まるでホテルのような高級感と最新設備
釣りやパーティーを楽しむ囲炉裏を備えた家

高級感のある仕上がりを求められ、家づくりの途中からプロジェクトに参加することとなった建築家の田主さん。ヒアリングを進めるうち、お施主さまのライフスタイルに密接した、より具体的な空間づくりをしたいと考えた。家の中心にあるのは、釣った魚をその場で調理できる、囲炉裏を備えたパティオだ。

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多くの人が集まる、夫婦2人暮らしの家
用途を明確にした提案で一層充実した日々に

芦屋マリーナの一角、所有するクルーザーを家からすぐの場所に停泊できる特別なエリアにM邸はある。釣りがお好きだというMさま夫妻は、2人で住まうための家をここに新築しようと決め、計画を進めていた。

株式会社ボーダレスデザインの田主健二さんがこの家づくりに参加したのは、その途中のことだったという。建物のフォルムや大まかな間取りが決まりつつあった時期で、当初は主に内装や外装の全体的なコーディネートを担当するという依頼だった。

ただ、打ち合わせを通してご夫妻が望む暮らし方を理解するにつれ、ライフスタイルに合うようひとつひとつのエリアをもう少し明確につくり上げる方がよいのではと判断。お施主さまに自由に使ってくださいというのではなく、過ごし方を含めた提案をするために少し間取りを変えた部分もあったとのこと。

完成したのはかなり大胆な家だ。ホームパーティーを開くことが多いことから、まず1階は来客のために完全に開放。2階も人が集える広々としたリビングを擁している。3階は夫妻の寝室や水回りとプライベートな空間を集めたが、夏はマリーナに上がる花火も皆で楽しめる、ゆったりと使い勝手のよいランダも備えた。

夫婦2人暮らしの家であるのと同時に、開かれた家でもあるM邸。「既成概念にとらわれない発想があれば、通常の使い道しかなかった部屋を楽しめる場所に、価値ある場所に変えられる」と田主さんは語る。間取りから設えまで、おもてなしの心に溢れた家を詳しく見てみることにしよう。
  • 1階、囲炉裏のあるパティオ。2階が軒のように張り出しているおかげで天候に左右されにくく、使い勝手も抜群。囲炉裏の右にはミニキッチンも用意した。囲炉裏の奥には和室を配置。パーティーの途中でも寝転がれる場所があるのはありがたいとお客さまからも好評だそう

    1階、囲炉裏のあるパティオ。2階が軒のように張り出しているおかげで天候に左右されにくく、使い勝手も抜群。囲炉裏の右にはミニキッチンも用意した。囲炉裏の奥には和室を配置。パーティーの途中でも寝転がれる場所があるのはありがたいとお客さまからも好評だそう

  • 外観。玄関を通らずとも、エントランスを抜けるとこの場所に出る。大人数でも外部と内部の行き来がしやすい

    外観。玄関を通らずとも、エントランスを抜けるとこの場所に出る。大人数でも外部と内部の行き来がしやすい

釣果をすぐ調理できる囲炉裏スペース。
室内外を一体化し、1階全体を来客に開放

長方形の敷地にL字型の建物を配置したM邸。1階の中心にあるのは、囲炉裏を囲む屋外のスペースだ。当初から人が集まれるようなパティオにしたいという要望はあったが、「集まって、何をするのか」とより具体的な目的を空間に持たせた。もちろん囲炉裏のほかに魚をさばくためのミニキッチンも用意されており、クルーザーを降りてすぐに釣果を調理できる。囲炉裏で今取れたばかりの魚を焼いて食べられるなんて、パーティーも一層盛り上がることだろう。

特筆すべきことはそれだけではない。1階は、来客と一緒に楽しむため、もしくは来客がくつろぐためのスペースしかないのだ。また、屋外である囲炉裏とそれを囲む室内のホールは折れ戸で全面的に開放できる窓で仕切り、さらに囲炉裏とホールは同じタイルを使用している。囲炉裏と室内がシームレスに繋がり、居場所が多く行き来もしやすい、大きな一つの空間となった。

間取りの上では外部からエントランス、玄関、ホールと続いているが、実際には玄関の存在感がないのも面白い。というのも、エントランスからそのまま囲炉裏があるパティオや庭に抜けることができるのだ。つまり、来客はわざわざ玄関を使う必要がないのである。これも固定観念にとらわれずに、この家でどう過ごしたいかを最優先したからこそだといえるだろう。

囲炉裏と直線で繋がる位置には和室を用意。おいしいものを食べて飲んで、すぐそこに寝転がれる畳があるのは来客にとってありがたいに違いない。もちろん、そのまま宿泊するための客間にもなる。パーティー中は1階のどこにでも繋がっているような解放感があるが、障子を閉めればプライバシーが保たれるうえ、来客用の洗面やシャワーにアクセスしやすい方向にも出入口が用意されている。細やかな配慮が嬉しい。

2階に上がると、まず海に向かう一面の大開口に圧倒される。そこにあるのは、3階までの吹き抜けも気持ちがいいリビングだ。思い思いの向きで座れるソファを配置するなど、こちらもホームパーティーで使用することを考えてインテリアを整えた。仕切りなくキッチンやダイニングとも繋がり、2階のLDK全体をパーティーの場として使用できる。人が多く集まる中でもキッチンへの出入りもしやすい点も魅力的だ。
  • 庭から家を見る。手前左の通路は外部と繋がるエントランス。外壁は天然石や天然木を贅沢に使用。パティオから室内のホールまでは焼き物らしい風合いが感じられるタイルを採用した。手前は雨水を利用した小さなため池。昔の暮らしの情景を思い出させる。中には金魚もいるとのこと

    庭から家を見る。手前左の通路は外部と繋がるエントランス。外壁は天然石や天然木を贅沢に使用。パティオから室内のホールまでは焼き物らしい風合いが感じられるタイルを採用した。手前は雨水を利用した小さなため池。昔の暮らしの情景を思い出させる。中には金魚もいるとのこと

  • 1階、室内から囲炉裏側を見る。室内と仕切る窓が大きく開くうえ同じタイルで繋げたおかげで、内部と外部の境界があいまいになり、全体がひとつのスペースとして感じられる。画像左奥にマリーナへの入口がある。釣った魚を2階まで上げずに、ここで調理できるのは便利

    1階、室内から囲炉裏側を見る。室内と仕切る窓が大きく開くうえ同じタイルで繋げたおかげで、内部と外部の境界があいまいになり、全体がひとつのスペースとして感じられる。画像左奥にマリーナへの入口がある。釣った魚を2階まで上げずに、ここで調理できるのは便利

  • 外観。1階部分のゲートから2階ベランダの手すりまでを一体としたモダンなデザイン。中央の扉は玄関

    外観。1階部分のゲートから2階ベランダの手すりまでを一体としたモダンなデザイン。中央の扉は玄関

本物にこだわり、ひとつ上の高級感を。
絶景と、築山の眺めが同時に堪能できる2階

田主さんがもうひとつ意識したことがある。それは、ホテルライクな高級感をもたらすことだ。「Mさまは新しいものもお好きで、最先端のさらに一歩先をいくようなものを望まれていました」と語る。「高級」といっても単純ではなく、お施主さまが望まれるレベルにきちんと対応できるかというのは、経験も必要なため実は難しいという。常に本物志向で、高級な素材などを扱い慣れている田主さんだからこそ任せられると、プロジェクトの途中で声がかかったのだろう。

インテリアはご要望から「外国から見た和」を表現した。「和食でもそうですが、『和』というのは素材を生かすことが重要なんですね」と田主さん。天然木や天然石を外壁や内装に積極的に取り入れた。また、1階の囲炉裏があるパティオやホールで使用したタイルも、日本らしく焼き物の印象が強く感じられるものを採用。表情豊かで重厚感がある。

2階のダイニングには、茶筅をイメージしたライトを取り入れた。組子細工を施した書斎やジムに繋がる引き戸の雰囲気と相まって、モダンな和が感じられる。

お客さまも引き込まれてしまうだろうと想像するのが、2階のリビングから続くバルコニーにつくり上げた築山だ。2階にもかかわらず、窓の外に小さな山ができている。さながら日本庭園のように四季が感じられる樹木も植えられ、贅沢極まりない景観が楽しめる。ほかにも、1階のホールの先に視線の抜けをつくり小さな庭を見せるなど「遊びの空間」を意図的に取り入れた。その余裕こそがホテルライクな雰囲気を生むと田主さんは考えている。

デザインとともに、暮らしやすさについても考慮されているのが心憎い。例えば2階は、リビングはフローリング、キッチンとダイニングエリアはタイル敷きとしている。そのうえで、ダイニングテーブルの下だけは木のヘリンボーン床としているのだ。もちろんデザインという視点もあるが、それ以上に夫婦2人、ゆったり時間をかけて食事をしているときに足元が冷えないようにとの配慮からだという。

芦屋マリーナという、海とともに生活をする場所に建つ家だからこその配慮もある。万が一液状化したときの対策も基礎で施し、インフラが絶たれた場合でも生活できるようあらかじめ設備を整えた。

経験豊かで、さらに新しいものを取り入れる柔軟さも持ち合わせた田主さん。さらに素晴らしい提案力も持ち合わせており、だからこそお施主さまも大満足の仕上がりとなったに違いない。想像を超えるかたちで、望むライフスタイルを叶えられる家をプランニングする。それが田主さんの家づくりだ。
  • 1階ホール。背面に玄関。奥の壁面をガラスとし、緑を見せることで空間にさらなるゆとりをもたらした。通路の奥にはエレベーターや来客用の水回りを配置した。右側の窓は囲炉裏のあるパティオに繋がる

    1階ホール。背面に玄関。奥の壁面をガラスとし、緑を見せることで空間にさらなるゆとりをもたらした。通路の奥にはエレベーターや来客用の水回りを配置した。右側の窓は囲炉裏のあるパティオに繋がる

  • 1階ホールから囲炉裏を見る。画像右側の壁面には玄関扉が見える。玄関のほかに庭からも直接アクセスできるのがパーティーシーンでは便利。ホールには椅子やテーブルを出して居場所を増やすことも可能。画像左の畳スペースは和室

    1階ホールから囲炉裏を見る。画像右側の壁面には玄関扉が見える。玄関のほかに庭からも直接アクセスできるのがパーティーシーンでは便利。ホールには椅子やテーブルを出して居場所を増やすことも可能。画像左の畳スペースは和室

  • 1階トイレは主に来客用。高級感のある仕上がり

    1階トイレは主に来客用。高級感のある仕上がり

  • 1階、シャワー室。メインの浴室は3階にある。こちらは来客が宿泊する場合を見越して計画した

    1階、シャワー室。メインの浴室は3階にある。こちらは来客が宿泊する場合を見越して計画した

基本データ

作品名
M邸
所在地
兵庫県芦屋市
家族構成
夫婦
敷地面積
293.51㎡
延床面積
223㎡
予 算
1億円台