敷地を最大限活用し、空間を使い切る。
質感が感じられるLDKが魅力的な木造住宅

お施主さまは自宅を新築するにあたり、家族が集まる広々としたリビングが欲しいとお望みだった。建築家の鈴木さんは敷地いっぱいに建物を計画したうえ、可能な限り柱や壁を減らした広々空間を技術により実現。重厚な質感の内装が魅力的で、暮らしやすい。コストパフォーマンスにも優れた「これぞ都会の家」ができた。

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本当に木造? 余計な柱や壁がない
ワンフロア全てがゆったりつながるLDK

東京都文京区、本駒込。五角形の敷地に沿うように建てられた、シンプルな佇まいの家がある。「本駒込の住まい」は、いのはな設計一級建築士事務所の鈴木宏昌さんが、古い友人である施主、Sさまから依頼を受けて設計した家だ。この家の最大の魅力は、2階に設けた広々したLDK。「家族5人皆が集まれるリビング」という要望に応えるため計画したという。1階に駐車場と水回り、3階に個室を集め、2階をまるまるLDKにしてしまった。しかも、その空間がほぼ仕切られておらず、とにかく開放的なのだ。

空間を比較的自由に構成できるRC造ではなく、この家は木造でしかも3階建て。それでいて、2階を壁や柱が極端に少ないつくりにできたのには理由がある。鈴木さん自らが構造計算を担い、とことん検討するからだ。このLDKもキッチンに接するように建てた柱と外周の壁で支えることで、ここまでのシンプルさを実現としたという。もちろんしっかりした耐震性も確保している。

「このエリアは土地の価格が高く、建蔽率などさまざまな条件もあります。その中でどれだけ建物を大きく建てられるかが重要です」と鈴木さんは言う。敷地を最大限に活用できる建物のフォルムや配置に加え、設計力でSさまお望み通りの贅沢な空間をつくりあげた。
  • 2階LDK。木造3階建ての2階とは思えない開放的な空間。鈴木さん自らの構造設計により、大きな柱1本で床を支えることが可能となった

    2階LDK。木造3階建ての2階とは思えない開放的な空間。鈴木さん自らの構造設計により、大きな柱1本で床を支えることが可能となった

  • 凹凸が少ないシンプルなフォルムの外観。外壁はメンテナンスを考慮しシーリングレスのサイディングを採用

    凹凸が少ないシンプルなフォルムの外観。外壁はメンテナンスを考慮しシーリングレスのサイディングを採用

家族が集まる場にふさわしい
都会的なセンスでまとめられた落ち着き空間

では、2階のLDKを詳しく見てみよう。

床と天井は素材を揃え、ウォールナットの羽目板を使用。色合いや素材から感じられる重厚感から、LDKはシックな雰囲気。一角に設けられたキッチンは、石目調のメラミン材を用いた作業台を採用した。キッチンの床は石目調の塩ビシートを用い、また大きな柱も色を合わせたシートを貼るなど、調和が感じられる。そのうえで、キッチンの壁面には奥さまが選んだタイルを貼り、空間にアクセントを加えた。

キッチンの背面には家電などを収納するための扉付きの棚を計画。「家電が常に目に入る状態ですと、どうしても生活感が出てしまいます」と鈴木さん。一方で、小物やフルーツなどを置く見せる収納を大きな柱に設け、キッチンの使い勝手を向上させながらインテリアのアクセントとしても活用できるようにした。

また、大容量のパントリーをキッチンとは反対側の壁面いっぱいに計画。幅は隣り合う階段と揃えており、その面全体がフラットな仕上がり。構成する線が少ないほど、空間がすっきりとして広く感じられるという。

長方形の一部が欠けたような五角形のフォルムを持つ「本駒込のすまい」。斜めの辺に通しのカウンターを造り付け、3人のお子さまの勉強スペースとした。カウンターの上を大きく開口したおかげで、ちょうど正面に位置する交差点に向かって視線が開ける。またこのカウンターはキッチンのすぐ脇にあり、お子さまたちとキッチンで過ごす奥様のよいコミュニケーションの場にもなっている。

また、勉強スペースから続く南側の面にも大きな窓を設けた。2階にあり、かつ前を走る道路の幅も広いことと、南西から南にかけての2つの大きな窓のおかげで、LDKはとても明るい。

日が落ちると、ダイニングエリアに設けられた吊り照明やリビングのダウンライトからの光によって、床や天井の美しさを堪能できる。ダウンライトは調光・調色機能を備えており、シーンに合わせて室内の雰囲気を変化させられるのも、暮らしに豊かさを与える心憎いエッセンスだ。

開放的で広いというだけではなく質感を重視した内装により、空間が持つ魅力が何倍にも引き立てられた都会的な設えのLDK。訪れる友人の方々も「いいね」と納得の声を上げられるのだとか。プライベート空間から独立していることも、人が集い、招く場として最適だといえるだろう。
  • 2階。画像左、お子さまの勉強スペースからキッチンを見る。料理がお好きだというご夫妻のため、キッチンは機能を充実させ、広めに計画した。勉強スペースで過ごすお子さまとのコミュニケーションも取りやすい。画像中央の大きな柱にはフルーツなどを置ける棚を設けた

    2階。画像左、お子さまの勉強スペースからキッチンを見る。料理がお好きだというご夫妻のため、キッチンは機能を充実させ、広めに計画した。勉強スペースで過ごすお子さまとのコミュニケーションも取りやすい。画像中央の大きな柱にはフルーツなどを置ける棚を設けた

  • 2階、キッチンからリビングダイニングを見る。床と天井はウォールナットの羽目板を惜しみなく使用。室内の雰囲気をシックに整えた。画像奥、階段の右にはパントリーがある。袖壁などをつくらず天井までの高さで計画し、より開放的な雰囲気を高めた

    2階、キッチンからリビングダイニングを見る。床と天井はウォールナットの羽目板を惜しみなく使用。室内の雰囲気をシックに整えた。画像奥、階段の右にはパントリーがある。袖壁などをつくらず天井までの高さで計画し、より開放的な雰囲気を高めた

  • 2階キッチン。床と天井のウォールナット材の質感にマッチする、石目調のメラミン材を用いたキッチンを採用した。システムキッチンは既製品を取り入れつつ、画像奥、扉付きの白い収納棚は家具職人に依頼して造り付けてもらうなど、メリハリあるコストのかけ方を心がけた

    2階キッチン。床と天井のウォールナット材の質感にマッチする、石目調のメラミン材を用いたキッチンを採用した。システムキッチンは既製品を取り入れつつ、画像奥、扉付きの白い収納棚は家具職人に依頼して造り付けてもらうなど、メリハリあるコストのかけ方を心がけた

  • 2階リビングエリア。画像右のお子さまたちの勉強スペースから画像左のリビングの大きな窓までは、幅の広い前面道路と接している。さらに2階にあるため、外からの視線を気にせずに生活できる。これらの窓が南側にあるおかげで、LDKには豊かに光が入る

    2階リビングエリア。画像右のお子さまたちの勉強スペースから画像左のリビングの大きな窓までは、幅の広い前面道路と接している。さらに2階にあるため、外からの視線を気にせずに生活できる。これらの窓が南側にあるおかげで、LDKには豊かに光が入る

予算をかけるべき部分にはしっかりかける。
ひとつひとつ最善を吟味した住宅設備

夫妻の寝室と水回りを集めた1階は窓が少なく光が入らないため、床や壁は明るい色を基調とした。また、「アクセントのあるインテリアを取り入れたい」という要望は、LDKだけでなく家全体で取り入れたという。たとえば玄関を入ったすぐの壁面には、ブルーの表情豊かなタイルが貼られている。

3階は3人のお子さまそれぞれの個室を配置した。Sさまの「しっかりしたプライベート空間を持たせたい」という思いから、ひとつひとつの部屋は広めに計画。「東京ですので、将来独り暮らしをせずにこの家から大学へ通われることもあるでしょうから」と鈴木さん。こちらもお子さまひとりひとりに合わせて選んだ壁紙を壁面の一部に貼り、インテリアのアクセントとした。

また、屋上はデッキや人工芝を入れ居心地のよい空間をつくりあげた。見晴らしがよく、スカイツリーも見えるのだとか。テーブルを出して家族でお食事を楽しまれることも多いとのこと。

今回、土地選びから相談を受けていたという鈴木さん。文京区の中でもアップダウンが多いエリアでの土地探しに、余計な建築費がかからない条件をアドバイスするなどコストパフォーマンスにもこだわった。施工も検討に検討を重ね、最適な会社を選んだという。

しかし、ただただ安く、というわけでない。羽目板を全面的に取り入れた2階のLDKなど、かけるべきところには惜しまないメリハリあるコストコントロールを徹底した。キッチンは既製品を採用しコストを抑えつつ、背面の棚は家具職人にオーダーし整形ではない建物にピタリと収まるものをつくる、といった具合だ。

「メンテナンスが少なく、コストパフォーマンスのよい住宅設備を選びたい」と考えられていたSさま。キッチンの床には掃除のしやすい塩ビシートを、日よけにはブラインドではなくほこりがたまりにくいシェードカーテンを、と、柔軟に、細やかに提案を重ねた。

「素材や設備は、施工会社の協力も得ながらお施主さまと一緒によく吟味して選びました」と鈴木さんは当然のことのように話す。しかし、なかなかここまでじっくりと向き合い、よりよい解決策を見つけてくれる建築家はいないのではないか。構造設計も含め、すべてにおいて惜しみなく力を注ぐ鈴木さんだからこそ、実現できる家があるのだ。
  • 2階、夕刻のLDK。リビングエリア、ダイニングエリアに配置されたそれぞれの照明が優しく照らし、ウォールナット材の床や天井を一層美しく見せる

    2階、夕刻のLDK。リビングエリア、ダイニングエリアに配置されたそれぞれの照明が優しく照らし、ウォールナット材の床や天井を一層美しく見せる

  • 2階キッチンは石目調で揃えた。メンテナンスや掃除のしやすさを考え、キッチンの床は塩ビシートを採用。手前右側の大きな柱にはシステムキッチンの色合いに合わせたシートを貼り、統一感を演出。また、アクセントとして一部に奥さまが選ばれたタイル(画像左)を取り入れた

    2階キッチンは石目調で揃えた。メンテナンスや掃除のしやすさを考え、キッチンの床は塩ビシートを採用。手前右側の大きな柱にはシステムキッチンの色合いに合わせたシートを貼り、統一感を演出。また、アクセントとして一部に奥さまが選ばれたタイル(画像左)を取り入れた

  • キッチンから2階を見渡す。シックな設えが線の少ないシンプルな空間にとても合っている。落ち着きが感じられ、家族が集まる場所にふさわしい。建物の形が整形ではないことで生まれるスペースに棚などを細かく設け、空間を使い切った

    キッチンから2階を見渡す。シックな設えが線の少ないシンプルな空間にとても合っている。落ち着きが感じられ、家族が集まる場所にふさわしい。建物の形が整形ではないことで生まれるスペースに棚などを細かく設け、空間を使い切った

  • 1階玄関。1階は日光が射さないため明るい色でまとめた。正面に貼ったタイルが空間を引き締める

    1階玄関。1階は日光が射さないため明るい色でまとめた。正面に貼ったタイルが空間を引き締める

基本データ

作品名
本駒込の住まい
所在地
東京都 文京区
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
64.21㎡
延床面積
120.12㎡
予 算
4000万円台