どこにいても何をしても、なんだか幸せ。
暮らしのワンシーンが絵になる北鎌倉の家

生活の何気ないシーンを心地よく過ごせて、しかも、家の中のどこを切り取っても絵になる──。建築家の藤田敦子さんが設計したF邸は、そんな理想を形にしたような住まい。家そのものにいのちが吹き込まれるような、藤田さん厳選の自然素材も必見だ。

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毎日ほっと心が和む
緑を眺めてくつろげる居場所が豊富

北鎌倉の鬱蒼と茂る緑に包まれたF邸。緑とともに佇む2階建ての家はヨーロッパの田舎町で出合うかわいい一軒家のようで、絵葉書にしたくなるほどフォトジェニックだ。

設計を担当したのは、Bois設計室の藤田敦子さん。生産者の顔が見える国産の木材など、こだわりの自然素材で上質な住まいをつくってくれると熱い支持を得ている建築家だ。

この家に住むFさまご夫妻も、新建材や合板を使わない藤田さんのスタンスに惚れ込んで設計を依頼。豊かな緑を眺めて暮らせるこの敷地を気に入り、家づくりがスタートした。

住まいには、何よりも居心地のよさを求めていたというFさまご夫妻。藤田さんはその思いをしっかり受け止め、「家の中のあちこちに、居心地のいい場所、何か好きなものを置いたら絵になる場所をつくってさしあげたいと思いました」と振り返る。

藤田さんの言葉通り、F邸は心地よくてフォトジェニックなスポットがとにかく豊富な住まいになった。

1階のLDKはリビングスペースが吹抜けで、吹抜け上部の大きな窓には気持ちのよい青い空。天井の高い開放的な空間で、空に流れる雲を見ながらくつろげる。

その奥には裏庭に面した160cm角ほどのスクエアな窓があり、窓越しの緑に寄り添うようにダイニングテーブルが置かれている。壁一面を使った大開口は開放感があるが、こんな風に庭をのぞくような窓もいいものだ。守られたスペースから外を眺める安心感とこもり感が、なんともいえず心地いい。

もちろんそれは、丈夫でしなやかな徳島の杉板を用いた床、漆喰の壁など、住まいそのものに上質な自然素材の息づかいがあるから成り立つもの。いわば家そのものが「本物の自然」だから、大胆な窓で空や緑をことさら強調しなくていい。逆に邸内を彩る絵画のようなサイズのほうが、景色も、居心地のよさも、かえって引き立つのである。
  • 道路側の外観。左官塗りの黒い土壁は素朴な質感が魅力。木製サッシも映える。前庭のシンボルツリーは桂の木。「葉がハート形でかわいらしく、秋に落ちた葉はメープルシロップのような甘い香りがします」と藤田さん

    道路側の外観。左官塗りの黒い土壁は素朴な質感が魅力。木製サッシも映える。前庭のシンボルツリーは桂の木。「葉がハート形でかわいらしく、秋に落ちた葉はメープルシロップのような甘い香りがします」と藤田さん

  • 空が見える吹抜けのリビング。冷暖房には奥の黒い除湿型放射冷暖房のルーバーパネルと薪ストーブを使う

    空が見える吹抜けのリビング。冷暖房には奥の黒い除湿型放射冷暖房のルーバーパネルと薪ストーブを使う

どこを切り取っても絵になる
「映える(ばえる)家」

居心地のよい空間はまだまだある。例えば1階の和室。焼き物に使われる呉須(ごす)という顔料を混ぜた土壁がやさしい落ち着きを醸し、ノスタルジックな温かみがある空間だ。

2階の洋室は奥さまの希望で壁の一部にウィリアム・モリスの壁紙を張ってあり、描かれた木々が窓越しの自然と調和。年月を経て内装の杉があめ色に変化すれば、ますます雰囲気のある部屋になるだろう。

この洋室は、ちょっとしたことで居心地が大きく変わることも教えてくれる。それは藤田さんが設置した、裏庭が見える窓の窓台。窓際で本を読むときにコーヒーカップを置いたり、野花を飾ったり……。窓台があることで窓際は立派な居場所になり、暮らしの楽しみもぐっと増える。

2階は吹抜けに面した通路にカウンターがあり、ここも魅力的な居場所の1つ。正面にある吹抜け上部の大きな窓にスクリーンを下ろし、プロジェクターの映像を映し出せばホームシアターの特等席に。スクリーンを上げると外が見え、前庭に植えたシンボルツリーの桂が育てば豊かな緑が見える場所になる。

F邸はよく目につく窓に木製サッシを使用しており、これが空間の魅力を大きくアップ。中でも1階のLDKの大きな窓は、長野県の山崎屋木工製作所がつくった国産ヒノキの特注品。既製品の木製サッシは輸入材を使ったものが多いが、ここはオーダーすれば国産材であつらえてくれるという。

こうしてF邸を見ていて実感するのは、全体をバランスよくまとめる藤田さんのセンスのよさだ。自然素材や大工職人、左官職人の手仕事は、それだけでゆるぎない魅力がある。けれど、いいものを使っても設計者のセンスが残念だと、全体の仕上がりも残念になりかねない。

その点で藤田さんは、生まれもった才なのか、手仕事に携わる多くの作家と交流があるからか、本当にセンスがいい。その証拠にF邸はごく普通の生活シーンが不思議と絵になり、居心地も抜群。「映える(ばえる)」家とは、まさにこの家のことをいうのではないだろうか。
  • ダイニングは、裏庭がちょうどいいサイズで見える窓際に。ほどよいこもり感があって落ち着く

    ダイニングは、裏庭がちょうどいいサイズで見える窓際に。ほどよいこもり感があって落ち着く

  • 2階の通路。写真右手前は、吹抜けに面したカウンター用の椅子。奥の梯子階段をのぼると見晴らし台がある

    2階の通路。写真右手前は、吹抜けに面したカウンター用の椅子。奥の梯子階段をのぼると見晴らし台がある

鎌倉の家づくりの落とし穴に
確かな知見で万全の対策を施す

素敵な居場所がたくさんあるF邸だが、家を建てる上での懸念点がないわけではなかった。実は、この土地は敷地内と道路側に水路があって地下水位も高く、念入りな湿気対策が不可欠だったのである。

土地探しからサポートした藤田さんは湿気の課題を丁寧に説明したが、Fさまご夫妻は水と緑のある環境を気に入り、この敷地を希望。ところが、ご夫妻はエアコンをあまり使いたくないとの要望ももっていた。

これはなかなかの難題だった。F邸は風通しのよい窓配置だが、湿気が気になる土地では入ってくる外気の湿度も高い。そういった土地でエアコンを使わずに換気と空調を両立させるのは至難の業だ。

しかし藤田さんは、なんとかしてエアコンを使わない暮らしをかなえようと、湿気対策として床下を利用した換気システムや、家庭用除湿器を設置。冷暖房はFさまの希望だった薪ストーブと除湿型放射冷暖房のルーバーパネルを導入した。さらに、実際に暮らしてやはりエアコンが必要だと感じたら設置できるようにもしている。さまざまな可能性に思いをめぐらせ、先々も快適に暮らせるように手を尽くしてくれているのだ。

鎌倉に家を建てることに憧れる人は多い。しかし鎌倉は、斜面が多い、地下水位が高いなど、快適な住まいをつくる上でのハードルも少なくない。設計には幅広い知識と対策が求められるエリアでもある。

懸念点がある土地でも、デザインセンスだけでなく、住宅性能に関する確かな知見をもつ藤田さんなら安心だ。ちなみに藤田さんは、素材の調達や施工はできるだけ直取引をおこない、コストを圧縮してくれる。生産者やつくり手の顔が見えて高品質、価格も適性な素材を使った住まいで、永く、穏やかに暮らしたい──。そう考えるなら、藤田さんのような建築家に家づくりを委ねたい。
  • 古民家を彷彿とさせる、縁側のある和室。邸内の壁は漆喰を使っているが、この和室だけは土壁。焼き物の顔料である呉須(ごす)で色づけてあり、温かみのあるナチュラルな色と質感に心が和む。おもてなしはもちろん、ご夫妻の寝室や来客の宿泊にも使える落ち着いた空間

    古民家を彷彿とさせる、縁側のある和室。邸内の壁は漆喰を使っているが、この和室だけは土壁。焼き物の顔料である呉須(ごす)で色づけてあり、温かみのあるナチュラルな色と質感に心が和む。おもてなしはもちろん、ご夫妻の寝室や来客の宿泊にも使える落ち着いた空間

  • キッチンの壁タイルはFさまご夫妻が好きなブルー。磁器のランプシェードは益子の作家・伊藤叔潔さんの作品

    キッチンの壁タイルはFさまご夫妻が好きなブルー。磁器のランプシェードは益子の作家・伊藤叔潔さんの作品

撮影:砺波周平

間取り図

  • 配置図

  • 1F 間取図

  • 2F 間取図

  • RF 間取図

基本データ

作品名
北鎌倉の家
施主
F邸
所在地
神奈川県鎌倉市
家族構成
夫婦
敷地面積
375.00㎡
延床面積
92.62㎡
予 算
4000万円台