家の中心から外へ伸びるスキップフロア。
空間を仕切ることで実現した広がりのある家

広さ以外は申し分ない条件の土地を見つけたお施主さま。お施主さまは平屋を希望していたが、依頼を受けた建築家の神谷さんは、その理由を伺ったうえで不安を払拭した2階建てをつくることを提案。家中が8の字に繋がるスキップフロアを計画し、2階建てでありながら段差が負担にならない家をつくり上げた。

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1.5階のリビングから家中どこでも行きやすい
階段が億劫にならないスキップフロア

北海道江別市の住宅街に、四角いキューブを重ねて組み合わせたようなフォルムの、2階建ての家がある。□houseと名付けられたこの家で暮らすのは、施主であるTさま家族だ。

自宅を新築しようと決めた当初は平屋に住みたいとお考えだったというTさま。土地もそのつもりで探していたが、平屋にするには面積が足りないものの、価格や周辺環境など他の面では申し分ない土地が見つかった。土地探しの時点から依頼を受けていたQukan/空間工作所の神谷幸治さんもこの土地が最善と判断。相談を重ね購入を決めたのだという。

「平屋を希望されていたのは、階段の上り下りが将来きつくなるのでは、との不安からでした」と神谷さん。「段差が少ない家」というイメージを汲み取り、提案したのがスキップフロアだ。

まず、1.5階といえる位置にリビングを配置。1階には個室やストレージを、リビングの周辺には水回りや和室を、細かく高さを変えながら設けた。生活の中心を家の真ん中に置き、1階・2階ともに動線に回遊性を持たせているおかげで、家の中の移動が容易い。なお且つ1階とリビングを繋げる階段もそれぞれ複数の方向からアクセスできるため、屋内は8の字を書くように結ばれている。本当に「リビングから家中に」動きやすいのだ。

それだけではない。階段に不安をお持ちだったTさまのために蹴上の寸法も一般的なものより低い160mmに設定。さらに、それぞれの居室を結ぶ階段の段数も少なくし、足にかかる負担を極力減らした。

「足の調子に不安があり平屋を希望していましたが、今では緩やかな段差がある家で日常生活を送ることが足を鍛える材料になっています。提案していただいてよかったです」とTさま。利点があったからこそ大きな変更をすることになったが、それは決して妥協ではない。むしろその変更がきっかけとなってよりよい家ができたといえるだろう。
  • カーポートからエントランスを見る。玄関脇に大きな窓があり、大雪の日などでも家の中から外部が確認できる

    カーポートからエントランスを見る。玄関脇に大きな窓があり、大雪の日などでも家の中から外部が確認できる

  • エントランス。左は玄関扉。右の開口部はストレージへ続く。ご趣味の自転車を置くスペースをあらかじめ計画

    エントランス。左は玄関扉。右の開口部はストレージへ続く。ご趣味の自転車を置くスペースをあらかじめ計画

  • エントランスからストレージを見る。奥の扉は客間とするroom3。ストレージは3方向からアクセスできる

    エントランスからストレージを見る。奥の扉は客間とするroom3。ストレージは3方向からアクセスできる

室内外の境界線をあいまいにするフレーム。
あえて細かく仕切り、奥行きをつくる

ゆとりある広さとはいえない敷地にある□house。しかしながら視線は伸び、窮屈さは微塵も感じられない。特に一日で長い時間を過ごすリビングは1.5階に位置することから天井が高く、気持ちよく過ごせる。

この家が特徴的だといえる部分のひとつに、家の内部も□houseという名に違わず、各居室がボックスを組み合わせたかのごとく壁で細かく仕切られている点がある。神谷さんは、仕切りの壁の開口部をフレームで囲み、さらに、外部に向けての開口部にもそれと同じディテールのフレームを付けた。

「外部と内部、どちらもフレームを通して同じ見え方をするため、どこまでが屋内でどこからが屋外なのか、境界線があいまいになります。奥行きも生まれ、広く感じられるのではないかと考えました」と神谷さん。

たとえばダイニングとリビングの間に設けられたフレームからは、その奥にリビングと和室を仕切る壁面のフレームが見え、またその奥に外部と繋がる窓のフレームが連続する。フレームのレイヤーにより視線が吸い込まれるように奥へ奥へと伸び、窓の外へ抜けていく。

コンパクトな家だからこそ、外部との繋がり方にもこだわった。スキップフロアにより、居室ひとつひとつの高さが少しずつ違うことを利用して、家の四方に高さや大きさが異なる窓を多く計画した。しかも隣家や道路からの視線が気にならない箇所を見極めたうえで、だ。誘われるように伸びた視線の先には、趣の異なる風景が広がる。時間や季節によってお気に入りの風景もできるかもしれない。なんて贅沢なことだろう。
  • エントランスとリビングを繋ぐ階段。階段の蹴上げは足の負担減のため、一般的な高さより低めに設定した

    エントランスとリビングを繋ぐ階段。階段の蹴上げは足の負担減のため、一般的な高さより低めに設定した

  • 1階は全てを土間空間としている。階段側の壁面の裏に位置するストレージや、外部ストレージにも1階から行き来できるため、水や土を気にしすぎなくてよい設えは家の使いやすさを格段に上げている

    1階は全てを土間空間としている。階段側の壁面の裏に位置するストレージや、外部ストレージにも1階から行き来できるため、水や土を気にしすぎなくてよい設えは家の使いやすさを格段に上げている

大容量のストレージと見せる収納棚で
暮らしやすく、豊かな家にする

趣味も多くお持ちだというTさま。モトクロスバイクや、スポーツ用品、また生活に必要なものなど収納すべきものがたくさんあった。そこで1階には大型のストレージを計画。1階は土間空間とし、土がついたまま自転車などを家の中に持ち込んでも問題ない。また外部収納も家の中に取り込み、屋内からもアクセスできるようにした。

とりあえず、でなんでも収納可能なことが魅力の大容量のストレージ。使いやすさを第一に、玄関側からだけでなく、夫妻の寝室からもウォークインクローゼットや客間を通りながら進むことができるように計画した。リビングの真下にあるおかげで、2階で使うものの出し入れも最短距離で行き来でき、暮らしやすさに一役買ってる。

見せる収納棚を家の至る所に計画した理由は、Tさまがセンスのよいものをたくさんお持ちだったからだという。壁面の一部を大胆に棚とした個所もあれば、リビングからキッチン・ダイニングへ進むところは階段そのものが棚になっているなど、大きさもつくりもバリエーション豊か。生活を彩る重要な要素のひとつだ。

冬は寒さが厳しい北海道。神谷さんは効率的に家全体を温める方法を考えたという。1階の土間空間全体に床暖房を取り入れ、その温かな空気が2階まで、家の隅々まで行きわたるようにしたのだ。穏やかな季節には、家のいたるところに計画された窓を開ければ、風が自在に抜けていく。住環境に関しても、スキップフロア、かつ仕切り扉のない空間のつくり方が生かされている。

家づくりに置いて、お施主さまと話し合いながら一緒につくることを心がけているという神谷さん。コミュニケーションをとりながら、お施主さまのイメージを一緒に具現化していくのだそうだ。この□houseにおいても、話し合いを重ね、不安に思っていることや暮らし方のイメージを丁寧に明らかにしていったからこそ、満足度の高い家ができたのだろう。

神谷さんは「具現化していくことこそ、建築家の仕事ではないかと思うんです」と語る。一生に一度かもしれない家づくり。初めてのことばかりで考えることが多く、混乱してしまうときもあるかもしれない。しかし、この過程を大事にしてくれる神谷さんのような建築家となら、後悔のない家づくりができそうだ。
  • 外観。異なる素材や色のボックスを重ね合わせたような雰囲気。ボックスから窓が飛び出しているように見えて、チャーミングだ

    外観。異なる素材や色のボックスを重ね合わせたような雰囲気。ボックスから窓が飛び出しているように見えて、チャーミングだ

  • 外観。内部のスキップフロアに合わせて窓が計画され、外から見るとランダムに見える

    外観。内部のスキップフロアに合わせて窓が計画され、外から見るとランダムに見える

  • リビング。1.5階に位置しており、天井が高く晴れやかな空間。正面の収納棚を上がるとダイニング・キッチンがある。左のフレーム部分はキッチンがあり、顔を出すと2階全体が見渡せる。奥さまの「キッチンからお子さまの様子が見たい」という要望を叶えた

    リビング。1.5階に位置しており、天井が高く晴れやかな空間。正面の収納棚を上がるとダイニング・キッチンがある。左のフレーム部分はキッチンがあり、顔を出すと2階全体が見渡せる。奥さまの「キッチンからお子さまの様子が見たい」という要望を叶えた

  • リビングとダイニング・キッチンを結ぶ階段として使用する収納棚。機能を組み合わせ暮らしを彩る要素とした

    リビングとダイニング・キッチンを結ぶ階段として使用する収納棚。機能を組み合わせ暮らしを彩る要素とした

撮影:佐々木育弥

基本データ

作品名
□house
所在地
北海道江別市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
174.33㎡
延床面積
123.23㎡
予 算
2000万円台