料理も空間も評判の、居心地満点レストラン
理想の生活と仕事を両立させた店舗併用住宅

開放的な子世帯と、レトロモダンな親世帯。そして、ホッと和める居心地の良いレストラン。異なる3つの世界を備えた店舗併用住宅を設計したのは、コーデザインスタジオの小嶋直さん。公私を共存させつつ世界観はしっかり分けたプランニングの魅力に迫る。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

生活のノイズがない店舗を実現させた
T字プランと外観デザイン

流山おおたかの森駅周辺といえば、商業施設も自然も豊富で子育てしやすいと注目される千葉県の人気タウン。その閑静な住宅街を歩いていくと、雰囲気の良い三角屋根の一軒家が目に入る。知る人ぞ知る隠れ家的なイタリアンレストラン、『Casa del sole(カーサ デル ソーレ)』だ。

ネットの口コミを見ると、イタリア郷土料理のおいしさや厳選食材への絶賛コメントと同時に、建物や空間に関する好意的なコメントが目に付く。いわく、「外観が素敵」「おしゃれなお店」「店内細部までこだわりを感じる」etc.

訪れた人の印象に残る建物を設計・デザインしたのは、コーデザインスタジオ代表の小嶋直さん。洗練されたナチュラルな作風が人気だが、誠実なメンテナンスサポートへの評価も高く、信頼できる建築家として多くのファンを獲得している。

今回手がけた『Casa del sole』は、K様一家が親族から受け継いだ土地の古い屋敷を取り壊し、新たに建築した店舗併用住宅だ。住んでいるのはK様夫妻とお子様2人、奥様のご両親の計6人。建物は木造2階建てで、1階はK様がオーナーシェフを務めるイタリアンレストランと親世帯、2階は子世帯となっている。

口コミでも評判の店舗について、小嶋さんはこう振り返る。

「店舗に対してK様が望んでいたのは、住居の生活感を出さないことでした。そこでパブリック(店舗)とプライベート(住居)のベストな位置関係を熟考し、何度もプランを練りました」

試行錯誤の末に完成したのは、平面図で見るとT字になった現在のプランだ。店舗と子世帯は1階、2階という上下のゾーニングで領域を分け、店舗と親世帯が同じフロアに共存する1階については、T字の形を生かしてゾーニングしたのである。

「1階はT字の縦ラインを店舗、横ラインを親世帯にして、仕事と暮らしの領域を分けています。また、それぞれの入口は、T字の縦ラインの右側に店舗エントランス、左側の奥に住居玄関を配置して動線を分け、独立性を担保しました」

さらに、小嶋さんは外観のデザイン面でも公私の世界を分けていて、外壁は店舗部分と住居部分で色をチェンジ。1階と2階の間には三角屋根をぐるりとかけ、下の店舗と上の子世帯で公私が分かれていることを表現した。

もちろん、洗濯物を干すテラスやプライベートな庭が見えないように計画し、吸音材で生活音を響かせないなどの細やかな対策もぬかりナシ。これらの多角的な工夫が実を結び、視覚的にも体感的にも生活のノイズがいっさいなく、おいしい料理の世界に浸れる素敵なレストランが完成した。
  • 写真左の木製ドアが店舗エントランス。角地のどちらの道路からもアプローチしやすい位置で、来客促進の面でもベストなプランとなっている。外壁は店舗部分がモルタル、住居部分は明るく塗装した杉材を使用。親世帯の庭は大和塀で目隠ししている(写真右)

    写真左の木製ドアが店舗エントランス。角地のどちらの道路からもアプローチしやすい位置で、来客促進の面でもベストなプランとなっている。外壁は店舗部分がモルタル、住居部分は明るく塗装した杉材を使用。親世帯の庭は大和塀で目隠ししている(写真右)

  • 店舗エントランス。ハーブやフルーツに彩られた数段の階段をのぼると、レストランを訪れる華やいだ気持ちが盛り上がる。木製ドアはオーダーでつくったオリジナル。ドアの取っ手やメニューのディスプレースペースの照明は真鍮でつくっている

    店舗エントランス。ハーブやフルーツに彩られた数段の階段をのぼると、レストランを訪れる華やいだ気持ちが盛り上がる。木製ドアはオーダーでつくったオリジナル。ドアの取っ手やメニューのディスプレースペースの照明は真鍮でつくっている

  • 山海の幸を描いたお店のロゴを、レーザーで丁寧にくり抜いた真鍮の看板。小嶋さんはクリエイターの人脈が豊富で、お店のロゴデザインや看板製作などの相談にも乗ってくれる

    山海の幸を描いたお店のロゴを、レーザーで丁寧にくり抜いた真鍮の看板。小嶋さんはクリエイターの人脈が豊富で、お店のロゴデザインや看板製作などの相談にも乗ってくれる

  • 店舗は、ドアを開けると店内全てを見渡せるオープンな造り。イタリアの親しみやすいレストランをイメージし、床はモルタル、壁は炭を混ぜた自然塗料で温かな雰囲気に仕上げている。壁はK様一家が左官塗りに挑戦。手仕事のざっくりした風合いが味わい深い

    店舗は、ドアを開けると店内全てを見渡せるオープンな造り。イタリアの親しみやすいレストランをイメージし、床はモルタル、壁は炭を混ぜた自然塗料で温かな雰囲気に仕上げている。壁はK様一家が左官塗りに挑戦。手仕事のざっくりした風合いが味わい深い

  • 店内はK様と綿密に打ち合わせを行い、お客様との距離感や、お客様からの見え方などを丁寧にカスタマイズして設計。カウンターは3mのマホガニーの一枚板を使用。一見するとシンプルな空間だが、使っている素材の良さが印象をランクアップしている

    店内はK様と綿密に打ち合わせを行い、お客様との距離感や、お客様からの見え方などを丁寧にカスタマイズして設計。カウンターは3mのマホガニーの一枚板を使用。一見するとシンプルな空間だが、使っている素材の良さが印象をランクアップしている

本物志向だけど気取らない
イタリア旅行気分でくつろげるレストラン

完成した『Casa del sole』を、レストランを訪れるお客様目線で見てみよう。

明るい色使いの一軒家は植栽の緑とのコントラストが美しく、エントランスはヨーロッパ的なかわいさも感じられ、「レストランに来た」というハレの華やかさは満点。それでいて周囲の街並みから浮いたりしないのは、小嶋さんのデザインの絶妙なさじ加減のおかげだろう。

外観に見とれながらアプローチを進んでいくと、ハーブやオリーブ、柑橘類など、食材にもなるグリーンたちがお出迎え。その先の小さな階段をのぼると真鍮の看板が目に入り、描かれた自然の恵みに心が躍る。

期待を胸にドアを開けると、そこはイタリアの田舎町にありそうな感じの良いレストラン。モルタルの床や、K様一家が自ら左官塗りした壁はざっくりした風合いが心地よく、ホッとくつろげる気取りのない雰囲気を醸し出す。

ここで声を大にして言いたいのは、気取りがないといっても安っぽさとは無縁で、むしろ、空間に上質な豊かさがあることだ。それはクラフトマンシップあふれるインテリアを選ぶK様夫妻の審美眼、小嶋さんが提案する素材や小物のクオリティによるところが大きい。

例えば、小嶋さんは魅力的な作品をつくる作家さんとのリレーションを構築しており、光がきれいに広がる照明の台座など、オリジナリティのある素敵な作品を採用。職業柄、建物の解体事業者から譲り受けた古い建具や小物のストックもあるそうで、『Casa del sole』の手洗いボウルもそうした小嶋さんコレクションの1つ。探しても簡単に手に入らない品々が、店内に味わいを添えている。

素材使いも本物志向で、カウンターはマホガニーの一枚板、テーブルもモンキーポッドの一枚板という贅沢さ。施工会社が木材事業者でもあるため、良質な素材を適正なコストで手に入れることができたという。

丁寧につくられたものを丁寧に選んで完成した『Casa del sole』が、すっかり人気店になっているのは先述の通り。ギラギラの高級感とは違う空間の上質感、飽きの来ない居心地の良さは、このレストランの強力な武器なのだ。
  • 6人席のテーブルの天板は、モンキーポッドの一枚板。実は贅沢に2つにカットしてあり、ニーズに合わせて2人席と4人席に分けることもできる

    6人席のテーブルの天板は、モンキーポッドの一枚板。実は贅沢に2つにカットしてあり、ニーズに合わせて2人席と4人席に分けることもできる

  • ペンダントライトはK様夫妻のセレクト。テーブル脇の小窓から外の緑が見え、ホッと心が和む

    ペンダントライトはK様夫妻のセレクト。テーブル脇の小窓から外の緑が見え、ホッと心が和む

  • 店舗の手洗い。照明の台座は作家さんの作品。放射状の光が美しい。趣のある手洗いボウルは小嶋さんが提供

    店舗の手洗い。照明の台座は作家さんの作品。放射状の光が美しい。趣のある手洗いボウルは小嶋さんが提供

古いものを受け継ぐ深みのある住空間
子世帯には青空を楽しむ畳リビングも

最後に、住居部分についてもご紹介したい。二世帯が暮らすプライベート空間は、使い勝手の良い大きな土間を設けた共用玄関からスタート。2階の子世帯は「和テイスト」という要望に応え、リビングは畳の小上がりがメインスペースとなっている。

注目は、畳に座ったときに空だけが見えるよう、窓の位置や大きさが計算し尽くされていることだ。北以外の3面に窓があるため、実際に座ると視界の端から端まで青空が広がって、屋外でピクニックをしているよう。空を感じるダイナミックな開放感がこの上なく気持ちいいリビングだ。

一方、1階の親世帯は、レトロモダンな大人の雰囲気。70~80年代の椅子や桐箪笥をリペアして入れており、深みのある表情が空間をランクアップ。小嶋さんはこれらの家具を見せてもらって寸法も取り、レイアウトをイメージしながら空間をプランニングしたという。

ほかにも『Casa del sole』では、照明器具、門扉など、建て替え前の家から受け継いだものが多く取り入れられている。新築に古いものを合わせると浮いてしまうことも少なくないが、この家では風合いの良い自然素材の内装のおかげか、あるいは床や壁の繊細な色味のおかげか、新空間にしっくりマッチ。家具や小物にとどまらず、以前の庭にあったヤマモミジやツツジなどの植栽も親世帯の庭に植え替えられ、K様一家を見守っている。

こうして見ると『Casa del sole』は、開放的な子世帯、シックな親世帯、イタリアの風を感じる居心地抜群のレストランと、全く異なる3つの世界を内包した宇宙のように思えてくる。そのどれもがK様一家の思いを温かく映し出し、これから重ねる時間も大切に刻み込む宝物のような場所であることは間違いない。
  • 住居の玄関土間。二世帯共用の玄関で、階段をのぼると子世帯。写真奥の引き戸を開ければ店舗にも行ける。小嶋さんは生活空間の1つとして土間をデザインするのが得意で、この家でも玄関ホールやディスプレースペース、収納を兼ねた「使える土間」を計画した

    住居の玄関土間。二世帯共用の玄関で、階段をのぼると子世帯。写真奥の引き戸を開ければ店舗にも行ける。小嶋さんは生活空間の1つとして土間をデザインするのが得意で、この家でも玄関ホールやディスプレースペース、収納を兼ねた「使える土間」を計画した

  • 子世帯のLDK。リビングはK様の要望で和テイストのデザインに。畳リビングはお子様が座っておもちゃ遊びなどをするのにぴったり。開放的な連続窓は、畳リビングに座ったときに空だけが見えるよう、高さや大きさを調整している

    子世帯のLDK。リビングはK様の要望で和テイストのデザインに。畳リビングはお子様が座っておもちゃ遊びなどをするのにぴったり。開放的な連続窓は、畳リビングに座ったときに空だけが見えるよう、高さや大きさを調整している

  • 1階親世帯のLDK。家具はご両親が以前から持っていたものや、ご祖父母が使っていた思い入れのあるものを適宜リペアして取り入れている。床や壁は親世帯も子世帯も自然素材だが、親世帯では家具のレトロな表情に馴染むよう、色を微妙に変えている

    1階親世帯のLDK。家具はご両親が以前から持っていたものや、ご祖父母が使っていた思い入れのあるものを適宜リペアして取り入れている。床や壁は親世帯も子世帯も自然素材だが、親世帯では家具のレトロな表情に馴染むよう、色を微妙に変えている

撮影:金田幸三

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
Casa del sole(カーサ・デル・ソーレ)
施主
K邸
所在地
千葉県柏市
家族構成
夫婦+子ども2人+両親
敷地面積
250.73㎡
延床面積
159.86㎡
予 算
4000万円台