片流れ屋根の下、家族がひとつになりながら
プライバシーを保って暮らせる住まい

開放的で、同じ空間に家族皆がいると感じられる家が欲しい。けれど子どもたちのプライバシーは保ちたいと考えられていたお施主さま。購入したのは2方向に見える山の風景が美しい、山裾にある土地だった。建築家の中川さんは、恵まれた環境を生かしつつこれらの希望を全て叶えた家をつくり上げた。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

山裾の恵まれた環境を存分に生かすための
趣が異なる2つの窓

上のお子さまが小学校に上がる前に自宅を新築したいとお考えだったTさまご家族は、奥さまの兄である株式会社アトリエナカ建築設計事務所の中川雄三さんにプランニングを依頼した。もちろん兄弟だからという理由もあったが、それよりも「建築家に依頼したほうが自分たちの願う家が建てられそう、おもしろい家ができそう」という思いが強かったという。

中川さんより「特徴がある場所がおすすめ」とアドバイスを受けTさまが購入されたのは、景色がよく、遠くまで見渡せるのが魅力的な山裾の土地。現場に赴いた中川さんは西と東にある、山の美しい眺望を生かしたいと考えた。

まず、敷地の西側を開けて建物を配置。フォルムは西から東にかけて上がっていく片流れ屋根を採用し、西側と東側それぞれに大きく開口した。低い位置にある西側の窓はLDKの壁面いっぱい水平に広がっており、さらに隣家は擁壁の下の土地から建っているおかげで低いため、晴れやかに視界が開ける。対して天井が高い東側は居室を3ブロックに分け、ブロックとブロックの間に垂直に伸びる窓を2か所計画した。天井ぎりぎりの高い位置まで伸びる窓のほうへLDKから目を移すと、視線が自然と空に抜け、開放感が得られるのだ。

壁面に挟まれ細長い東側の窓は、この地域に住んでいる人にとっては日常の風景になっている山の景色を切り取り、絵画のような特別なものにすることに成功している。印象的に見せることにより、季節や時間によって変化する山の表情をより深く楽しむことができるだろう。「東側にありますから、朝は静謐さを保ちながらじわりじわりと明るくなるんです」と中川さん。

ひとつに繋がった空間で、開放的に暮らしたいと願っていたTさま。大きな片流れ屋根の下にある屋内も、同じように天井が途切れることなく端から端まで繋がっている。ひとつの大きな空間の両端に、高さや幅など趣の違う2種類の窓を設けたおかげで、風も抜け、自然豊かな外部環境が家の中にすっと入ってくるような感覚を得られるようになった。
  • 画像右側、大きな片流れ屋根の建物が「山裾の家」。家は、美しい山の景色や視界が開ける立地条件を生かせるように計画した

    画像右側、大きな片流れ屋根の建物が「山裾の家」。家は、美しい山の景色や視界が開ける立地条件を生かせるように計画した

  • 東側外観。右2つのブロックの間に玄関がある。大きな片流れ屋根が西側に向かって伸び、それに沿って天井を計画。ブロックの2階部分には子ども部屋がそれぞれ配置されており、そこから始まる天井の繋がりが意識できるよう、ブロックとブロックの間にも同素材を入れた

    東側外観。右2つのブロックの間に玄関がある。大きな片流れ屋根が西側に向かって伸び、それに沿って天井を計画。ブロックの2階部分には子ども部屋がそれぞれ配置されており、そこから始まる天井の繋がりが意識できるよう、ブロックとブロックの間にも同素材を入れた

  • 中から玄関側に大きく開けた窓があるが、玄関からは視線の高さまで壁があるためLDKが見えない

    中から玄関側に大きく開けた窓があるが、玄関からは視線の高さまで壁があるためLDKが見えない

家族がひとつの空間で暮らしながら、
プライバシーが保てる家に

大きな片流れ屋根が特徴的な「山裾の家」は2階建て。先述の通り西側の低い位置にはLDKがあり、吹き抜けとなっている。3ブロックに分かれた東側の1階部分は水回りや夫妻の寝室、クローゼットなどを収めた。

東側の2階部分は、3人のお子さまそれぞれの個室だ。家の中がひとつに繋がり、お互いの気配を感じられるように、けれどお子さまたちのプライバシーは確保したいというご要望に応えるべく、それぞれ独立した個室を計画したのだという。

それぞれの個室の間はブリッジで繋がれ、行き来できる。ブリッジを含む個室前の廊下は通常より少し広く計画。また、個室はそれぞれ3枚の吊り戸で仕切るようにした。LDK側にも外壁と同じく天井まで伸びる壁をブロックごとに設けてあり、その壁のおかげで戸を開けていてもLDKからは室内が丸見えになることはない。「個室はコンパクトですが、建具を開けると廊下と繋がっているので、そこが遊び場になります。兄弟の交流も増えますよね」と中川さん。下レールのない吊り戸としたのは床をシームレスに繋げることで心理的にも行き来しやすくするためだそうだ。

それぞれの個室の上部にはロフトを計画。お子さまたちが成長したら、そこに布団を敷いてもよいだろう。また、ここにも独立した部屋をそれぞれ持っていても一緒にいるんだという感覚を残したかったという中川さんの思いを表現した部分がある。窓だ。東側の細長い窓よりも外側に張り出した個室部分。吊り戸から個室の中に向かって左側の壁面と、ロフトの高い位置の右側の壁面にそれぞれ小さな窓を計画。高さが異なるため部屋の様子までは見られず、明るいとわかる程度だが、それこそが隣にいるとお互いが実感できる仕掛けだ。隣の部屋から漏れる窓の光を心強く感じながら、安心して生活ができる。

また、吊り戸の上は仕切らず、天井から隙間を空けた。そのおかげで、2階のお子さまの個室や廊下からに加えてロフトからもLDKの様子が伺える。特にロフトはこの家で一番高い位置にあるため、天井が西側の窓の外の軒まで一直線に繋がるのがわかり、ひとつの家で暮らしているという印象をより強く覚えることができる。お子さま自身が成長に合わせて、関わり方をコントロールしながら暮らしを楽しめるのだ。まさにTさまがお望みの通りの距離感が叶えられた。
  • 東側外観。「ほっこりした明かりの漏れ方で、帰宅するたびに贅沢な気分が味わえます」とTさま

    東側外観。「ほっこりした明かりの漏れ方で、帰宅するたびに贅沢な気分が味わえます」とTさま

  • 庭から西側外観を見る。壁面いっぱいに水平の窓が計画され、山へ向かって広がる景色を享受できる。屋根がそのまま軒として伸びているが、西側にあるため、さらなる日射対策としてグリーンカーテンをつくるためのフックを完備した

    庭から西側外観を見る。壁面いっぱいに水平の窓が計画され、山へ向かって広がる景色を享受できる。屋根がそのまま軒として伸びているが、西側にあるため、さらなる日射対策としてグリーンカーテンをつくるためのフックを完備した

  • 西側外観。車は家の奥、白っぽいコンクリート部分から出入りする。奥の隣家と相談し境界に壁などを設けておらず、一体となって見える。広々とした庭でお子さまが遊んでいるとき、室内のどこからでも目が届くので安心だ

    西側外観。車は家の奥、白っぽいコンクリート部分から出入りする。奥の隣家と相談し境界に壁などを設けておらず、一体となって見える。広々とした庭でお子さまが遊んでいるとき、室内のどこからでも目が届くので安心だ

家の外まで意識が伸びる開放的なLDK。
お気に入りの場所がたくさんある家

この家の最大の魅力といってよいLDKはとにかく広い。西側の半分を占めているため面積はもちろんだが、視線が2方向に、さらに東側は吹き抜けを介して屋根の一番高い位置まで抜けるおかげで雰囲気がとてもオープンなのだ。また西側の窓から続く縁台や庭も、室内から自然な流れで行き来でき、生活空間の一部として機能している。

キッチンからの眺めは格別で、家中、庭まで見渡せる。ご主人は逆に2階からLDKを見下ろしたときの様子がお気に入りなのだとか。

ただ、玄関からは生活空間を丸見えにしたくないという要望もあった。LDKから玄関側に向けて縦長の窓はあるが、視線の高さまでの壁があるため外からは直接中を見ることはできない。玄関からは廊下を介して回り込むようにLDKへと進む動線をつくることで応えた。

実はこの土地の購入が決まる前に川沿いの土地も候補にあがり、そちらのプランニングも進めていたという中川さん。当然ながら山裾の家では異なるプランになったが、それをTさまはとても驚かれたそうだ。「本当に、屋根の形からなにから全く違うものだったので。もしかしたら、妹は建築家に依頼する意味を一番そこで実感したかもしれません」と笑う。

これからも中川さんは土地の魅力を生かし、理想とする暮らしを叶えるための家をつくっていくのだろう。
  • 庭から室内を見る。室内はひとつの大きな空間として繋がっており、西側の低い水平の窓から東側の細長い垂直の窓の外まで視線が伸びる。室内左奥、木製の建具が玄関とウォークスルークローゼット、廊下を繋ぐドア。また、東側の1階部分は壁面とし、道路からの視線に考慮した

    庭から室内を見る。室内はひとつの大きな空間として繋がっており、西側の低い水平の窓から東側の細長い垂直の窓の外まで視線が伸びる。室内左奥、木製の建具が玄関とウォークスルークローゼット、廊下を繋ぐドア。また、東側の1階部分は壁面とし、道路からの視線に考慮した

  • 1階LDK。吹き抜けにより天井が高く開放的だ。最奥、キッチンの上部にロフトがある。大勢の来客時でも食事が一緒にできるよう、大きなダイニングテーブルを用意した。リビングとも境界なく繋がっているため臨機応変にエリアを区切ることができる

    1階LDK。吹き抜けにより天井が高く開放的だ。最奥、キッチンの上部にロフトがある。大勢の来客時でも食事が一緒にできるよう、大きなダイニングテーブルを用意した。リビングとも境界なく繋がっているため臨機応変にエリアを区切ることができる

撮影:中山 保寛

基本データ

作品名
山裾の家
所在地
兵庫県西脇市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
231.82㎡
延床面積
114.83㎡
予 算
2000万円台