狭小、変形、高低差や日影といった点でウイークポイントをもつ土地での住宅の建築は、とかく敬遠されがち。しかし、あえて弱点をもつ土地で自宅兼事務所を建てたのは、広島県を中心に活動する建築家、衞藤建築設計室の衞藤翔平さん。土地の弱みを建築の力で、個性に昇華させ、家族一緒の団欒も、1人の心地よさも実現した家づくりに迫る。
新旧の住宅が入り混じり、田畑の緑もある地に建つ衞藤邸。南には山が迫り陽光が望めないが、東には開けている変形旗竿地。衞藤さんはここにコの字を反転させたような建物をつくった。
敷地手前に開かれた衞藤邸。手前が車2台分の駐車スペースと東棟の前が転回ゾーン。東棟は、西棟に陽が入るように天井高を少し低くしたという。
日本人の心に馴染む杉板の外壁。右側が衞藤さんの事務所スペースである書斎、左側が玄関。視線の先にはリビングの窓がみえる。リビングからの視線の抜けと、来客がふらりと立ち寄れるオープンな雰囲気をもたらしている。
衞藤さんの事務所スペースは「離れ」とし、職住分離やON・OFFの切り替えも可能に。「外を見ながら仕事がしたい」という衞藤さんの理想も叶えた。
中庭をぐるりと取り囲む幅広のデッキは、縁側としての役割も。深い軒で、適度に日差しや雨を遮る。
庭師と共に作った中庭には、アオダモやソヨゴ、ミツバツツジやモミジが植えられている。これらの樹々が程よく視線を遮るとともに、四季の折々に違った彩を見せてくれる。
中庭とデッキは、子供たちの遊び場でもあり、アウトドアリビングにも。春になるとここから山の桜のお花見ができるという。
和室、居間、台所など家族が集まる場所は、天井の高い1つの大空間。来客時には麻布の建具で仕切ることで、空調に影響を与えずプライバシーも確保できる。
中庭があることで、高い天井とも相まって開放感抜群な空間。庭の樹々が程よく視線をカットし、プライバシーも確保してくれる。
撮影:野村和慎