これは、商店街に面する老朽化した貸ビル解体後の、土地利用の更新のあり方に向き合ったプロジェクトです。
敷地は大分市中心部、地元で最も古い商店街の西端。かつての賑わいは影を潜め、アーケードは通り道と化していました。この街で不動産賃貸業を営むクライアントから、解体後駐車場にする予定の敷地の一角に、小さなテナントスペースと人々が憩える公園のような居場所を作り、もう一度この界隈に賑わいを取り戻したいと依頼を受けました。
日常の延長線上にあるもの、何気ない日々の生活に彩りを添えてくれる、そのようなテナントのイメージがありました。
また、アーケードを挟んだ正面には、同クライアントが所有する複合施設wazawazaビル(※1)があり、二つの施設が連動しながら一緒に街を盛り上げていくことも要望の一つでした。
人を惹きつける空間には、作り手側と共通の認識で場を盛り上げていってくれる入居者の存在が必要不可欠だと捉え、先に入居者を決めてプロジェクトを進めるコーポラティブな場の作り方がここでは相応しいと考えました。
また、建築は小さいながらも、複数の店舗と内外に様々な居場所を作ることで、賑わいや多様な体験ができるようにしました。
そうして決まった3つの店舗は行き止まりとせず、回遊性を持たせ、いずれかの店舗を訪れた人が他店にも立ち寄る動きを促すよう丁寧に建具の位置を検討。
解体時に掘削した地盤面は埋戻さず、その形状を生かし囲まれた落ち着きのある共有スペースに。
ふらっと立ち寄れる店先空間や、季節の移ろいを感じるテラス席は、誰もが気軽に訪れる公共空間としての質を高めています。
商店街への雨の降り込みを最小限に抑えながらアーケードと建物の縁を切ることで光や風を商店街へ届ける。建物を介して表と裏がつながる。それら少しの違和感が通りゆく人々を惹きつけ、ふと立ち止まるきっかけとなっています。
wazawazaビルの増改築の過程で生まれた路地を建物内に引き込み、2棟を貫く路地もこのエリアの魅力を引き出す一端を担っています。
竣工して数ヶ月が経ち、明らかに人の流れやこの界隈を訪れる人の量が変わったと感じます。
この場所が人の流れを活性化し、現在の不安な日々の希望となるよう、設計の枠を超え積極的にこの場に関わっていこうと思っています。
※1 wazawazaビル(WZ bldg.):塩塚隆生アトリエ 塩塚隆生氏設計により2009年完成
撮影:矢野紀行