地域に、未来に向かって大きく開く
3つの箱が組み合わさった、社会循環型店舗

老舗パッケージメーカーによる新事業は社会循環型店舗。「ハコをひらこう」をコンセプトに、実験的な店舗をつくりたいとプロジェクトがスタートした。建築設計を担当した三輪さんは空間ディレクションを担当する「 gift_」と、3つの箱が組み合わさった建物を提案。未来を考えるきっかけになる空間を実現した。

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新潟ゆかりの企業やクリエイターが集結。
新たな挑戦をするための店舗をつくる

「ものづくりのまち」として知られる、新潟県燕市。とある交差点の角に、魅力ある店舗がオープンした。

母体は、この燕市で約70年続く印刷・パッケージメーカー「株式会社ほしゆう」。地域企業としての社会的責任を果たす循環の拠点となれば、と始めた新事業だ。建築設計を担当したのは、三輪アトリエ一級建築士事務所/MIWA atelierの三輪良恵さん。現在は東京に事務所を構えているが、実は出身は新潟県なのだそうだ。ほかにも、新潟にゆかりがある会社やクリエイターが集まり、プロジェクトがスタートしたという。

「ほしゆう」が目指す未来を発信できる場所としての機能を、カフェ・ショップを併設する店舗という形態で表現すること。加えて建物の規模や全体的な予算は決まっていたが、具体的なことはゼロからのスタートだった。「建築設計、施工、インテリアデザイン、グラフィックデザインなどなど、多くのクリエイターがこのプロジェクトに関わっています。あらかじめ『ほしゆう』さんが選び抜いた人選ということで、具体的な建築プランはクリエイター側にほとんどお任せしてくださいました」と三輪さん。「ほしゆう」の企画担当者とクリエイターたちで議論を重ね、ひとつひとつ提案していった。

メイン商品となるソフトクリームは、どんな発想から決定したのだろうか。建築や空間サービスを通して、社会循環に触れられる実験的な店舗をつくりたいという要望から、くるくると循環しながら未来に向かうイメージをソフトクリームに重ねたとのこと。「サーキュラーソフトクリーム」という店舗名からも、思いがまっすぐ伝わってくる。老若男女、誰もが大好きなソフトクリームを通してなら、より親しみやすくコンセプトを感じ取ることができるだろう。
  • 地元の人たちが主に使う道路に向いたファサード。大きさの異なる3つの箱を組み合わせたようなフォルムで、母体が箱をつくるメーカーだと一目でわかる。3枚の両開き扉を外に向けて開けることで、コンセプトの「開かれた」「迎え入れる」印象を強めた
photo by 内藤雅子

    地元の人たちが主に使う道路に向いたファサード。大きさの異なる3つの箱を組み合わせたようなフォルムで、母体が箱をつくるメーカーだと一目でわかる。3枚の両開き扉を外に向けて開けることで、コンセプトの「開かれた」「迎え入れる」印象を強めた
    photo by 内藤雅子

  • 外観。建物の左側に沿って走っているのが、彌彦神社に向かう道路。エントランスラウンジをこの向きに合わせて計画したおかげで、初めてこの道を通る人も入りやすい
photo by 内藤雅子

    外観。建物の左側に沿って走っているのが、彌彦神社に向かう道路。エントランスラウンジをこの向きに合わせて計画したおかげで、初めてこの道を通る人も入りやすい
    photo by 内藤雅子

  • 外観。エントランスラウンジ(左)と、ショップ(右)の箱。交差点の角に位置するため、それぞれの方向に建物の顔を計画した。ショップは道路に向いた壁面に両開き扉を配置。外に出て縁側に座り、ソフトクリームを楽しめる
photo by 内藤雅子

    外観。エントランスラウンジ(左)と、ショップ(右)の箱。交差点の角に位置するため、それぞれの方向に建物の顔を計画した。ショップは道路に向いた壁面に両開き扉を配置。外に出て縁側に座り、ソフトクリームを楽しめる
    photo by 内藤雅子

箱をイメージしたファサード、大きく開く扉
建物全てを使ってコンセプトを表現

では、三輪さんと「gift_」で協働した建物設計について詳しくみてみよう。

いわば箱をつくる会社である「ほしゆう」。パッケージは箱を閉じることで完成するが、この場所では未来に向かって「ハコをひらこう」と空間のコンセプトが決まった。

そこで、建物のフォルムを計画するうえでも箱屋であることが一目でわかるように意識した。提案したのは、大きさの異なる3つの箱が組み合わさっているように見える形だ。きれいに並ぶのではなく、まるでプレゼントが入った箱が次々に置かれたような雰囲気で、中身は何かな、とつい気になるような外観をしている。

というのも、この建物は三方が道路に接する交差点の角にある。一方は由緒ある彌彦神社に向かう道路が通っており、それに直交して地元の人たちが使う道路、彌彦神社に向かう道路と並行してその一角に住まう人たちのための道路となっている。角度をつけて3つの箱を組み合わせることによって、観光客が多く通る道路と地元の人たちのための道路それぞれに店舗の顔をつくることができた。

彌彦神社に向かう道路に面しては、エントランスラウンジを計画。看板もこの顔に設置しており、ソフトクリームを提供する店舗だということがわかりやすい。日常的に使う人が多い道路に向かってはショップが入った箱を計画。そのうえで道路が交差する角に向かって箱の面をつくり、3枚の大きな両開き扉を設けた。「扉が道路側に開くことで、コンセプトを表現しました。大きく手を開いているようにも見えて、ウエルカム! という思いも伝わりやすいのではないでしょうか」と三輪さんは話す。

室内も3つの箱という考えを反映し、それぞれ異なる空間体験ができるように配慮した。エントランスラウンジは、外装を新潟で馴染み深い「雪囲い」の技法で計画。格子のように木材が並ぶ半屋外空間ができた。

3枚の両開き扉があるショップは、商品が引き立つシンプル空間。当初は天井を張る予定だったが、梁の姿が美しくそのまま現しとしたとのこと。扉によって外部と繋がり、続く縁側に座ってのんびりとソフトクリームを楽しむこともできるのだとか。

一番背の高い箱にはカフェを設けた。床や柱に新潟の古民家の古材を活用し、落ち着いた雰囲気。加えてハイサイドライトからは光が落ち、空も見えるため開放的で居心地は抜群だ。

コンセプトを的確に表現しながら、機能性もきちんと確保。それは客に対してだけでなく、従業員にとっても、だ。基本的に一人で対応するため、働きやすい環境を整えたという。

天井の高さや素材などから印象が明確に異なる3つの箱。その中央にあるのが、フレームに囲われたエリアだ。4つめの箱ともいえるこの場所には調理室やスタッフブースを配置。3つの箱に角度をつけたおかげで、ショップとカフェははす向かいに位置し、様子が伺える程度にそれぞれ視線が届く。しかし、中央のエリアからは店内を全て把握できるのだ。

「ハコをひらこう」という言葉から、こんなにも豊かな空間が完成するとは驚きだ。
  • エントランスラウンジ。金物を用いた看板は、地元の金属加工会社に依頼した
photo by 内藤雅子

    エントランスラウンジ。金物を用いた看板は、地元の金属加工会社に依頼した
    photo by 内藤雅子

  • エントランスラウンジの外装は、新潟に古くから伝わる「雪囲い」の手法を取り入れた。新しい使い方を提案し未来へ繋げていきたい、と三輪さん。ここでもコンセプトである「循環」に触れられる
photo by 内藤雅子

    エントランスラウンジの外装は、新潟に古くから伝わる「雪囲い」の手法を取り入れた。新しい使い方を提案し未来へ繋げていきたい、と三輪さん。ここでもコンセプトである「循環」に触れられる
    photo by 内藤雅子

  • エントランスラウンジは半屋外空間。テーブルや椅子を置くゆとりがあり、活用の幅は広い。グリーンは在来種から選ばれている。内部に進む部分がL字に開口しているおかげで、室内の中央に位置するスタッフブースからも目が届く
photo by 内藤雅子

    エントランスラウンジは半屋外空間。テーブルや椅子を置くゆとりがあり、活用の幅は広い。グリーンは在来種から選ばれている。内部に進む部分がL字に開口しているおかげで、室内の中央に位置するスタッフブースからも目が届く
    photo by 内藤雅子

  • エントランスラウンジ。雪囲いから抜ける光が美しい。年々夏の暑さが厳しくなる中「このように半屋外で日陰になり、風が抜ける空間はますます必要になってくるかもしれません」と三輪さん
photo by 内藤雅子

    エントランスラウンジ。雪囲いから抜ける光が美しい。年々夏の暑さが厳しくなる中「このように半屋外で日陰になり、風が抜ける空間はますます必要になってくるかもしれません」と三輪さん
    photo by 内藤雅子

  • カフェは最も背の高い箱に計画。右奥にショップが見える。ちらりと見えることで抵抗なく行き来できる
photo by 内藤雅子

    カフェは最も背の高い箱に計画。右奥にショップが見える。ちらりと見えることで抵抗なく行き来できる
    photo by 内藤雅子

素材や手法、豊富なアプローチで循環を体験
いつしか皆にとって愛着がある場所に

もちろん、サーキュラー、循環するというコンセプトにも店内の至る所で触れることができる。

例えばエントランスラウンジの雪囲いがそうだ。雪から家を守るために昔から用いられている手法だが、風を通す日除けとして新たな使い方を発見し、次の世代へ繋げていく。そのほかにも古材の使用など、建物そのものからも「循環する」ことを体験するためのアプローチが豊富に仕掛けられている。

また、地域貢献という視点からも大きな役割を果たしている。古材の活用や、燕市らしい金属製の看板はすべて地元企業により実現した。店内カフェの吹き抜けの壁面に配されたアート作品は、本業である箱の抜き型で製作されているそうだ。ほかにも新潟や燕市にゆかりある多くの人たちや企業が関わっているという。新しい試みに参加することは、未来に繋がる。

三輪さんは設計について「お施主さまにとって愛着が湧く、自分の空間だと思えるように」と語る。この「サーキュラーソフトクリーム」は、母体である「ほしゆう」にとっても、利用するお客さまたちにとっても、まさに愛着の湧く店になることだろう。これからの活用が楽しみだ。






建築設計:MIWA Atelier
建築施工:滝本工務店
空間デザイン・クリエイティブディレクション:gift_
グラフィックデザイン・アートディレクション:TE KIOSK
アートワーク:Palab インドアグリーン:5×緑(ゴバイミドリ)
撮影:内藤雅子
プロジェクト監修・管理:MGNET

プロジェクト編集:Tsubame Terrace
施主・プロデュース:ほしゆう
  • カフェ。ハイサイドから入る光がやさしい。壁面のアートは箱の抜き型を活用
photo by 内藤雅子

    カフェ。ハイサイドから入る光がやさしい。壁面のアートは箱の抜き型を活用
    photo by 内藤雅子

  • ショップ。道路に向かって開口し、開かれた店だということを強く意識できる。シンプルな空間構成に、梁の美しさが際立つ。右奥のエントランスラウンジから左に入るとカフェがある
photo by 内藤雅子

    ショップ。道路に向かって開口し、開かれた店だということを強く意識できる。シンプルな空間構成に、梁の美しさが際立つ。右奥のエントランスラウンジから左に入るとカフェがある
    photo by 内藤雅子

  • 左からショップ、半屋外のエントランスラウンジ、カフェ。最右、古材の柱に囲われてスタッフのエリアがある。素材や天井高さ、仕切りによってそれぞれの空間体験が明確に切り替わるように計画
photo by 内藤雅子

    左からショップ、半屋外のエントランスラウンジ、カフェ。最右、古材の柱に囲われてスタッフのエリアがある。素材や天井高さ、仕切りによってそれぞれの空間体験が明確に切り替わるように計画
    photo by 内藤雅子

撮影:内藤雅子

基本データ

作品名
サーキュラーソフトクリーム
所在地
新潟県燕市
敷地面積
365.29㎡
延床面積
100.61㎡