本計画は新興分譲地に計画された一戸建て住宅のプロジェクトです。分譲地は東海道の宿場町である「水口宿」に位置し、今でも昔ながらの瓦屋根の町並みが沢山残る地域に位置しています。クライアントは、新興の分譲地ながらも出来る限りこの昔ながらの街並みに配慮した外観や景観を希望し、日本の自然素材を使用した住まいを望まれました。
「多様で豊かな中間領域」
そこで本計画では、近隣の宿場町にも残る和瓦の屋根と左官の外壁を使用し、凛とした半平屋の佇まいとなる大屋根の外観を構成しました。そして外観のアクセントとなる格子扉を門柱の代わりとなるように使用し、「多様で豊かな中間領域」(玄関ポーチや中庭など)を創り出しました。私は「人や自然に寄り添い日常に馴染むシンプルな空間」こそ、豊かな住まいだと考えています。その為にも機能性を確保しつつも余分なモノはなくし、「多様で豊かな中間領域」を造ることがとても大切だと考えます。動線や間取りはシンプルにし、空間を断面的に考え、外観は虚飾のない凛とした佇まいに。敷地や空間に生まれた「中間領域」は、自然溢れる奥深い空間を生み出し、私達に「多様な豊かさと質」を与えてくれると考えます。
「多様な繋がりや奥行」
内部にも左官と日本の木である「杉や松」を使用し、「内障子や障子戸」との組み合わせで外部と内部が緩やかに繋がる空間を創り出しました。建築の設計とは境界を考える行為です。その為空間同士の「繋がりや境界の奥行」を考えることがとても大切です。例えば、縁側や軒下、通り土間に坪庭など、日本の住まいは昔から内と外との境界に多様な半屋外空間(中間領域)があり、格子や障子など多様な空間の仕切り方が存在しました。そんな日本の風土に適した中間領域や仕切り方は、空間に「多様な繋がりや奥行感」を与え、暮らしに豊かさを与えてくれると考えます。
「五感で感じる豊かな変化」
また、人は自然の移ろいや光と影など「変化するモノ」に心動かされ、年月を重ねる程「味わいを増すモノ」に心惹かれます。本計画でも沢山の自然素材を使用し、経年変化を味わえる素材選びに配慮し、光と影を演出できる空間を創り出しました。日常の中で、ふと空を見上げたくなったり、モノに触れたくなったり、そこにとどまりたくなるような。そんな「はっ」とする日常の心の変化をデザインすることは出来ないか・・・私は建築的操作で何気ない日常の中に「五感で感じる豊かな変化」を造り出し、年月の経過と共に味わいを増す魅力的な住まいを造りたいと考えます。