸のリビングは、ロフトの窓とテラスから入る光に満ちた、明るい空間となった。大きな吹き抜けはエネルギー効率が落ちるという欠点もあるが、白砂さんはこの対策として、天井と壁面に新聞紙を再利用した高性能の断熱材を使用。1階に置いた温水式の床暖房の熱を天井のサーキュレーターで循環させることに。これで真冬でも温かく過ごせる、家族に快適な居場所が出来上がった。
「2つの大きな壁」がもたらす効果。完全オーダーメイドだからこそ実現した住まい
広島県 / B邸
B邸が建つ敷地は、ひな壇上に造成された傾斜地の一角、間口が狭く、奥行きが深い。また、この辺りは宅盤が道路に対してほぼ2階の高さにあり、敷地境界いっぱいに住宅を建てるため、塀をぐるりとまわし1階レベルに駐車場、その上に2階建ての計3階分の壁面が道路に迫っているケースが多い。そのため前面道路との関係性は乏しく、圧迫感を与えてしまっている。その点、B邸は2台分の車が横置きできるオープンな駐車スペースから階段を上がった先に玄関がある。
「お施主様の要望を実現するのと同時に、その住宅がどのように周辺環境と関係を結ぶかをいつも大事に考えます。今回B邸を設計するにあたり、通りへ圧迫感を与えず、なだらかにつながりつつもプライバシーを確保できる状態を考えたところから、2つの大きな壁のアイデアが生まれました。まず1つめは屋外の壁です。この壁は1.5階建ての高さにすることで擁壁による圧迫感を抑える役割を担うとともに、リビングの延長として、前庭空間を生み出す効果もあります。そして2つめは屋内の壁です。ダイニングとキッチン、そしてダイニングと子ども部屋を緩やかにつなぎつつ、常に家族のアクティビティの中心にある、拠りどころのような存在となることを意図しています」と髙濱さんは語る。
急斜面を逆手に絶好の借景! 目を落とせば室内にも本気の庭
埼玉県所沢市 / S邸
街のなかの狭い家に住んでいたSさんご夫婦。通勤は不便でも広いところでのびのび暮らしたいと、郊外へ出ることを決めた。山の上の良い場所は手が届かず、安く手に入ったのは傾斜地。家を建てて、そこで生活するには外構の整備も必要だった。外に出て自然に触れることが好きだから、庭も楽しみたい。庭や外構も含めて、設計してくれる建築家を探していて、ガーデナー建築家の勝田さんに出会った。
「景色も眺めたいし、庭仕事もしたい。作業の合間にちょっとお茶が飲めるようなところもほしい、というお話でしたから、インナーテラスをおすすめしました。インナーテラスというのは、土間のような半屋外の空間です。土間といっても暗い感じはなく、明るく開放的な空間です」と勝田さん。それまでの事例を紹介したところ、Sさんご夫婦も気に入り、庭と家をトータルで設計することが決まった。