ただ景色を眺める時間をつくりたくなる。
地域材を豊かに使った、快適に暮らせる自宅

望んでいたエリアに土地が見つかり、自宅を新築することにした建築家の小野さん。西以外は景観に恵まれているという環境を生かしつつ、地域材かつ自然の素材にこだわった木の家を建てるべく設計を開始。同世代の職人たちとともに、デザイン性に加えて家の性能も高い、現代の暮らしに合った家を完成させた。

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眺望、環境全て申し分ない場所での家づくり
ただ景色を眺める贅沢が得られる大開口

埼玉県飯能市にある「にちにちの家」は設計室enの小野和良さんが建てた自宅だ。家は以前からよく車で通っていた場所にあり、ご家族で「この辺りで家が建てられたらいいね」と話していたのだそうだ。駅まで近く、眺望がいいこの土地が売りに出され、すぐに家族で見に行き購入を決めたという。

家を建てるにあたり、仕事場も併設。屋内は繋げたが、玄関は2つ計画した。仕事場の玄関を車道から近い位置に設け、一方で家族の玄関は家の脇を入った先に配置してプライバシーを確保した。

間取りは、1階は小野さんの事務所と仕事部屋に、水回りやキッチン、居間がある。2階は寝室、子ども部屋、フリースペースや納戸などを配置した。

この土地が特別だと感じられることのひとつは、眺望がすこぶるいいことだ。北には山、南は半永久的に約束された空き地、東は空が見える。道路に接する西側以外、趣の異なる景色が広がっているのだ。

もちろん、これらの絶景は暮らしの中で十二分に楽しめる。たとえば2階の東側は1.6mの大開口を実現。窓は木製サッシを用いてフルオープンできるようにした。さらに、ちょこっと座れるようなベンチや、少し外へ張り出すような形で物見台も計画。ここでひとときを過ごせば、ただただ風景を眺める時間が何よりも贅沢だと感じるだろう。

1階には建物の南東側の一部を切り取るようにウッドデッキを設けた。景色もさることながら、南は広大な原っぱに面しているおかげでとても開放的。屋根もあるため、天候も気にすることなく外に出られる。「娘はここで食事をするのが好きですね」と小野さん。

家の背後にあたる北側、山の見せ方がまた素晴らしい。住居側の玄関、焼杉の壁に覆われ閉じた印象のアプローチを入り、扉を開けた瞬間に迫力ある木々の姿が目に入るのだ。

遠くを見ながらぼんやりしたいと思う位置に窓をつけたと小野さんが言うように、今挙げた窓のほかにも1階2階ともに窓が大小設けられている。そのひとつひとつが魅力的で、自然そのものの力が感じられる。なんて豊かな家なのだろう。
  • 2階、フリースペース。景色がよい東側に向けて大きく開口した(画像左)。フルオープンする木製サッシの窓を開け、窓の外に設けた物見台に座っての眺めは最高。昼間は奥さまの仕事スペースや、ご友人たちと過ごす場にもなる。ベンチとしても使えるカウンターが便利

    2階、フリースペース。景色がよい東側に向けて大きく開口した(画像左)。フルオープンする木製サッシの窓を開け、窓の外に設けた物見台に座っての眺めは最高。昼間は奥さまの仕事スペースや、ご友人たちと過ごす場にもなる。ベンチとしても使えるカウンターが便利

  • 2階。正面奥にフリースペース、壁面の中に入ると夫妻の寝室。左手前には子ども室を設けたが、建具がないおかげで緩やかに繋がり、どのコーナーも広々。縦に貫くがっしりした大黒柱には栗を選んだ。天井は椹。杉に比べて色味が揃いやすく、室内をすっきりした印象に整えられる

    2階。正面奥にフリースペース、壁面の中に入ると夫妻の寝室。左手前には子ども室を設けたが、建具がないおかげで緩やかに繋がり、どのコーナーも広々。縦に貫くがっしりした大黒柱には栗を選んだ。天井は椹。杉に比べて色味が揃いやすく、室内をすっきりした印象に整えられる

  • 1階キッチン。作業エリアを2つに分け、シンクは居間側に、コンロは壁側に計画。夫妻でキッチンに立つことから、ゆとりのあるつくりとした。シンク側の作業台下部は居間用の収納。キッチン左にはパントリーや家電を置くための収納棚も設け、生活空間が散らからないよう配慮した

    1階キッチン。作業エリアを2つに分け、シンクは居間側に、コンロは壁側に計画。夫妻でキッチンに立つことから、ゆとりのあるつくりとした。シンク側の作業台下部は居間用の収納。キッチン左にはパントリーや家電を置くための収納棚も設け、生活空間が散らからないよう配慮した

  • 1階居間から2階へ伸びる階段。「子どもは階段で遊ぶのも好きですから」と小野さん。キッチンや居間から目が届くよう、居間の中に計画した。空間に馴染むよう、手すりはシンプル。ラインを最低限にしながら頑丈さを保つため、ガス管を使用している

    1階居間から2階へ伸びる階段。「子どもは階段で遊ぶのも好きですから」と小野さん。キッチンや居間から目が届くよう、居間の中に計画した。空間に馴染むよう、手すりはシンプル。ラインを最低限にしながら頑丈さを保つため、ガス管を使用している

家の性能を高め、建具を省く。
居場所がたくさんある居心地のよい家

「にちにちの家」では、それぞれの気配を感じつつ、つかず離れずの距離感で暮らせるようにと建具を極力省いた。水回りへ進む部分や1階は仕事部屋との仕切りで戸がついている部分もあるが、2階に至ってはなんとトイレ以外には1つも建具がない。

家の全てが繋がっていて、「寝室のコーナー」「子ども部屋のコーナー」と緩やかに認識するイメージだという。そのうえで、フリースペースの物見台やベンチ、吹き抜けに面したカウンター、居間のデイベッドなど、小野さんは家中に居場所を数多くつくった。

ひとりで過ごしたいときには、2階、納戸のさらに奥に「籠り部屋」がある。デスクを備え付け、勉強したり読書したりと使い勝手よく整えた。もちろんデスクの前には窓があり、リラックスできる。

吹き抜けや、生活空間とも距離があり、静かな空間である籠り部屋。誰のため、というわけでなく、集中したいときなど家族皆がふらりとこの部屋に来て過ごすことを想定した。小野さんは、何か仕事以外での読書や作業をするときにこの空間を使っているそうだ。仕事場とプライベートを分けるのに役立っているという。

建具を省いたことは、ほかにも利点がある。視線が遮られないおかげで開放感があるのだ。1階も2階も、天井は家の端から端まで一直線に貫かれ、奥行きも感じられる。同時に、1階の天井を低く設定し、2階は逆に高い位置から始まる勾配天井を用いることで、居心地に変化を持たせそれぞれのよさが実感できるようにした。

小野さんは家の断熱性能にもこだわった。「建具を少なくできたのも、家の性能を高めたからです」と話す。冬は居間の薪ストーブが家全体を温め、夏は2階に設置したエアコンが1階まで冷気を落とすという。距離感も居心地も申し分ない。
  • 外観。画像左側にあたる西以外は、山(北)、原っぱ(南)、伸びやかに広がる眺望(東)とすこぶるいい環境の中にある「にちにちの家」。この環境に似合う木の家として、モダンすぎず、野暮ったくもないデザインを目指した。白、シルバーに木の風合いの茶をプラスした、軽やかな家

    外観。画像左側にあたる西以外は、山(北)、原っぱ(南)、伸びやかに広がる眺望(東)とすこぶるいい環境の中にある「にちにちの家」。この環境に似合う木の家として、モダンすぎず、野暮ったくもないデザインを目指した。白、シルバーに木の風合いの茶をプラスした、軽やかな家

  • 住居側の玄関へ続くアプローチ。外壁の一部は焼杉を採用。黒い煤をブラシで落とす加工を施した茶色い焼杉がこの家にとても似合っている。軒を深く出して雨風を防ぎ、外壁を傷みづらくした。中ほどに植えられた赤い紅葉は、造園屋さんが育てていらしたものを譲ってもらった

    住居側の玄関へ続くアプローチ。外壁の一部は焼杉を採用。黒い煤をブラシで落とす加工を施した茶色い焼杉がこの家にとても似合っている。軒を深く出して雨風を防ぎ、外壁を傷みづらくした。中ほどに植えられた赤い紅葉は、造園屋さんが育てていらしたものを譲ってもらった

  • 事務所側の玄関。「道路側からは、小さなかわいい家に見えるようにしたかった」と小野さん。2階建てだが、2階の屋根を上げた部分は後ろに下げられ、道路からは平屋に見える。2階の中でも、納戸や、低い天井が望ましい籠り部屋を手前に配置した

    事務所側の玄関。「道路側からは、小さなかわいい家に見えるようにしたかった」と小野さん。2階建てだが、2階の屋根を上げた部分は後ろに下げられ、道路からは平屋に見える。2階の中でも、納戸や、低い天井が望ましい籠り部屋を手前に配置した

地域材を使い、手仕事で家をつくる。
将来を見据え同世代の職人たちをチームに

日ごろから家づくりにおいて国産素材、自然素材にこだわっている小野さん。もちろん自宅である「にちにちの家」も杉や椹(さわら)など、地域材である西川材を多く使用した。また、大黒柱は珍しい栗の木を使用。以前設計した家で気に入り、相談したところ、材木屋さんが岩手まで行って探してきてくれたのだという。これも、普段から信頼関係が築けているからこそに違いない。さらに、これらの素材をすべて職人による手刻みでつくった家だというのだからすごい。

今回の家づくりを、30代、40代の職人を探すことから始めたという小野さん。それも、これからの家づくりを考えてのことだったそうだ。小野さんは現在40代。今後同じスタイルで仕事をするなら、同世代の職人たちと連携しなければいけない。「それに、家はメンテナンスも必要です。10年後、家を建てた職人が引退してしまったとお施主さまに伝えるのも申し訳ないですから」と語る。

ただ、相性もある。そこで、まず初めに自宅をつくってもらったというわけだ。今後は、今回施工を担当した職人たちとチームをつくり活動したいとのこと。

小野さんが設計し、信頼できる職人たちがつくり上げた家は、とてもすっきりして柔らかい印象を受ける。木の家というと野暮ったいイメージを持たれがちだがそれを払しょくしたかったというが、自然豊かなこの環境にしっくり馴染む、かわいらしい家ができた。

「暮らし始めてからこうしておけばよかった、と思うことがほとんどありません」と小野さん。ご家族もそれぞれにお気に入りの場所があり、思い思いに過ごしているという。ちょうどいい「田舎暮らし」が楽しめる家。それが「にちにちの家」だ。
  • 1階、居間から仕事場までを見通す。天井は1枚の板に等間隔にスリットを入れたものを家の端から端まで通し、奥行きや広さを強調した。1階の天井高は低めに設定しているが、視線が伸び、外部も見えるおかげで、天井の低さを感じることなく落ち着きだけを得ることができる

    1階、居間から仕事場までを見通す。天井は1枚の板に等間隔にスリットを入れたものを家の端から端まで通し、奥行きや広さを強調した。1階の天井高は低めに設定しているが、視線が伸び、外部も見えるおかげで、天井の低さを感じることなく落ち着きだけを得ることができる

  • 1階、住居側の玄関から居間の方向を見る。来客が洗面に立ち入ることを防ぐため、手洗いはしっかりした大きさのものを設けた。玄関に接する仕切りはシューズクロークに続く。壁面の柔らかなアールは奥さまの要望に応えた

    1階、住居側の玄関から居間の方向を見る。来客が洗面に立ち入ることを防ぐため、手洗いはしっかりした大きさのものを設けた。玄関に接する仕切りはシューズクロークに続く。壁面の柔らかなアールは奥さまの要望に応えた

  • 1階、洗面脱衣室。画像左に洗濯機置場も設けている。3段の棚は家族それぞれの着替えを仕舞うためのもの。棚の上は物干し。洗濯に関することがここにまとまり、家事の手間が簡略化された

    1階、洗面脱衣室。画像左に洗濯機置場も設けている。3段の棚は家族それぞれの着替えを仕舞うためのもの。棚の上は物干し。洗濯に関することがここにまとまり、家事の手間が簡略化された

撮影:袴田和彦

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
にちにちの家
施主
O邸
所在地
埼玉県飯能市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
499.66㎡
延床面積
124.42㎡
予 算
3000万円台