まるで自然の中で暮らしているかのよう
2階に中庭のある、混構造の家

川沿いに土地を購入され、中庭がある家で自然を感じながら暮らしたいと望まれていたお施主さま。しかし、家を貫通する中庭をつくるにはスペースが足りない。そこで建築家の平野さんは生活空間とする2階の真ん中に広々とした庭をつくることを提案。強度や排水などの課題はあったが、混構造を取り入れ実現した。

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川を眺め、自然を感じながら暮らしたい。
明確なイメージを実現した混構造の家

ご夫妻で一緒に仕事をされているTさま。自宅の新築を決断したのは、職住一体の暮らしを実現するためだったという。依頼を受けた平野公平建築設計事務所の平野公平さんによれば、お2人は家づくりのはじまりから暮らし方のイメージがはっきりと固まっていたそうだ。

「川沿いの土地をすでに購入されており、川を眺めながら、自然を近くに感じる暮らしをしたいと希望されていました」と平野さん。計画したのは1階をRC造、2階を木造とした混構造の家。ご要望から、1階には車が2台置けるガレージと、来客用のスペースを計画した。車もお好きだという夫妻。シンプルながら重量感があるフォルムは安心感もさることながら、車の魅力を引き立たせている。コンクリートのためガレージ内で洗車も問題なくでき、使い勝手もよい。

お2人がオフィスとして使うスペースと、リビングや寝室など生活空間を配置した木造の2階は、川に向かって一面を開口。家の外から2階を見上げると、ゆったりとした空間の中で仕事をされているのが見えるかもしれない。さらに、生活空間は奥まっているため見えないが、面白いことに視線が家の中を貫通して空が見えるのだ。まさにそれが「自然を感じながら暮らす」希望を叶えたものだと平野さんは語る。そして、混構造を選択した理由もそこにあるのだという。
  • 外観。1階はRC造、2階は木造の混構造の特徴を外観からも表現した。2階部分の壁面は手入れにも比較的手間がかからない焼杉を採用。2階の大きく開口した窓はFIX。窓の下に網戸を設け、通気ができるようにした

    外観。1階はRC造、2階は木造の混構造の特徴を外観からも表現した。2階部分の壁面は手入れにも比較的手間がかからない焼杉を採用。2階の大きく開口した窓はFIX。窓の下に網戸を設け、通気ができるようにした

  • 1階ホール。画像右の引き戸は玄関。画像左の板面の裏に納戸がある。納戸には季節ものなどを収納するスペースのほか、ホールは顧客との打ち合わせに使用するため、給湯設備も備えた。正面の引き戸は階段室のもの。ホール、納戸は土足とし、靴は生活スペースに向かう階段室で脱ぐ

    1階ホール。画像右の引き戸は玄関。画像左の板面の裏に納戸がある。納戸には季節ものなどを収納するスペースのほか、ホールは顧客との打ち合わせに使用するため、給湯設備も備えた。正面の引き戸は階段室のもの。ホール、納戸は土足とし、靴は生活スペースに向かう階段室で脱ぐ

2階の中心に広々とした庭を配置
大開口と合わせ、自然を丸ごと取り入れる

では、その木造の2階を詳しく見てみよう。

まず、下から空が見えるのは、なんと中央に中庭があるからだ。しかもその中庭が2階面積の約3分の1を占めており、一般的に思い描くよりもかなり広い。

家づくりの当初から中庭が欲しいという要望はあったが、1階2階の上から下まで貫くとすると、坪庭のような広さしか取れなかったとのこと。生活空間を少し削ってでも庭を広くしたいとの言葉から、2階のみに庭を取り入れることを提案した。

では、完成した家で実際に生活空間が狭くなったのかといえばそんなことはない。オフィス、キッチン、寝室、水回りなどが仕切りなく、回廊のように中庭を囲っている。室内に仕切りがないことでそれぞれの空間の境界線があいまいになるうえ、中庭と室内も区切りなく繋がっている。つまり、中庭はそれぞれのエリアと自然に繋がり、全てを拡張させているのだ。

意識を途切れさせずに、一続きの空間と認識できるのは、中庭の窓に木製建具を使用したからだという。「アルミサッシですと角に柱が必要なのですが、木製建具でしたらその柱が省けるのです」と平野さん。視線を遮るものなくスパッと開放できるおかげで、2階全体がまるでワンルーム空間として感じられるようになるというわけだ。中庭といっても眺めるものではなく、ときにリビングにもなったり、廊下になったりと生活の一部として存在する。

また、川に向けて大開口した窓からの眺めも圧巻だ。大きな窓の下には格子の付いた網戸が設けられ、建具を開ければ床から天井まで開口したイメージを得られる。上の大きな窓は開かないが、網戸部分から風が抜ける。豊かに光が降り注ぐオフィスで、揺れる水面を眺めながら、風を感じて仕事ができるとはなんて贅沢なことだろうか。それだけではない。2階のどこからでも中庭と窓を通して川や空が見えるという。雨が降れば中庭から雨粒が落ちる様子が見え、音も聞こえるだろう。

平野さんはこうして「自然を近くに感じる暮らし」というTさま夫妻のご要望を、大らかさを持って的確に叶えた。ご夫妻は大変お喜びで、中庭を活用した生活を満喫されているという。
  • 1階ホールから奥の納戸を見る。南側にスリット状の窓を効果的に配置し、ホールは明るい。1階はコンクリート打ち放しとした。2階に庭を置いたため、強度や耐水性の確保という問題も1階をRC造としたことでクリアした。ほかにもコストや災害対策などのメリットも

    1階ホールから奥の納戸を見る。南側にスリット状の窓を効果的に配置し、ホールは明るい。1階はコンクリート打ち放しとした。2階に庭を置いたため、強度や耐水性の確保という問題も1階をRC造としたことでクリアした。ほかにもコストや災害対策などのメリットも

  • 2階。中心に中庭があり、周りをオフィス(手前)、キッチン(右)、寝室(奥)、浴室(奥左)、階段(左)が囲っている。中庭の仕切り窓は、角に柱が必要ない木製建具を採用した。遮るものなく大きく開くので、庭と室内ではなく室内の一部として庭が機能する

    2階。中心に中庭があり、周りをオフィス(手前)、キッチン(右)、寝室(奥)、浴室(奥左)、階段(左)が囲っている。中庭の仕切り窓は、角に柱が必要ない木製建具を採用した。遮るものなく大きく開くので、庭と室内ではなく室内の一部として庭が機能する

  • 2階。仕事の場と生活の場をコンパクトにまとめたからこそ、中庭も生活の場のひとつとなった。庭としてだけでなく、居室の一部として、また廊下のようにも役割を変えながら活用されている

    2階。仕事の場と生活の場をコンパクトにまとめたからこそ、中庭も生活の場のひとつとなった。庭としてだけでなく、居室の一部として、また廊下のようにも役割を変えながら活用されている

  • 2階、寝室からオフィスを見る。ガラス張りの中庭と、大きく開放した川側の窓のおかげで、家の一番奥からも空や窓の外まで視線が抜ける。中庭が生活空間に近く、自然を感じる暮らしというご要望がこの上ない形で叶えられた

    2階、寝室からオフィスを見る。ガラス張りの中庭と、大きく開放した川側の窓のおかげで、家の一番奥からも空や窓の外まで視線が抜ける。中庭が生活空間に近く、自然を感じる暮らしというご要望がこの上ない形で叶えられた

混構造の特徴を生かしきるプランニングで
安全、コスト、多くのポイントをクリア

中庭があることで、豊かな生活が実現した「HOUSE T」。2階に中庭を配置することを可能にしたのが、1階をRC造、2階を木造とした混構造の構成だという。

天窓とは違い、中庭の上部には屋根がない。そのため排水についても考慮しなくてはならないが、下をRCとすることで防水を強化できる。そこで「家の機能的な部分を1階のRC造に担わせ、2階の生活スペースは木の温もりが感じられる木造としました」と平野さん。

1階を頑丈なRC造にしたことには、他の理由もあった。まず、この家が川沿いにあるという点だ。このエリアで水害はまだ発生したことがないが、日本のどこにおいても記録的な大雨が降る可能性がある現在、いつ災害が起こるかわからない。RC造ならば、万が一の水害の際でも被害を最小限抑えることができると考えた。

もうひとつはコストだ。RC造なら、コンクリート打ち放しで仕上げを施す必要がないため仕上げ分のコストを抑えることができる。用途によっては快適性に難が出るかもしれないが、1階はガレージや、打ち合わせ時に使うホールがスペースのほとんどを占めるため、それも問題がない。

この家の特徴のひとつともいえる混構造。外観からもそれがよくわかるように表現されている。エッジの効いた1階部分と、焼杉を壁面に取り入れた2階の対比が家の魅力を高めている。

夫妻が思い浮かべる暮らし方と家の姿を、忠実に映し出した「HOUSE T」。優先すべき点をはっきりさせ、既成概念にとらわれずにプランニングしたからこそ、これだけ豊かに自由に暮らせる家ができたのだろう。お施主さまのことを第一に考える平野さんの設計姿勢には驚かされるばかりだ。
  • 2階、中庭からオフィス側を見る。中庭の床面も室内と違和感が生まれないように仕上げた。排水設備も備えている。画像左、キッチンの一角は、ダイニングテーブルとして使用する。壁や柱が少ないつくりのため、斜めの構造材を多く入れることで耐震性を確保した

    2階、中庭からオフィス側を見る。中庭の床面も室内と違和感が生まれないように仕上げた。排水設備も備えている。画像左、キッチンの一角は、ダイニングテーブルとして使用する。壁や柱が少ないつくりのため、斜めの構造材を多く入れることで耐震性を確保した

  • 庭から浴室を見る。バスタブはTさまが選んだ。中庭から空が見え、露天風呂のような気分が味わえる

    庭から浴室を見る。バスタブはTさまが選んだ。中庭から空が見え、露天風呂のような気分が味わえる

撮影:針金 洋介

基本データ

作品名
HOUSE T
所在地
福岡県福岡市
家族構成
夫婦
敷地面積
108.09㎡
延床面積
107.23㎡