沖縄の古民家を現代の視点で再構築
自然素材を活かした木造の家

沖縄県・豊見城市に事務所を構えるHARMO design(ハルモデザイン)。今回紹介するのは、その代表である岸田匡史さんが建てた自邸である。里山の饒波(のは)の杜(もり)の厳かな佇まいにインスピレーションを得て、家づくりを始めた岸田さん。集落に溶け込む建物と最新の設備を両立した、こだわりの家づくりについてお話を伺った。

岸田 匡史 きしだまさふみ

一級建築士事務所 HARMO design 沖縄県 豊見城市

私が17年前に沖縄に初めて来た時に見た備瀬のフクギ並木の集落の風景。 深い緑とひなびた石垣、木と素焼きの赤瓦が重なり合いながら路地を曲がる度に新しい風景を見せてくれる。そしてその先にある海の輝き。 フクギと石垣に守られながら屋敷内に建つ赤瓦をのせた開放的な家づくりは光と風を取り込み、災害から集落を守り、かつ美しさを引き立てるような絶妙なバランスで構成されています。 この周囲の環境(光・風・水・風土・くらし)と響き合う調和のとれた風景こそハルモデザインの企業理念になっています。 建材や技術が大幅に進歩した現代にあって先人の知恵を活かしながら無駄なエネルギーを使わず自然と共に心地よく暮らせる家。 ”現代のうちなー家”を創りたいという想いから設計のみならず施工も手掛けることで、お客様の理想の家を責任をもって引渡しまで一貫して携わる事の出来るアーキテクト(建築家)+ビルダー(工務店)というスタイルで運営させて頂いております。 うちなーのゆったりした時と移り行く季節を感じながら、ご家族が楽しく心地よく暮らせる家づくりに取り組んで参ります。

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ウタキ(祈祷所)のある空間を自邸に活かし
地域に溶け込む家づくりを目指す

沖縄でいつかは自邸を建てたいと思い、景色と周辺環境に恵まれた土地を探し続けていたというHARMO designの岸田さん。長い年月を経てようやく出会えたのが、豊見城の古くからある集落の一角にある土地だった。那覇空港から車で15分と便利な場所にありながら、南には河川があり、緩やかに上る段丘の背面に豊かな里山が広がっている。そして、何よりも岸田さんの心を惹きつけたのが、里山の中にある美しい饒波の杜だった。

「そこにはウタキ(祈祷所)があったのです。赤瓦の拝所の前には皆が集まる広場があり、覆うように自生する木々の間から集落が見渡せます。亜熱帯の森と思えないほど光は涼やかで風は澄み切って心地良く、いつまでもここに居たいと思える素晴らしい場所でした」。
そう土地の印象を振り返る岸田さん。このウタキに足を踏み入れた瞬間に、「地域の源流として大切にされているこの空間を自邸に活かす事で、地域の時間や集落の中に溶け込む家が創れるのではないか」。と考えたのだという。

そのイメージを膨らませて完成した自邸は、岸田さんが得意とする自然素材を活かした木造建築だ。岸田さん曰く、木造建築にはRC建築に負けない耐久性があり、潮風にも強いとのこと。また、木が呼吸するため、快適な湿度を保てるのだという。実は自然素材でつくる木造建築は、高温多湿で台風が多い沖縄に非常に合った建築方法なのだ。
  • ナラ材の突板(つきいた)を敷き詰めた雰囲気あるリビングとキッチン。リビングの天井高は6mあり開放感を感じられるつくりとなっている

    ナラ材の突板(つきいた)を敷き詰めた雰囲気あるリビングとキッチン。リビングの天井高は6mあり開放感を感じられるつくりとなっている

  • 家を支える杉の大黒柱を木の幹に、杉と松の梁を枝に見立て縦横に伸びてゆくようなイメージ。2階のロフト部分の手すりには下の様子が見えるようタモの堅木と硬質プラスチックを使用した

    家を支える杉の大黒柱を木の幹に、杉と松の梁を枝に見立て縦横に伸びてゆくようなイメージ。2階のロフト部分の手すりには下の様子が見えるようタモの堅木と硬質プラスチックを使用した

大断面の柱と梁を活かした吹き抜けリビングで
森の中にいるような空間を演出

それでは、こだわりの岸田邸を細かく紹介していこう。まず外観は、里山の稜線を現す赤瓦の切妻屋根と、琉球石灰岩の左官壁、深い色合いの杉板張りを組み合わせることで、伝統的な古民家のようでありながら、モダンな雰囲気を醸し出している。

饒波の杜の空間を取り入れるべく、建物を支える7寸の大黒柱を樹木と見立てて家の中央に配置。その大黒柱の北側には、ウタキ(祈祷所)の拝所をイメージし、沖縄では火の神がいるとされている台所を置いた。その回りに、納戸や洗面室・浴室といった水回りがコンパクトにまとめられている。

家の中心となるのは、南向きに開かれた明るいリビングだ。天井高6mの吹き抜けになっており、木の梁組をそのまま生かした天井を見上げると、まるで木々の下に居るかのよう。大黒柱を中心に森の木々が枝を伸ばしている様子をイメージしたということで、室内ながら屋外にいるような開放感を味わうことができる。この吹き抜けに面する形でアトリエと子ども室が配されており、その上のロフトから見下ろす風景は、まるでツリーハウスのようだ。

また、沖縄の気候に合うよう遮熱対策に力が入れられているのも、岸田邸の特徴である。直射日光を遮るため、屋根断熱通気工法の赤瓦屋根を使用。さらに外壁は外断熱とし、樹脂サッシで熱損失を減らす工夫を行っている。加えて、湿度の高い夏場でも快適に過ごすことができるように居室内の壁には調湿面材と漆喰を用いた。ちなみにエアコンは各居室ではなく、ロフトに設置。各部屋にダクトで冷気を送ることで、省エネも実現している。

たっぷりの木材と自然素材を使い完成した岸田邸。実際に住み始めたご家族もその住み心地の良さに、大変満足されているそう。当初はブルックリン風の家が良いと言っていた奥様も、「森のロッジ風カフェスタイルも悪くないわね」。と喜んでいらっしゃるという。

古い集落に溶け込む一方で、断熱や調湿、オール電化、太陽光発電といった最新の設備を整える岸田邸。岸田さんはこの自邸をモデルケースとして、今後も自然素材にこだわった木造の家づくりを沖縄で行っていきたいと話す。

「私が本当に提案したいのは、土地のストーリーを大切にし、地域を豊かにする建築です。これからは沖縄の自然を生かしつつ、民泊や保育園のような施設づくりも行っていきたいと考えています。今回建てた我が家が、そのモデルルームのような役割を果たしてくれるといいですね」。

そう今後の夢を語ってくれた岸田さん。これからも沖縄の地で、新たなストーリーを紡ぐ家を生み出し続けてくれることだろう。
  • キッチン側から見たリビング。キッチンの天井高は2.2mと低めに抑え、落ち着ける空間とした

    キッチン側から見たリビング。キッチンの天井高は2.2mと低めに抑え、落ち着ける空間とした

  • 2階のロフト部分。宮崎県の飫肥杉をふんだんに用いており、どこにいても木の温かみを感じることができる

    2階のロフト部分。宮崎県の飫肥杉をふんだんに用いており、どこにいても木の温かみを感じることができる

  • 子どもが遊んだり昼寝をしたりできる畳スペース。くつろぎ感を出すため、沖縄で取れるイ草ビーグを使った畳を敷いた

    子どもが遊んだり昼寝をしたりできる畳スペース。くつろぎ感を出すため、沖縄で取れるイ草ビーグを使った畳を敷いた

  • 仄かな灯りに照らされた夕方の内観。昼間とはまた違った風情を味わえる

    仄かな灯りに照らされた夕方の内観。昼間とはまた違った風情を味わえる

  • 木の風合いが感じられるベッドルーム。左側にある本棚は今回造作したもので、末の娘さんの勉強スペースも兼ねている

    木の風合いが感じられるベッドルーム。左側にある本棚は今回造作したもので、末の娘さんの勉強スペースも兼ねている

岸田 匡史 きしだまさふみ

一級建築士事務所 HARMO design 沖縄県 豊見城市

私が17年前に沖縄に初めて来た時に見た備瀬のフクギ並木の集落の風景。 深い緑とひなびた石垣、木と素焼きの赤瓦が重なり合いながら路地を曲がる度に新しい風景を見せてくれる。そしてその先にある海の輝き。 フクギと石垣に守られながら屋敷内に建つ赤瓦をのせた開放的な家づくりは光と風を取り込み、災害から集落を守り、かつ美しさを引き立てるような絶妙なバランスで構成されています。 この周囲の環境(光・風・水・風土・くらし)と響き合う調和のとれた風景こそハルモデザインの企業理念になっています。 建材や技術が大幅に進歩した現代にあって先人の知恵を活かしながら無駄なエネルギーを使わず自然と共に心地よく暮らせる家。 ”現代のうちなー家”を創りたいという想いから設計のみならず施工も手掛けることで、お客様の理想の家を責任をもって引渡しまで一貫して携わる事の出来るアーキテクト(建築家)+ビルダー(工務店)というスタイルで運営させて頂いております。 うちなーのゆったりした時と移り行く季節を感じながら、ご家族が楽しく心地よく暮らせる家づくりに取り組んで参ります。

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