木や漆喰など、ナチュラルな素材を
生かした空間で、家族の自律も促せる家

「家づくりはお子様の教育にもつながるチャンス」と言う富田さん。家は住む人がどう使うかが大事と、家族全員を巻き込んでの家づくりを理想としている。暮らしやすさはもちろん、立地を生かしたデザインなど、設計士としてのこだわりを盛り込みながら、住む人の暮らしの将来設計まで考え抜かれた実例を紹介しよう。

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背後に多度山がそびえ立つ
風景も取りこんだ外観デザイン

T様の奥様のご実家が三重県の多度にあり、ご夫婦そろって職場が多度に変わったことをきっかけに、多度で家を建てることに。知り合いの造園屋さんが、富田さんの同級生だったため紹介してもらったという。この造園屋さんの家を設計したのも富田さん。T様は家のデザインはもちろん、富田さんの人柄や仕事のスタンスも気に入っていたため、多度での家づくりも富田さんに依頼することにした。T様の3人のお子様は高校生と大学生で、田舎に引っ越すのは嫌がっていたが、各自に素敵な部屋をつくるからと言って、納得してもらった。

そんなT様が一番強くご要望されたのは、キッチンから洗面脱衣室への家事動線がいいこと。「共働きだったため、できる限り家事効率をよくしたいと希望されていました」と富田さん。ほかにも、ご夫婦の寝室は1階に、また、ゲストルームとなる和室も欲しいとのこと。お子さまとの約束でもある子ども部屋は、1人1部屋で3部屋。お子さまが独立した後には、ご夫婦が平屋暮らしのように住まうことができるよう、2階はすべて子ども部屋にする計画だ。

それらのご要望を軸に、間取りの設計から使用する素材、色、デザインなどはすべて富田さんにお任せ。設計期間中は「これでお願いします」と言われても、さらにもっと「こうしてみては?」という別案を提案していくという富田さん。「1軒1軒、できる限り後悔のない家づくりをしたいと思っています。お施主様ご家族の暮らしの中で何を大事にしているか、そんな住まいの本質を軸として話していくことで、よりいい家づくりができると思っています」。

ヒアリングを行ったうえで、まず、現地を視察。丁度、建築予定地の近くには多度山があり、堂々とした雄姿がよく見えた。「多度山を背景にして、多度山へ向かってちょうど傾斜が上がるような、片流れの大屋根の家をイメージしました。間取り案を考える際には、そんな大屋根の勾配を利用した子ども部屋に、それぞれバルコニーもあるとおもしろいのではと思いました」と富田さん。間取りは多彩なレイアウトの草案を考えてラフ画を描き、それを見ながらT様と一緒にベースとなるプランを決めていった。

T様ご夫婦が一番、迷ったのはキッチンのレイアウト。L型に配置するか、壁付けにするかで空間の使い方も変わってくるため、かなり悩まれたというが、最終的にはLDKがより広く感じられるよう壁付けに決定。北欧風デザインのキッチンや、ダイニングテーブルなども造作。メープル材を使った床に、漆喰塗りの壁と、ナチュラルな空間に仕上がった。
またT様邸は、玄関ホールを基準として、LDKへも、客間となる和室にも、洗面などの水回りとも直接、繋がる動線のよいレイアウト。さらに、玄関には下駄箱を2カ所に設置し、日常使い、お出かけ用など使い分けて整理整頓しやすくした。共働きのご夫婦にとって、少しでも家事効率などがよくなるような配慮が行き届いている。
  • 正面から見たら平屋のように見えるT様邸の外観。片流れ屋根の勾配も背景の多度山としっくり合う角度になるよう、1階と2階の割合を調整した

    正面から見たら平屋のように見えるT様邸の外観。片流れ屋根の勾配も背景の多度山としっくり合う角度になるよう、1階と2階の割合を調整した

  • 玄関から和室の外まで繋がるタイル敷きの玄関ポーチ。軒が深く、夏の陽射しや、多少の雨が避けられるので、テラスとしても利用できる

    玄関から和室の外まで繋がるタイル敷きの玄関ポーチ。軒が深く、夏の陽射しや、多少の雨が避けられるので、テラスとしても利用できる

  • 外壁は屋根材と同じガルバリウム鋼板を採用。横に長いガルバリウム鋼板の一枚板を上下に並べて張っていくことで横のラインが際立ち、横に大きく広がる背景の多度山の雄姿とのバランスもいい

    外壁は屋根材と同じガルバリウム鋼板を採用。横に長いガルバリウム鋼板の一枚板を上下に並べて張っていくことで横のラインが際立ち、横に大きく広がる背景の多度山の雄姿とのバランスもいい

家への愛着が深まり、大切に使えるように
家族全員を巻き込んだ家づくりが理想です

インテリアデザインも、ほぼ富田さんにお任せ。「統一感をもたせながら、ゆるく変えることを意識しました」。例えば、建具は米松を採用して壁との属性を出し、収納の戸などは白、部屋の入口はクリアな色にして取っ手部分は真鍮に。和室の戸には和紙を貼って、取っ手部分にはブビンガ材を使用。木の色合いに合わせて取っ手に使う素材や色も変えている。「空間を際立たせられるよう、建具のデザインのバランスを考えています」と富田さん。

1階の壁は調湿効果のある漆喰塗りで、床は漆喰壁と連動させて、自然の素材感や品の良さを感じられるメープルのフローリングに。「玄関やLDKなど人が集まる場所は、見た目も空気もキレイにと考えました」。他の空間は、壁はクロスで床はタモ材を使用しているが、これはメープルからタモの床に切り替わることで、ここからはプライベート空間だという境界を上手に表現。さらに天井にも木の質感あふれる杉板を、フローリングの幅と同じ75mmで貼り付けていくことで、デザイン性の統一感を出している。素材に使う木は染色せず、素材自体の色を生かしてバランスをとることで、自然に落ち着く空間が生まれる。
富田さんが提案する際には、「なぜこうするか、なぜこの色なのか」といった根拠をしっかりと伝えるため、お客様も納得しやすいという。提案に納得してもらえることで、予算的にもほぼ要望通りで収まるのだとか。

また、T様邸では、お子さまも家づくりに参加。「家を建てても、住む人が上手に使わないと、建物はダメになります。使う側の気持ちが大事なんです。だからこそ、与えられたものとしてとらえるのではなく、家族全員を家づくりに巻き込みたいと思っています」と富田さん。家づくりは家庭での教育のチャンスでもあるという。
T様邸のダイニングチェアは、家族5人分を1脚ずつオーダーメイドしたもの。ある程度の値が張るのだが、モノを大切に使うという意識を伝えるために、あらかじめお子様1人1人に対して、本当に大切に使えるかどうか、覚悟も確認した。

新築という機会をきっかけに、子どもたち自身にもいろいろな意味で自律を促せるよう、各自の子ども部屋にはウォークインクロゼットも配し、カーテンも自身で選んでもらったという。脱衣室には造作棚を5列に渡って、家族1人に1列を割り当て。「共働きのご家庭なので、住まう家族の1人1人が、自分のことは自分でしっかりやれるような環境づくりもしたかったんです」と富田さん。「お子様自身も、家づくりに何かしら携わったという記憶が残ることで、家に対する思い入れも変わってくると思います」。
  • 広々とした玄関ホールは風除室的な役割もある。玄関からの外気をここで留めることで、玄関ホールという空間自体が断熱の役割を担うという。これは、昔の日本家屋の土間のような感覚だ

    広々とした玄関ホールは風除室的な役割もある。玄関からの外気をここで留めることで、玄関ホールという空間自体が断熱の役割を担うという。これは、昔の日本家屋の土間のような感覚だ

  • 2階の子ども部屋は、一面の壁にカウンターを造作することで、デスク不要に。入り口側は勾配屋根を活かした高い天井、バルコニー側には屋根下の空間を利用して、隠れ家個室風の空間も設けた

    2階の子ども部屋は、一面の壁にカウンターを造作することで、デスク不要に。入り口側は勾配屋根を活かした高い天井、バルコニー側には屋根下の空間を利用して、隠れ家個室風の空間も設けた

  • 子ども部屋の隠れ家個室風の空間の中は、低めのキャビネットや衣類をすっきり片づけられるハンガーパイプなどを設置。1人1人が整理整頓、片付けなどしやすいよう配慮

    子ども部屋の隠れ家個室風の空間の中は、低めのキャビネットや衣類をすっきり片づけられるハンガーパイプなどを設置。1人1人が整理整頓、片付けなどしやすいよう配慮

撮影:アトリエあふろ(古川公元)

基本データ

施主
T邸
所在地
三重県桑名市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
267.08㎡
延床面積
139.53㎡
予 算
3000万円台