敷地に対し斜めの動線で眺望を確保
大胆な発想で実現した美しく暮らしやすい家

新築する自宅では、夜景を楽しみたいと考えられていたお施主さま。候補となる土地が見つかったものの、当時残っていた家ではとても景色がいいとは思えなかった。同行した建築家の石さんにとっては、この場所こそベストだったという。敷地の形にとらわれず、斜めに向かって大開口したことで思い通りの暮らしを叶えた。

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要望が叶えられるか想像しにくい状況でも
的確に判断、ベストな敷地を購入

別の場所に自宅をお持ちだったが、お子さまの通学にもう少し便利なところに家を建てたいとお考えだったLさま夫妻。以前からインターネットを通して感性が合いそうだと注目していたという一級建築士事務所 株式会社seki.designの石憲明さんに依頼した。

土地探しから始め、購入したのは神戸の中でも街を見下ろす高台にある、高級住宅街の一角。土地を見学に行ったとき、ここなら夜景などの眺望を楽しめる家にという要望が叶えられると石さんは判断したが、それがLさまにはにわかに信じられないような状態だったという。敷地には取り壊す前の家が残っており、その家ではすぐ目の前に近隣の家が見えていたからだ。全く見えないわけではないが、とても「景色がいい」とは言えない状況だった。

敷地は道路に面した北側から南側に向かって伸びる長方形。道路を挟んだ向かいは敷地のレベルが高く家を見下ろされる。東側も隣家が迫っており、開口は難しい。しかし、南と西側は隣の敷地の地盤レベルが低く、プライバシーが確保しやすい環境だった。

「加えて、地盤が低い西側は公園です。視線を気にすることなく大きく開口できますので、この上なくよい環境だと思いました。Lさま夫妻が心配されていた夜景に関しても、設計の力で必ず楽しめるようにできると考えました」と石さん。

石さんの助言により、理想の暮らしにぴったりな土地を無事購入できたLさま。いよいよ家づくりのためのプランニングが始まった。
  • 外観。デザイン性の高い、モダンな雰囲気の建物だ。建物の左側、白い壁面の上にはサンセットテラスがある。手すりをセットバックして気配を消すことで、建物をすっきりした印象に仕立てた

    外観。デザイン性の高い、モダンな雰囲気の建物だ。建物の左側、白い壁面の上にはサンセットテラスがある。手すりをセットバックして気配を消すことで、建物をすっきりした印象に仕立てた

  • 家の南西側にある公園から見た家。公園が低い位置にあるおかげで、見晴らしを確保できると確信したと石さん

    家の南西側にある公園から見た家。公園が低い位置にあるおかげで、見晴らしを確保できると確信したと石さん

バラエティー豊かな眺望を存分に楽しめる
家の動線が交差し、重なり、縒り合う家

夜景と一口に言っても種類がある。Lさまが一番に思い浮かべていたのは、街並みの、キラキラした夜景だったという。この敷地からは南西の方向に街が広がっている。とはいえ、見ごたえがあるのはそちら側だけなのかといえばそうではなく、南は海が広がり、北西には連なる山々がパノラマで楽しめる。

2階からであればこれらの眺望が全て楽しめると考えた石さん。しかし、敷地に対してセオリー通りの開口の仕方では実現できない。そこで驚くべき解決法を提案。なんと、1階と2階の動線それぞれをXのように交差させ、自然と敷地に対して斜めに意識や視線が伸びるようにしたのだ。そのうえで南から南西にかけてアウトドアラウンジを、南東にはプライベートバルコニーを、北西にはサンセットテラスを、と趣の異なる贅沢な見晴らしを享受するための環境を整えた。

生活の中心となるのは、プライバシーを守りやすい南西側の1階に、2階までの吹き抜けで計画したLDKだ。天井が高く開放感にあふれているうえ、テラスに続く大きな窓を設け、室内から庭や公園の緑を眺められるようにした。テラスの上はアウトドアラウンジがあり、1階から連続するように壁一面を大きく開口している。おかげで1階のLDKからは空に視線が抜けるようになった。

もう1つ、家族で過ごす場所がある。LDKからの階段を上がったところにあるスタディーリビングは、家族で一緒に本を読んだり、語り合ったりするための場所が欲しいというご要望から計画した。壁面いっぱいに本棚を備え付け、絵本や子ども向けの本と、ご夫妻の蔵書が同じ場所に収められるようにしたという。「お子さまが大きくなって、ご両親の本を手に取られたら、世界が広がって素敵ですよね」と石さん。

スタディーリビングは仕切りなくオープンなつくり。LDKとも繋がるうえ、アウトドアラウンジやサンセットテラスを通して外部が感じられると居心地は抜群。現在は、お子さまが絵をかいたり勉強したりするお気に入りのスペースになっているのだとか。

他にも、LDKから2階に上がる途中に設けられた和室ライブラリーもある。いわゆる踊り場を広くした形で、仕切りはなくとも高さを変えることでLDKと緩やかに区切ることに成功した。1階と2階を行き来するとき、必ず畳の上を歩くというのもおもしろい。

家の動線をX字に交差させるという思い切ったプランで、Lさま夫妻の期待に応えた石さん。暮らし方にも真摯に向き合い、LDKを吹き抜けとすることで1階と2階という縦の動線も絡めた。日々の暮らしを家族とともに楽しみ、また一人の時間を過ごす中で、家の動線は交差するだけでなく、重なり、絡み合う。それによって家族の絆も強く深いものになるに違いない。この家は石さんが名付けた通り、まさに「縒り合う家」なのだ。
  • 玄関。軒を天井からフラットに出し、外部へ意識を誘う。視線の先に緑を入れ、豊かさを演出

    玄関。軒を天井からフラットに出し、外部へ意識を誘う。視線の先に緑を入れ、豊かさを演出

  • エントランスホールの床はナグリ仕上げに。玄関らしい格調高さがありつつ、モダンな雰囲気

    エントランスホールの床はナグリ仕上げに。玄関らしい格調高さがありつつ、モダンな雰囲気

  • 2階までの吹き抜けで、大空間のLDK。キッチンは写っていないが左に位置する。南西に大きく開口し、テラスと庭を計画。庭は公園に接しており、視線を気にせずくつろぐことができる。その上、2階にはアウトドアラウンジを計画。2階まで窓を連続させLDKの開放感を高めている

    2階までの吹き抜けで、大空間のLDK。キッチンは写っていないが左に位置する。南西に大きく開口し、テラスと庭を計画。庭は公園に接しており、視線を気にせずくつろぐことができる。その上、2階にはアウトドアラウンジを計画。2階まで窓を連続させLDKの開放感を高めている

日本らしさをプラスした贅沢な設え。
美しさと機能性が両立した住まい

インテリアや建築がお好きだというLさま夫妻は、日本に長くお住いの外国籍の方。ジャポニズムが感じられる設えは、石さんがご要望を伺いながら取り入れたものだ。ときに重厚感、ときに華やかさ、と調和をとりながらスパイスを効かせるバランス感覚が素晴らしい。

まず畳敷きの和室ライブラリー。お茶を楽しむためのカウンターや、掘りごたつ式カウンターを設けており、一日を通して様々なシーンで活躍する。大皿も飾れるような格調高いディスプレイ棚の上には、日本の伝統文様である麻の葉柄の欄間を取り入れた。

エントランスホールの床面は、ナグリ仕上げを採用。ぼこぼことした表面はエントランスのタイルなどと不思議とマッチしていて、モダンな雰囲気だ。手仕事ならではの温かみが感じられ、今後の経年変化も楽しみになってくる。より一層の愛着が沸く場所になるだろう。

雰囲気を重視してこだわり抜いたという夫妻の寝室。夫婦の時間を大切にしたいというお施主さまのライフスタイルを反映し、バスルームやウォークインクローゼットを完備したホテルライクな空間だ。海が見えるプライベートバルコニーを有する寝室。ベッドサイドには水面を模した美しい作品をあしらい、遠くに見える海を室内に取り込んだ。

大空間のLDKでは、ダイニングエリアの上部に葉っぱの形の格子を計画。空間は繋がっているが、領域は分かれるようにしたかった、と石さん。壁や柱で仕切らずとも感覚的にゾーンができている。また、格子が天井のような役割を果たし、ダイニングらしい落ち着きが得られるようになった。古都を感じさせる格子の影も日本らしさを表現するひとつになっている。

「美しいだけではない、住みやすい夢の家です。感動しました」とLさま。大胆なプランと隅々まで行き届いたデザインによって、思い描く暮らしを丸ごと叶えた。豊富な知識と柔軟な発想。「縒り合う家」には、石さんがつくる家の魅力がぎゅっと詰まっている。
  • LDK。ダイニングの上に設けた格子で領域を区切り、使い勝手や居心地を向上させた。日本らしさもある

    LDK。ダイニングの上に設けた格子で領域を区切り、使い勝手や居心地を向上させた。日本らしさもある

  • ダイニングからキッチン方向を見る。2階のスタディーリビングにも意識が届き、家族の繋がりが感じられる

    ダイニングからキッチン方向を見る。2階のスタディーリビングにも意識が届き、家族の繋がりが感じられる

撮影:Akiyoshi Fukuzawa

基本データ

作品名
縒り合う家
所在地
兵庫県 神戸市
家族構成
夫婦+母+子供1人
敷地面積
330㎡
延床面積
244㎡
予 算
1億円台