RCと木造を合わせた『混構造』を採用
沖縄の気候・自然と共存する「亜熱帯のいえ」

「いつか沖縄の海が見える土地に自分の家を建てたい」。と考えていた、ADeRの仲本昌司さん。その夢がとうとう実現し、誕生したのが豊見城市に建つ「亜熱帯のいえ」だ。外壁に頑丈なRCを用いつつ、木材で開放的な空間をつくりだすことに成功した仲本さん。「沖縄らしい家」へのこだわりが詰まった家づくりの全貌をご紹介しよう。

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RCで建物の強度を補完しつつ
木の構造で沖縄らしい開放感を演出

沖縄県にある設計事務所、ADeRで一級建築士として活躍する仲本昌司さん。その自邸が、豊見城市に建つ「亜熱帯のいえ」だ。

海が見える土地を長年探していたと話す仲本さん。農業従事者しか家を建てられないなど制限がある土地も多く、理想的な土地を見つけるのには苦労したそう。理想の土地に出会うまでに、1年の歳月を要したという。

家づくりに着手した仲本さんが最初に考えたのが、建物の構造だった。亜熱帯気候で台風やシロアリの被害が多い沖縄では、RCコンクリート造が主流だ。しかし、コンクリートは蓄熱するうえ調湿効果がないため、高温多湿の沖縄では結露しやすいなどのデメリットもある。

「実は沖縄には木造住宅の方が適しているのではないかとも思いましたが、海が見える景色のいい場所は風が強いため、開放的な木造では強度が担保しきれない可能性がありました」。と語る仲本さん。そこで採用したのが、壁はRC、屋根を木造とする「混構造」だった。

仲本さんいわく、木造の屋根は調湿効果があるため、湿度が高く結露しやすい沖縄の気候にも合う。断熱さえしっかり行えば、快適な住環境がつくれるのだという。
「しかし、沖縄の気候風土に本当に混構造が合うのかは、実際に住んでみなければわかりません。そのため今回、自邸で試してみることにしました」。
  • 天井高5mの開放的なリビング。奥には水盤を配したテラスがあり、テラス・リビング・ダイニングと奥に行くにしたがって床が少しずつ高くなっていくつくりになっている

    天井高5mの開放的なリビング。奥には水盤を配したテラスがあり、テラス・リビング・ダイニングと奥に行くにしたがって床が少しずつ高くなっていくつくりになっている

  • 明るい日差しが降り注ぐダイニング。木製の引き戸を全開放すれば、奥に中庭とホールを望む東屋のような空間となる。床材にはチーク、天井の梁には杉と松を使用

    明るい日差しが降り注ぐダイニング。木製の引き戸を全開放すれば、奥に中庭とホールを望む東屋のような空間となる。床材にはチーク、天井の梁には杉と松を使用

  • リビングからダイニングを見たところ。ダイニングの床を一段高くすることで2つの空間を分けつつ、それぞれの景色の違いを出している

    リビングからダイニングを見たところ。ダイニングの床を一段高くすることで2つの空間を分けつつ、それぞれの景色の違いを出している

コンクリートと木材のコントラスト美しい
リゾートホテルの東屋のような住空間

『混構造』を採用し、いよいよ完成した「亜熱帯のいえ」。RC造の強固さを感じさせるライトグレーの外観が印象的だ。アプローチには赤い透かし積みブロックが用いられており、沖縄らしい雰囲気を醸し出している。このブロックは、今回仲本さんがオリジナルで製作したもの。沖縄の伝統的な赤瓦の工場で、赤瓦と同じ材料、工法でつくられているのだという。

玄関から中に入ると、そこには植栽と水盤を配置した中庭があり、訪れる人を迎えてくれる。
「アプローチからは、中庭を介してダイニングリビングがうっすらと見えます。そして細い廊下を通りぬけた先に、一気に5mほど天井高があるリビングダイニングが広がるという仕掛けです。訪れた人はみダイニングに入った瞬間に上を見上げて驚いてくれます」。と仲本さん。そのリビングの奥には水盤を備えたテラスがあり、木製建具を開け放てば風が吹き抜ける東屋のような空間となる。

仲本さんいわく、「亜熱帯のいえ」はあえて海側の開口部は控えめにし、その内側に木造の建具を組み合わせることで開放感を演出しているそう。そこには、空間ごとに見える景色に変化を持たせたいという意図があるのだという。

「景色がいい場所に家を建てる場合、景色に向けて開放的な開口部を作るのが一般的です。しかし、風景に向けて開く設計をした場合、家の中のどこにいても同じ景色になってしまうんです。ですから今回は、テラスにいるときはテラスの風景、リビングにいるときはリビングの風景…。それぞれのこういう場所でちょっと違った景色が眺められるように設計しました」。そう話す仲本さん。その意図どおり「亜熱帯のいえ」では、いる場所によって趣が異なる景色を味わうことができる。
  • アプローチ部分。赤瓦の透かし積みブロックを使用し、沖縄らしい開放感を演出した

    アプローチ部分。赤瓦の透かし積みブロックを使用し、沖縄らしい開放感を演出した

  • リビング。壁と屋根の間にあえて隙間を設けることで目線の抜けをつくり、圧迫感を軽減している

    リビング。壁と屋根の間にあえて隙間を設けることで目線の抜けをつくり、圧迫感を軽減している

  • テラスの奥に水盤を設けることで、手すりがない空間を実現。テラスの素材はコンクリートの研ぎ出しで、本部(もとぶ)の石と赤瓦の破片が混ぜ込んでいる

    テラスの奥に水盤を設けることで、手すりがない空間を実現。テラスの素材はコンクリートの研ぎ出しで、本部(もとぶ)の石と赤瓦の破片が混ぜ込んでいる

沖縄ならではの家づくりを目指し
一棟貸しヴィラの建築も計画中

新たな住まいでの暮らしを始めた仲本さんに、改めて『混構造』の良さを尋ねてみた。
「やはり木の構造が見えるのは開放感がありますし、癒しですよね。沖縄の場合、木造だけで開放的な空間を作ってしまうと、台風などで被害を受けてしまう可能性があります。その点、混構造なら頑丈さを保ちながら木で開放的な空間を作ることができるので、大きな可能性を感じています」。

海が見える自邸を建てるという夢を実現した仲本さん。今後は沖縄の地で、沖縄だからこそできるような家づくりに携わっていきたいと夢を語ってくれた。

「バリ風の家はやはりパリに建てたほうがいいし、ハワイ風の家はやっぱりハワイに建てた方がいい。それらを沖縄に建ててしまうと、どうしても二番手な感じがしてしまうんです。僕は常々、沖縄でしかできないような空間づくりがしたいと思い、そこに取り組んできました。その一環として、今後は沖縄らしい一棟貸しのヴィラをつくっていきたいと考えています。自身の家として住んでもいいし、宿泊所として貸し出してもいい。そんな建物をつくっていけたらいいですね」。

沖縄という土地を愛し、沖縄らしい家づくりを探究し続ける仲本さん。これからも、亜熱帯の自然と共に生きる、素晴らしい住まいをつくり続けてくれるに違いない。
  • 左側にテラスを望むスタディスペース。RC部分が風や雨から建物を守る役割を果たし、天井いっぱいまで伸ばした木造の建具が開放的な空間をつくりだしている

    左側にテラスを望むスタディスペース。RC部分が風や雨から建物を守る役割を果たし、天井いっぱいまで伸ばした木造の建具が開放的な空間をつくりだしている

  • ホールから1mほど降りた場所にある書斎。非日常感を出すため、壁を漆黒にした

    ホールから1mほど降りた場所にある書斎。非日常感を出すため、壁を漆黒にした

  • 玄関から中庭を見た景色。「沖縄らしい建築」を意図し、沖縄の在来種である植物を植えている

    玄関から中庭を見た景色。「沖縄らしい建築」を意図し、沖縄の在来種である植物を植えている

撮影:Mamiyasan

基本データ

作品名
亜熱帯のいえ
施主
N邸
所在地
沖縄県豊見城市
家族構成
夫婦+子供2人
間取り
2LDK+事務所
敷地面積
463㎡
延床面積
198.57㎡
予 算
5000万円台