吹抜けがなくても開放感は生み出せる。
毎日楽しい、三角屋根のかわいい家

5LDK・2階建てのH邸は、平面図を見ると至ってベーシックなプランに思える。しかし実際に訪れると、楽しく、気持ちよく暮らせるポイントが満載。どんな条件でも空間に豊かさを加えてくれる、菅家建築計画工房ならではの設計の魅力がよくわかる。

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「タテがだめならヨコで」。
機転を利かせた、緑を望む開放的なLDK

ここは神奈川県大和市内の住宅街。近所の子どもたちが遊ぶ公園に行くと、傍らに「おうち」と呼びたくなる三角屋根のかわいい家が立っていた。菅家建築計画工房の菅家 幹さん・和子さん夫妻が設計したH邸だ。

この家で暮らすのは親世代ご夫妻と、子世代である息子さんご夫妻+お子さま2人の計6人。とても仲のよいご家族で、「玄関や水まわりを分けない普通の家に、2世代で住む」という計画だった。

とはいえ、大家族なのでそれなりの部屋数は必要だ。親族が訪れたときに泊まる部屋もほしい……ということで、2組のご夫妻の寝室と、子ども室2室、ゲストルーム1室と、計5つの個室がある5LDKの間取りとなった。

敷地は約38坪あるが、5LDK、さらには車2台分の駐車スペースという要望に応えると、さすがに床面積のゆとりが少なくなる。菅家さん夫妻も、「H邸は2階建てですが、タテで空間の広がりを生む吹抜けなどはつくらず、床面積の確保を優先しました」と振り返る。

H邸の平面図を見ると1階はLDKとゲストルーム、水まわり。2階は寝室2室、子ども室2室の計4室が田の字型に並び、シンプルでベーシックなプランのように思える。

だからといって、決して凡庸な家にしないのが菅家建築計画工房の底力。実際に訪れると、設計の工夫による豊かな空間体験に驚いてしまうのだ。

その1つが、水平ののびやかさで開放感を生んだLDKだ。LDKに入ると、正面には隣の公園が見える横長窓。視線をずらせばウッドデッキのある南の庭に向かった大開口。その横には公園の大木の緑がのぞく小さなハイサイド窓もあり、室内にいても屋外の光や緑の心地よさに包まれる。

吹抜けこそつくれなかったものの、「タテがだめならヨコで」とばかりに横の広がりで空間のおおらかさを生むテクニックはさすがの一言。菅家さん夫妻の柔軟な発想力をあらためて感じる住宅だ。
  • 1階LDK。「砂ぼこりを入れたくない」との要望に応え、公園に面した左側はあえて大開口を避け、景色が適度に見える横長窓で「ヨコの広がり」を創出。床は飯能のスギの無垢材。森林組合から直接仕入れた無垢材は1本が3mと長く、タテのラインがきれいに出た美しい仕上がりに

    1階LDK。「砂ぼこりを入れたくない」との要望に応え、公園に面した左側はあえて大開口を避け、景色が適度に見える横長窓で「ヨコの広がり」を創出。床は飯能のスギの無垢材。森林組合から直接仕入れた無垢材は1本が3mと長く、タテのラインがきれいに出た美しい仕上がりに

  • 1階LDK。キッチンからダイニング・リビングを見る。奥の大開口は南の庭に面しており、明るい陽光とみずみずしい緑がLDKを彩る。南にはヒノキのウッドデッキもあり、のんびり日向ぼっこする穏やかな時間を過ごせる

    1階LDK。キッチンからダイニング・リビングを見る。奥の大開口は南の庭に面しており、明るい陽光とみずみずしい緑がLDKを彩る。南にはヒノキのウッドデッキもあり、のんびり日向ぼっこする穏やかな時間を過ごせる

  • 1階ゲストルームも、庭に面した明るい空間。親世代の介護が必要になった場合のことも考え、介護の際にはこの部屋を使えるようにと、目が届きやすいリビングの隣に配置した。さらに左奥の壁は、その先にある洗面・浴室へ直接行くこともできるよう取り壊し可能な造りにしている

    1階ゲストルームも、庭に面した明るい空間。親世代の介護が必要になった場合のことも考え、介護の際にはこの部屋を使えるようにと、目が届きやすいリビングの隣に配置した。さらに左奥の壁は、その先にある洗面・浴室へ直接行くこともできるよう取り壊し可能な造りにしている

ベーシックな間取りを豊かにする、
「ストーリーのある動線」

敷地の広さに対してご要望の部屋数が多く、設計の自由度が高いとはいえなかったH邸。それでも、建築家の注文住宅ならではの豊かな空間に仕上がったもう1つのポイントが、「ストーリーのある動線」だ。

日頃から「家の中の動線にストーリーをつくり、動く楽しさを生み出したい」と語る菅家さん夫妻の力量を最も実感するのは、階段を介した2階への動線だろう。

階段の上り口に来ると、まっすぐな直線階段の先に明るい光。これは階段をのぼった先のバルコニーから入る陽光だ。人は明かりのある方へ進みたくなるから、上から光が落ちる階段は期待感を生む効果的な演出となっている。

階段をのぼり切ったところにも、ストーリーをつくる仕掛けがある。光に向かって2階に上がり、ふと振り返ると、ガラス張りの小さな空間が目に飛び込むのだ。

ここで見えているのは親世代の寝室の一角につくられた、お父さまのワークスペース。振り返ったときに見通しがよく意外な空間があるのもワクワクするが、帰宅して階段を上がる際、ワークスペースのお父さまと「ただいま」「おかえり」とガラス越しに挨拶する──。想像するだけで楽しく温かな気持ちになる日常だ。

ストーリーの締めくくりは、親世代・子世代それぞれのご夫妻の寝室にある。どちらの部屋も勾配天井にロフトが設けられ、抜群の開放感。「吹抜けをつくれないときに、よくやるんです」と菅家さん夫妻がいう通り、ロフトで天井の高さを出した空間は、あたかも吹抜けがあるかのよう。天井には青空を望むトップライトもあり、上へ抜ける開放感が動線のフィナーレを飾る。

頻繁に使う階段動線にこれだけの変化や楽しさが盛り込まれていれば、毎日が豊かになることは間違いない。設計の自由度に制約があっても、こんな風に「ストーリーのある動線」をつくってしまうところが、菅家建築計画工房のすごさといえるだろう。
  • 階段をのぼり切って振り返ると、親世代の寝室にあるワークスペースが見え、意外な視界にワクワクする

    階段をのぼり切って振り返ると、親世代の寝室にあるワークスペースが見え、意外な視界にワクワクする

  • 2階の親世代寝室。2室ある寝室はいずれも、ロフトとトップライト付き。上に抜ける開放感が心地いい

    2階の親世代寝室。2室ある寝室はいずれも、ロフトとトップライト付き。上に抜ける開放感が心地いい

森林組合から直接仕入れた、
天然木材で自然を感じる空間に

H邸の外装・内装は白と木目がベースとなっている。シンプルな組み合わせだが、品のよい上質感が生まれている秘密はずばり、使われている木材のよさ。

「お父さまは山登りなどのアウトドアが大好きな方。お住まいでも自然を感じていただきたいと思い、飯能のスギとヒノキである西川材の無垢材をご提案しました」と菅家さん夫妻。

外装はヒノキを使い、外壁のアクセントはヒノキの縦格子。窓の目隠しや雨戸カバー、ウッドデッキもヒノキだ。対して邸内は、フローリング、階段、柱などにスギを使用。自然の表情を感じさせる良質な無垢材のおかげで、空間がいちだんとランクアップしている。

この広さの家で天然木材を使うとコストが気になるが、H邸の予算は3000万円を切っている。理由を尋ねると、「飯能の森林組合から直接仕入れているので、高品質なスギやヒノキが安く手に入るんです」との答え。

加えて、これらの天然木材は長い時間を過ごす1階に集中させてコストを調整。「予算の中で最大限に気持ちのいい住宅をつくりたい」という菅家さん夫妻の真摯な思いが伝わってくる。

ちなみにH邸は、住み心地がよく税制面の優遇もある長期優良住宅。希望の間取りと豊かな空間デザインを併せもち、何かとメリットが多い長期優良住宅でもあるこの家を、Hさまご一家が大変喜んでくださったことはいうまでもない。

そして最後にもう1つ、心がほんわりするトピックが。

「実は、お父さまのHさまは私の小学校の恩師なんです。時が経ち、こうして家づくりをご依頼いただけたことは本当にうれしいですね」と菅家さん。幼い頃に山登りが好きな恩師と一緒に歩いた里山を思い、天然の木で表情豊かに仕上げた住宅は、大きく深い温かさに満ちている。
  • 玄関まわりの外観。飯能のヒノキでつくった縦格子や窓の目隠しが白壁に映え、洒落たアクセントに。玄関には庇をつくらず、中央の彫り込んだところを玄関ポーチとした。出っ張るものがないので外観フォルムはすっきり。それでいて、雨天でも玄関前で雨に濡れることがない

    玄関まわりの外観。飯能のヒノキでつくった縦格子や窓の目隠しが白壁に映え、洒落たアクセントに。玄関には庇をつくらず、中央の彫り込んだところを玄関ポーチとした。出っ張るものがないので外観フォルムはすっきり。それでいて、雨天でも玄関前で雨に濡れることがない

  • 1階リビングのウッドデッキや雨戸カバーは、飯能のヒノキを使用。天然の木の風合いで表情豊かに仕上げた

    1階リビングのウッドデッキや雨戸カバーは、飯能のヒノキを使用。天然の木の風合いで表情豊かに仕上げた

間取り図

  • 1F 平面図

  • 2F 平面図

  • ロフト 平面図

基本データ

作品名
大和市の家
施主
H邸
所在地
神奈川県大和市
家族構成
2世帯
間取り
5LDK
敷地面積
130.81㎡
延床面積
126.68㎡
予 算
2000万円台