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好対照な個性を反映した、隣り合った姉妹の家を、同時に設計

2016年10月21日 ── ・家づくり ── 20490

都内の約50坪の敷地に、姉妹それぞれの家族が住む家を建てる。しかも1軒は、母との2世帯住宅。建築家の角倉剛(すみくら・たけし)さんが取り組んだのは、そんな手強い案件だった。両家でまったく異なる要望と、日影制限など都内ならではの細かな規制を受け止め、丁寧に実現していった角倉さん。その過程を、角倉さんに加え施主のS様・K様にじっくりとうかがった。

書いた人 KLASIC編集部

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    作った人 角倉 剛

    住んでいる人 親 + 夫婦 + 子

    おおらかなS邸、繊細なK邸。設計は「高さとのせめぎ合い」へ
    • 両家の全景。手前(写真右)の白い家が妹さん一家のK邸、奥(写真左)のガルバリウム外装の家がお姉さん一家とお母さまが暮らすS邸

     元々、姉のS様一家と妹のK様一家、そして姉妹のお母さまは、それぞれ別々に居を構えていた。「娘夫婦はどちらも子どもを抱えての共働きで、『私が近所に引っ越せば、少しは孫の面倒も見られるのにね』なんていう話をしていたのです」とお母さま。「だったら、いっそ3家族が近隣で暮らせば、お互いにサポートしあえるということになり、両家のご主人も賛成してくださったことで一気に話が進みました」。

     都内に土地を見つけた施主様たちは、当初、ハウスメーカーなどに相談したそうだ。「でもハウスメーカーには独自の規格があって、『これを50cmずらして』ができないのです」と妹のK様。「特に私たち一家と母が暮らす二世帯住宅は、建築家に頼まないと希望がまったくかなわないことがわかりました」と姉のS様。「私、以前テレビで『都内の狭い敷地を最大限に活かした家を建てる建築家』として角倉さんが紹介されていたのを、なぜかはっきりと覚えていたのです」とお母さま。すぐに相談のメールを角倉さんに送信。角倉さんの奮闘がスタートした。

     土地の購入時には、姉のS様一家とお母さまの家を前面道路から見て奥に配置。妹のK様宅を手前に建てることをお施主様は既に決めていた。
    「しかし皮肉なことに、奥のS様は『できるだけ開放的な家』を望み、道路に面した角地に建つK様は『防犯とプライバシー重視』だったのです」。そこで角倉さんはK邸の道路側に、下部を壁で覆われた坪庭を設置。各階の主な部屋は坪庭に開口部を設けることで、プライバシーを高める工夫を施した。「坪庭を、外と内との緩衝空間にしたことで、安心感と同時に採光と通風も確保できました」。

     角地の家・K邸は「とにかく高さとのせめぎ合いでした」と角倉さん。そのせめぎ合いの跡は、たとえば子ども部屋のある3階の天井に見られる。「いちばん高い部分で220cm、そこから日影制限と高さ制限を考慮したために勾配をつけています。2階から3階に上がる階段も、普通に設置すると上がりきった際に天井に頭がぶつかってしまうため、動線と天井の勾配を何度も計算しました」。建物全体を少し地下に埋め込むなど、可能な限りの工夫を施すことで、圧迫感のない生活空間を確保していった。

     限られた空間を有効活用するために、K邸は「回遊する家」となった。「リビング、ダイニング、キッチン、そして書斎スペースを納めた2階は、全室がぐるりとつながっており、自由な動線が生まれています」。視線も行き届く構造だ。一段高くなったリビングからは3階も含めた全体を見渡すことができる。お子さんたちの勉強机になっている書斎スペースは、キッチンからも目が届く。「ちなみにキッチンは専門メーカー製のオーダーメイド。収納の使いやすさと見た目の格好良さは、奥様のお気に入りです」。

     施主様からの細かな要望が丁寧に実現されていることも、K邸の大きな特徴だ。「K様ご夫婦はともに理系の方なので、図面を見るのにまったく抵抗がありませんでした。ですので『この空間はこう活用できるのでは?』といったアイデアを次々に出されて、設計者としてはとても刺激的でした」と角倉さんは言う。「たとえば、玄関を入ってすぐ上がり框があり、その奥は浴室へ向けて数段下がっています。この上がり框の下の部分が『奥行きのある収納に使えるのでは』と奥様に指摘され、スキー板などをしまえる収納施設にしました」。ほかにも洗面室のタオル掛けの数や高さなど、生活目線からの要望が数多くあり、角倉さんはそれらを確実に形にしていった。



    • K邸の坪庭から上空を見る。小さな空間だが、道路と家を隔てながら各居室に光と風を送り込む重要な存在である

    • K邸の玄関を、浴室側から撮影。階段下の段差部分が、奥行きのある収納施設になっている

    • K邸のリビング。写真右奥がダイニング、左奥が書斎スペース、中央のらせん階段を上がると3階。高さ制限のため、屋根が勾配になっている

    • K邸外観。目隠しとなる壁の向こうに坪庭がある。1階には覗き見を防ぐため、ルーバーを設置している

    • お子さんたちの勉強の場になっているK邸の書斎スペース。写真奥の右手側にキッチンがあり、動線がつながっている

    • K邸3階の子ども部屋。姉弟の2人兄弟なので、将来部屋を分割できるよう、入口が2つ設けられている

    • K邸のリビングに、大きな窓から光を届ける坪庭。外へ出ると小さなバルコニーとなっており、物干し場として活用されている

    • キッチンは専門メーカー製のオーダーメイド。収納の使いやすさと見た目の格好良さは、奥様のお気に入り

    どんな要望も大歓迎。様々な条件下で最高の家を形にするのがプロ
    • (S邸キッチン) S邸キッチン。洗い場と一体になったダイニングテーブルは、家具業者に発注して造作した

    • S邸のフリースペースからリビングとダイニングキッチンを望む。上部は3階の寝室

    • S邸外観。外壁と屋根はガルバリウム鋼板。

    • S邸屋上。住宅街ながら、かなり視界が開ける。条件が良ければ富士山も見えるそうだ

    • S邸のリビングからバルコニー越しにK邸のリビングが見える。姉妹の家だから、あえて気配が感じ取れるようにした

    • 正面が3階へと上がる途中に設けられたフリースペースで、たっぷりと日差しが入る

    • S邸1階、お母さまの住居のリビング。

    • 1階リビング、南東の一角が吹き抜けになっており、たっぷりの光が注ぎ込む

    • S邸1階のキッチン。このキッチンは既製品だ。母、姉、妹が、それぞれ違ったタイプのキッチンを選んでいるのが興味深い

     一方、奥の家のS邸は「非常におおらかで、ざっくりとしたご要望でした」と角倉さんは言う。「S様から求められたのは、とにかく開放的であること。南側に妹さんの家があり、高さも建ぺい率も目いっぱい使っている状況で、いかに日照と開放感を確保するか、頭を悩ませました」。その結果、2階の生活空間はほぼワンルームの広々としたLDKとした。「子ども部屋以外はひとまとまりの大きな空間です。さらに寝室のある3階へ上がる階段をあえて南側に設け、途中に大きな窓を持ったフリースペースを設置しました」。

     このフリースペースが、2階の居室に向けて斜め上からたっぷりの日差しを取り込む、絶妙な空間となった。「夏は日が入りすぎて暑いくらいです」と苦笑しながらも、Sさんご夫婦は「この空間のおかげで3階に向かって吹き抜けができ、すごく開放感があるんですよ」とご満悦だ。さらにご主人の強い希望で屋上も作られた。「眺めも良いし、周囲の家もあまり気になりません。ときどきミニバーベキューを楽しんでいます」とSさんのご主人。こちらもお気に入りの場所になっているそうだ。
     

    S邸の1階は、姉妹のお母さまの住まいになっている。「この空間をいかに明るくするかが、今回の最大のポイントでした」と角倉さんは言う。駐車場の位置取り、2軒の配置と距離の取り方など、いくつもの案を出してはやり直し、「最終的に、南東側に広めの吹き抜け空間を設けることで、かなり明るさを確保できました」とのこと。お母さまの趣味である木彫りの作品が数多く置かれたリビングは、独特の落ち着いた雰囲気を醸し出している。「キッチンやバス、トイレもあるのがうれしいですね。上の階や隣の家でもしょっちゅう過ごしますが、やはり自分の空間があると落ち着きます」とお母さまも笑顔で語る。

     

    • お施主様と談笑する角倉さん

    • お施主様と談笑する角倉さん

    今回のプロジェクトは、角倉さんにとってもやりがいのあるものだったと言う。「姉妹とお母さまで、ご要望がまったく違う。次々とテーマが与えられるのが面白くて、楽しみながら設計していました」。姉妹の家が隣り合うことのメリットも大きかったと言う。「他人同士なら境界線を明確にして柵や塀が必要になりますが、それが不要なので空間を有効に使えました。実はお互いのリビングが窓越しに見えるのですが、それも『気にならない。逆にお互いの存在を感じられて良い』とのことで、最低限の目隠しだけで済ませています」。まったく違う個性を持った家だが、2軒はゆるやかにつながっているのだ。

     施主様たちは、「いろいろ意見を言って、まとまらなくて申し訳なかった」とおっしゃるが、角倉さんは「それをまとめることが私の役割です」と言う。「どんなに広い土地で、どれだけ資金に余裕があっても、それを超えた要望が出るのが家づくりです。それをどう納めていくか、法律や規制を踏まえてベストのものをご提供するのが、プロの仕事。どんなご要望も、大歓迎です。『家とはこうあるべき』という先入観を捨て、施主様の思いに寄り添って、最大限のパフォーマンスをご提供したいと、常に心がけています」。

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