土間付き空間で周辺物件と差別化
収益×住み心地を両立させた洗練の集合住宅

東京都内を中心に、人気の集合住宅を多数設計している松浦荘太さん。築年数を経ても入居者に選ばれ、安定収益を期待できる賃貸物件はどんな魅力を備えているのだろうか? 東京・目黒で手がけた住宅を例に見ていこう。

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アクティブ世代に人気のエリアで
賃貸物件をつくる

目黒区内の閑静な住宅街に立つ「目黒の集合住宅」は、松浦荘太建築設計事務所 代表の松浦荘太さん、コバヤシ401.Design room株式会社、LEMON CRAFTの共同設計でつくられた住宅だ。松浦さんたちの設計チームは、こだわりのある賃貸物件を都内で多数開発しているデベロッパーと組み、これまでにも何棟もの住宅を世に送り出してきた。

今回のプロジェクトで選ばれた土地は、センスのいいインテリアショップやレストランが集う目黒通りからほど近い閑静な住宅街。都会的な暮らしを送るカップルや単身者をターゲットに、地上3階・地下1階、1LDKを中心とした全23戸の集合住宅がつくられた。

松浦さんたちが手がける集合住宅は、築年数を経ても家賃を高く維持でき、オーナー目線で魅力的な実績を持つ。その理由は「エリア特性を踏まえたターゲット設定」「ライフスタイルを的確にイメージした住みやすさ、デザイン性の高さ」といった要素で、周辺物件としっかり差別化していることにある。

そんな松浦さんたちの設計の魅力を、「目黒の集合住宅」を通して具体的にご紹介していきたい。
  • 視線がぶつからないよう各住戸を少しずらして配置した結果、立体感が際立つデザインに仕上がった。上品なグレーの外壁は吹付仕上げ。ザラっとした風合いが高級感を生む

    視線がぶつからないよう各住戸を少しずらして配置した結果、立体感が際立つデザインに仕上がった。上品なグレーの外壁は吹付仕上げ。ザラっとした風合いが高級感を生む

  • 40㎡前後の1LDK16戸、25㎡前後のワンルーム7戸、全23戸を備えた地下1階・地上3階の集合住宅。照明によって立体感が引き立つ夜の佇まいも美しい

    40㎡前後の1LDK16戸、25㎡前後のワンルーム7戸、全23戸を備えた地下1階・地上3階の集合住宅。照明によって立体感が引き立つ夜の佇まいも美しい

長い動線や大きな土間
心理的なゆとりと高級感が入居を後押し

集合住宅は、収益性の観点から土地に対して最大限の床面積が求められ、間取りの自由度が下がることが多い。それでも、生活の場としての住み心地にこだわりたいと松浦さんは話す。

「収益性が重視される集合住宅の設計において、効率性と快適性の両立は普遍的なテーマです」

効率性と快適性のベストバランスを目指した「目黒の集合住宅」には、共用の駐輪場がない。その分、住戸の床面積が広くなり、快適性が高まることがメリットだ。代わりにそれぞれの住戸には広い土間がつくられており、自転車を置きたい場合も問題なし。むしろ、外に置くよりセキュリティ的に安心な上、土間付きの個性的な空間は高額家賃や入居促進につながるなど、オーナー目線でのメリットも多い。

もう1つ、効率性と快適性を語る上で見逃せないのが1階の中央部に設けられた共用エントランスだ。このエントランスはトンネルのような薄暗い通路なのだが、木目の天井から間接照明のやさしい光が漏れて抜群の高級感。敷地の奥まで約15mを進んでいくと、突き当りで左右に折れて各住戸の玄関やエレベーターに向かえるようになっている。

「建物の中央を突き抜けて奥に回り、それから住戸に向かう」というこの動線のポイントは、敷地を効率的に使いつつ、住戸玄関までの距離をたっぷり取って贅沢感を醸し出していることだ。道路から中に入るまでの長いアプローチで優雅さを演出するのは、高級ホテルや隠れ家レストランでおなじみの手法でもある。

同様にこの共用エントランスも、入居者に「家に帰ってきた」というくつろぎを与えてくれるだけでなく、内見時の印象アップに効果大。雰囲気の良いゆったりとした動線が洗練されたライフスタイルを予感させ、「ここに住みたい」という気持ちを強く後押ししてくれるだろう。
  • 坂を上がった小高い丘の上に立つ「目黒の集合住宅」。周囲には高い建物がなく、3階からは開放的な景色を楽しめる

    坂を上がった小高い丘の上に立つ「目黒の集合住宅」。周囲には高い建物がなく、3階からは開放的な景色を楽しめる

  • 洗練されたデザインの共用エントランス。数段の階段をのぼり、建物の奥まで続く通路から住戸に向かう動線はプライベート感たっぷり

    洗練されたデザインの共用エントランス。数段の階段をのぼり、建物の奥まで続く通路から住戸に向かう動線はプライベート感たっぷり

  • 共用エントランス。写真奥が正面入口。松浦さんたちはギャラリーのような長い通路を通って建物の反対側に回り込み、そこから各住戸の玄関やエレベーターに向かう動線を計画。敷地いっぱいに建物をつくりつつ、住戸に入るまでのワンクッションにゆとりをもたせた秀逸な設計だ

    共用エントランス。写真奥が正面入口。松浦さんたちはギャラリーのような長い通路を通って建物の反対側に回り込み、そこから各住戸の玄関やエレベーターに向かう動線を計画。敷地いっぱいに建物をつくりつつ、住戸に入るまでのワンクッションにゆとりをもたせた秀逸な設計だ

開放感のあるガラスの間仕切り
用途多彩な土間やベンチも

では、1LDKのプランを例に住戸の魅力も見ていこう。

「目黒の集合住宅」の1LDK住戸の基本プランは、土間のエントランス~LDK~寝室というレイアウト。いずれも(1)居室との一体感が高い大きな土間が設けられている(2)壁で仕切らずガラスの間仕切りを入れている の2点が特徴で、これらの効果で空間全体を広く感じることができる。

「土間は、どことどうつながるかで活用のしやすさが変わってきます」という松浦さんの言葉通り、どの住戸の土間もキッチンと一体感がある使いやすい配置。その先のリビング・ダイニングは、用途多彩なベンチ付き。がらんとした空間は使い方をイメージしづらいが、このベンチのように「座る」「テレビを置く」など使い方を想像できる仕掛けがあると、「ここで暮らす自分」をイメージできて入居につながりやすくなるだろう。

リビング・ダイニングからさらに進むと、開閉可能なガラスの間仕切りを挟んだ寝室スペース。日中は間仕切りを開放してワンルームっぽくするなど、ライフスタイルやシーンに合わせてフレキシブルに使える間取りとなっている。
  • 3階Aタイプ・北東角部屋の住戸。エントランスの大きな土間は、ちょっと腰かけたり、モノを置いたりできるベンチ付き(写真右手前)。こうした造作家具や隣のキッチン(写真左)への動線の良さで、土間の活躍度が格段にアップする

    3階Aタイプ・北東角部屋の住戸。エントランスの大きな土間は、ちょっと腰かけたり、モノを置いたりできるベンチ付き(写真右手前)。こうした造作家具や隣のキッチン(写真左)への動線の良さで、土間の活躍度が格段にアップする

  • 3階の北東角部屋、Aタイプのリビング・ダイニング。奥の寝室との仕切りは、開放感を損ねないガラスの間仕切り。北側(写真左)に設けた窓の下には造作ベンチ。ここに座って読書をしようか、テレビを置いて映画を見ようか、暮らし方をあれこれ想像したくなる空間だ

    3階の北東角部屋、Aタイプのリビング・ダイニング。奥の寝室との仕切りは、開放感を損ねないガラスの間仕切り。北側(写真左)に設けた窓の下には造作ベンチ。ここに座って読書をしようか、テレビを置いて映画を見ようか、暮らし方をあれこれ想像したくなる空間だ

キーワードは「陰影」
採光に不利な住戸をグレードアップ

最後に、採光しにくい暗めの住戸に対する工夫についてもお伝えしたい。

角部屋以外は別の住戸に挟まれ、窓をたくさん取れないというのは集合住宅によくある課題。「目黒の集合住宅」の1LDK住戸も土間~LDK~寝室という奥行きのある形状なので、角部屋以外は中間のリビング・ダイニングに窓をつくれず、どうしても暗くなりがちだ。

松浦さんたちはともすればネガティブになるこの造りに対し、「陰影」をキーワードに魅力をプラス。シックで落ち着く空間づくりに成功している。

ポイントの1つは床だ。「暗い・狭いが揃ってしまうと良くないので」と、土間とLDKの床は同じ素材でシームレスに仕上げ、空間をより広く感じられるようにデザインした。

窓については小さな窓をあちこちに設けずに、ポイントとなる場所に大窓をつくることにこだわった。「そうすると、洞穴のように奥行きのある住戸内に、たっぷりの光で照らされる明るいスペースと、光が届かない暗めのスペースができます。住空間の中にあえて陰影をつけ、開放感とこもり感、両方味わえるようにしたいと考えたのです」と松浦さん。

空間全体が煌々と明るい会議室のような部屋よりも、高級ホテルのバーや客室のように、ほんのり明るいところと暗がりがあるほうが、人は落ち着いてくつろげる──。松浦さんたちの設計は、このセオリーを自然光で具現化することに成功し、「光が届きにくい」というデメリットを「くつろぎ」というメリットに変換したのである。

どんな部屋でも居心地の良さを感じられ、個性があるのに多様なライフスタイルを受け止める柔軟性も併せ持つ──。エッジの効いた深い魅力で入居者を惹き付ける「目黒の集合住宅」は安定経営が期待でき、オーナーと住まう人の双方に大満足の結果をもたらしてくれるに違いない。
  • 3階の北東角部屋、Aタイプの寝室。道路に面した東の窓(写真奥)は眺望が抜群。明るい自然光もたっぷり入る。内装は木目とモノトーンでまとめたナチュラルなテイストで、幅広い層に好まれる

    3階の北東角部屋、Aタイプの寝室。道路に面した東の窓(写真奥)は眺望が抜群。明るい自然光もたっぷり入る。内装は木目とモノトーンでまとめたナチュラルなテイストで、幅広い層に好まれる

  • 3階の北東角部屋、Aタイプの水まわり。隣の寝室との仕切りは、圧迫感のないガラスの間仕切り。開け放しておけば空間を広々と使える。コンクリートの窓台は、寝室内の窓の下からそのまま洗面スペースへ。2つの空間がひと続きであることが感じられ、一体感が強調される

    3階の北東角部屋、Aタイプの水まわり。隣の寝室との仕切りは、圧迫感のないガラスの間仕切り。開け放しておけば空間を広々と使える。コンクリートの窓台は、寝室内の窓の下からそのまま洗面スペースへ。2つの空間がひと続きであることが感じられ、一体感が強調される

  • リビング・ダイニングに窓がない3階Cタイプ。空間を広く見せるため、(1)床は土間と同じ素材にして一体感を演出(2)天井はコンクリート打ち放し=板を張らないことで高さを確保(3)照明はライティングレールなどにして空間をすっきりさせる といった工夫を施している

    リビング・ダイニングに窓がない3階Cタイプ。空間を広く見せるため、(1)床は土間と同じ素材にして一体感を演出(2)天井はコンクリート打ち放し=板を張らないことで高さを確保(3)照明はライティングレールなどにして空間をすっきりさせる といった工夫を施している

基本データ

作品名
目黒の集合住宅
所在地
東京都
敷地面積
327.32㎡
延床面積
994.38㎡