四方を家に囲まれた旗竿地で実現!
開放的な景色を臨む「対峙しない家」

周囲を家に囲まれた旗竿地に建つ名古屋の家。一見すると周りの視線が気になりそうだが、一歩建物の中に足を踏み入れれば、そこには視線がぶつからない実に開放的な空が広がっている。土地のデメリットを逆手に取るという革新的な家づくりを試みた大畠稜司建築設計事務所の大畠さん。その創意工夫にあふれる家づくりを詳しくご紹介しよう。

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建物を斜めに配置することで
周囲の視線と閉塞感を回避

千葉県松戸市に事務所を構える大畠さんが、名古屋に立つ名古屋の家の設計を担当することになったのには理由がある。

施主であるお施主さんはもともと大畠さんの事務所の近所に住んでおり、出社の際に事務所の前を通って挨拶を交わす仲だったそう。事務所の雰囲気や事務所の隣に作ったカフェ、One Tableの雰囲気も気に入ってくれたということもあり、「いつか自分が家を建てるときは大畠さんに設計をお願いしたい」と話していたお施主さんは、その後仕事で名古屋へ。そこで家を建てることになったため、大畠さんに声をかけたのだ。

松戸と名古屋という遠距離でのプロジェクトにはなるが、もともと大畠さんがいた設計事務所でも遠方のプロジェクトが多く慣れていたため、問題なく受けることができたのだという。

土地選びの段階から相談を受けていた大畠さんは、当時を振り返ってこう話す。
「お施主さんは分筆された2つの土地で迷っていました。片方は道路に面した北側の土地、そしてもう1つは、道路から奥まった位置にある南側の旗竿地です」。

現地で実際に土地を見た結果、大畠さんが勧めたのは南側の土地。奥の敷地は南側であること、高台であるため、市街の眺望が臨めることが理由だった。

手前の敷地で工事が始まると、奥の敷地であるこちらの工事に手間がかかること、敷地が高台のため、3方が擁壁に囲まれているなどの課題はあったが、擁壁は設計で対応できるほか、工事については着工前に施工会社と詰めることで何とかなると判断。早速プラン作りが始まった。
  • 閉塞感がないよう敷地に対して建物を斜めに配置。帰宅した家主を温かく迎えることを意図しているという

    閉塞感がないよう敷地に対して建物を斜めに配置。帰宅した家主を温かく迎えることを意図しているという

  • 大きな開口部を両サイドに設けることで、隣家からの視線を遮断。ハイサイドライトが設置されているため、下の窓のカーテンを閉めても外の景色を眺めることができる

    大きな開口部を両サイドに設けることで、隣家からの視線を遮断。ハイサイドライトが設置されているため、下の窓のカーテンを閉めても外の景色を眺めることができる

  • システムキッチン。ご夫婦ともに料理をするということで、アイランド形式を採用し、左右どちらからでも行き来ができるようにした

    システムキッチン。ご夫婦ともに料理をするということで、アイランド形式を採用し、左右どちらからでも行き来ができるようにした

全館空調・長期優良住宅
閉塞感と周囲の視線を回避

旗竿敷地ということで、四方を家に囲まれている名古屋の家の土地。そこで大畠さんが考えたのが、家を土地に対して斜めに配するプランだった。これにより周辺の家と窓が相対しないほか、土地と家の周りに空間をつくることができた。そして、この配置にはもう一つ狙いがあると大畠さんは言う。

「家が斜めに配置されているため家の壁が斜めに立ち上がるようになっており、お施主さんやそのご家族がアプローチを上がってきたときにリビングの灯りがアプローチから見えるんです。その灯りを見て『家に帰ってきたな』とほっとしてもらえるよう工夫しました」。

名古屋の家の中に入ってみると、1階には子ども部屋と、お施主さんの要望でつくられた書庫。そして同居するお父さんのための洋室が。お父さんの暮らしが完結できるよう、水回りも配されている。

2階はキッチンを中心とし、眺望が良い東側にリビングとゲストルームを配置。リビングから遠い西側に主寝室、そして主寝室の横にはお施主さんが仕事をするための書斎が設けられている。全館空調としてOMソーラーのパッシブエアコンが導入されており、家のどこにいても快適な気温が保たれるのも特徴だ。

大畠さんの住み心地への探究は、こんなところにも生きている。実は名古屋の家は長期優良住宅ということで、お風呂は本来メンテナンス重視のユニットバスになる事が多いのだが、自身もお風呂好きという大畠さんの提案で、オリジナルのお風呂を設置したのだ。

今回の家づくりを振り返り、大畠さんはこう語る。
「奥さまが建築好きなうえ僕と趣味が似ていたので、提案もしやすかったですし、完成した家もとても気に入ってもらえました。はっきりしている方なので、僕自身も非常に設計がしやすかったです」。

事前の打ち合わせで「施主の方が納得いくまで話し合いをすることを心がけている」という大畠さん。そのたゆまぬ努力のおかげで、住む人が本当に満足できる家づくりが実現できているのだろう。

建材・資材の知識が深く、ロケーション、建物の配置、内部からの見え方、外部からの見え方などにもこだわりがある大畠さん。無垢材や自然塗料などを使った家づくりもお得意ということなので、気になる方はぜひアプローチしてみて欲しい。
  • リビングから見たキッチン。食器を入れるバックセットやパントリーも備えており収納スペースもたっぷり

    リビングから見たキッチン。食器を入れるバックセットやパントリーも備えており収納スペースもたっぷり

  • 大畠さんのデザインの扉が印象的な客室。扉の上部に不透明なガラスをはめ込み、来客があったときも目線が合わないようにした

    大畠さんのデザインの扉が印象的な客室。扉の上部に不透明なガラスをはめ込み、来客があったときも目線が合わないようにした

  • お風呂は長期優良住宅で必要とされる交換性を確保しつつ、オリジナルで造作。洗面所に立った時に閉塞感が出ないよう、色味なども工夫している

    お風呂は長期優良住宅で必要とされる交換性を確保しつつ、オリジナルで造作。洗面所に立った時に閉塞感が出ないよう、色味なども工夫している

  • ダイニングから見た階段の上のハイサイドライト。この窓は電動で開けることができ、窓を開けると風が抜ける。また、子どもの転落を防ぐため、階段の手前の扉は開閉できるよう工夫した

    ダイニングから見た階段の上のハイサイドライト。この窓は電動で開けることができ、窓を開けると風が抜ける。また、子どもの転落を防ぐため、階段の手前の扉は開閉できるよう工夫した

撮影:小川重雄

基本データ

作品名
名古屋の家1(対峙しない家)
施主
C邸
所在地
愛知県名古屋市
間取り
6LDK
敷地面積
319.71㎡
延床面積
169.74㎡