眺望や最新設備が魅力のタワーマンション高層階。でも、マンションの内装素材はビニールクロスなどの新建材が一般的。「マンションでも、天然の木や漆喰を使った自然素材の心地よさを味わいたい」という希望を見事にかなえ、“住まい方”までをも豊かにしたBois設計室のリノベーションを紹介しよう。
この建築家に玄関と居室の境の引き戸を開けると、左手に和室、奥にLDKがある。写真左手前のシューズクローゼットも徳島の杉板。好きなものを飾ることができるニッチ棚の壁は、土壁に光沢を出す大津磨きの技法を用いている。藤田さんと懇意にしている若い左官職人の手によるもの
ブルーグレーの壁は書斎の壁。その左脇にはクローゼットがある。クローゼットや、その手前の収納棚の扉に用いた杉は、木の赤い部分と白い部分が混じった「源平」という杉板で、かつ、節の少ないもの。時間が経つと赤と白が均一に馴染み、味わい深い色になる
LDKの中心に位置する書斎。壁は呉須という焼き物の顔料で色付けした土壁。化学的な顔料とは一味違う温かみのある色合いが、天然の杉板と好相性
書斎の中。背後は一面の本棚で、普段から手に取る本が多いというNさんにぴったりの空間となった。前方のデスク側は中間が開いており、南東の窓越しの景色が見える。それでいてダイニング側からはデスクの手元が見えないので、書類が多少散らばっていても気にならない
開放感あふれるダイニング。写真右が書斎、写真奥がキッチン。天井や白い壁は漆喰、床は徳島の杉板。藤田さんはマンションリノベーションの場合、遮音に関する規約をクリアするために遮音性能がデータ証明された置き床を杉板の下に入れ、施工も細やかに配慮する
ダイニングの左に位置する、レールのペンダント照明の下にはカウンターを設置。キッチンから食事を出すときなどに重宝する。このカウンターは可動式で、雰囲気を変えたくなったら移動させることもできる
写真左、壁の国産タイルがかわいらしいキッチンには、食器などを多数もつNさんのためにたっぷりの収納を設けた。写真中央の書斎は左右どちらからも出入りでき、書斎~キッチン~ダイニング~寝室~水まわりまで回遊できる造りになっている
ダイニングテーブルのペンダントライトは、アンティークのガラスシェード。ほんのりと光を透過し、心が和む。藤田さんはインテリアの小物選びのセンスも抜群。相談すれば、さまざまな作家さんの作品など、知る人ぞ知る素敵なアイテムを教えてくれる
寝室はNさんのリクエストで和室に。天井は呉須で色付けした漆喰。グレーの壁は同じく呉須で色付けした土壁。グレーの壁には深めに掘ったニッチ棚があり、寝る前に読む本などを置ける
リノベーションでは将来を考えて全体をバリアフリーにしている。水まわりも、車いすでも使える広々した空間。中央の柱の部分は壁があり、壁の右側は浴室前の脱衣室。左のトイレスペースの窓の先はLDKで、水まわりにも光と風を入れることができる
撮影:遠山功太