LDKを2階に。国道沿いでも
カーテンを開けて生活できる、店舗兼用住宅

建築家の髙須さんは奥さまが経営する美容室を第一に考え、自邸として店舗兼用住宅を建てること計画。店舗と住宅それぞれが機能的にも快適さにおいても申し分ない建物をつくりあげた。往来が激しい国道沿いの立地でも開放的に暮らせる秘密は2階に設けたLDKだという。素材感も存分に楽しめるこの家の秘密を探る。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

お客さまを迎える美容室の営業を
第一に考えた店舗兼用住宅

「松坂の家と美容室」は、一級建築士事務所 T.planの髙須清徳さんが家族で暮らす自邸だ。以前より奥さまが美容室を経営されており、自宅をつくるときには店舗兼用住宅にしようと考えていた。土地はそれぞれのご実家から近い場所で探し、国道沿いの敷地を購入。車での出入りしやすさが決め手になったという。

家のプランニングも、まず店舗ありきで進めた。まず、国道に沿うように横長い敷地に合わせて建物を配置し、国道から入りやすい方角の先端に駐車場を設けた。美容室の入り口も駐車場に面する形で設け、住宅の入り口は美容室の動線に影響しないように反対側、つまりもう片方の先端に計画した。

住宅側の入り口を入ると通り土間が伸びており、その途中に住居に上がる玄関がある。通り土間は美容室への動線としても使用され、突き当りにある仕切り扉から行き来できるようになっている。

十分な広さを確保するためLDKは2階につくることにし、美容室との仕切り扉に近い場所は洗面脱衣室など水回りを整えた。「店舗兼用住宅の利点のひとつは、仕事をしながら家事もこなせることです。美容室でも洗濯物は出ますから、洗濯機の近くに扉があれば流れがスムーズになると考えました」と髙須さん。土足のまま行き来ができる通り土間と並行に室内にも玄関から続く廊下を設け、土間と室内のどちらからでも洗面脱衣室や玄関収納にアクセスできるように計画。また、階段は玄関脇に設置し、1階のどこにいても2階へ上がりやすくした。
  • 住宅1階、入口から始まる通り土間。床、壁、天井までをモルタルとし、統一感を出しつつコストを下げた

    住宅1階、入口から始まる通り土間。床、壁、天井までをモルタルとし、統一感を出しつつコストを下げた

  • 住宅1階、通り土間の一部を閉める玄関。左側に続く土間を抜けると店舗と繋がる扉がある。土間と並行して右側に廊下も計画し、階段の裏に配置した玄関収納や水回りへどちらからでもアクセスできるようにした。土間に設けた掃き出し窓からは外にも出られて便利

    住宅1階、通り土間の一部を閉める玄関。左側に続く土間を抜けると店舗と繋がる扉がある。土間と並行して右側に廊下も計画し、階段の裏に配置した玄関収納や水回りへどちらからでもアクセスできるようにした。土間に設けた掃き出し窓からは外にも出られて便利

LDKを2階に配置したからこその快適さ。
1階と距離を近づけ不安要素をゼロに

LDKを2階にすると、階段が億劫などマイナスの印象を持たれることも多いが、髙須さんは数々の工夫でその不安を見事に払しょくした。

まず、屋根や天井を低く設定。それだけでも階段の段数を2、3段減らせたという。さらに、ダイニングは床を1段上げ、逆にリビングでは下げるなど2階を全体的にスキップとすることでさらに段数を少なくした。それだけではない。実際に段数を減らすとともに、土間の上部や階段を吹き抜けとし、緩やかに空間を繋げて心理的にも1階と2階の距離を近づけたという。

自分たち家族の過ごし方を考えると、リビングは独立させたほうがよいと判断した髙須さん。ただ、離しすぎたり仕切りすぎたりすれば一体感が出ない。そこで、キッチン・ダイニングエリアとの間に階段の吹き抜けを挟みながら、壁はつくらずオープンに計画することでLDKがワンルームにも感じられる一体感を生み出した。

同時に、ダイニングは平天井、キッチンやリビングは勾配天井とフォルムを使い分けたうえ、それぞれ天井の質感をはっきりと変えた。おかげでオープンな雰囲気だけれども、居場所ごとにフィットしたくつろぎが得られるようになった。

また、適度な距離感がある空間は、暮らし方の変化にもうまく対応できるという。本来の使い方以外でも、リビングで食事をしたり、ダイニングで仕事をしたりと状況に応じて活用しているそうだ。

2階にLDKを設けたことは、国道沿いという環境においても大きな利点をもたらしている。人通りや車の通りが激しくても、視線が上まで届かないおかげで開放的に暮らせるのだ。国道側にあるダイニングの窓はしっかりとした大きさがあるが、国道の向かいは工場ということもあり「一応カーテンはつけましたが、閉めることはほぼありません」と髙須さん。

大開口した南面の窓から豊かに光が入るキッチンも、2階だからこそ叶えられた。隣家が迫っているものの、視線は建物を抜けて遠くまで伸びる。それだけでも十分に魅力的だが、窓の外には植栽を設け、奥さまの「木々を眺めながら料理がしたい」という要望にも応えている。
  • 住宅2階、リビングからキッチンを見る。階段と、画像左奥の窓に沿って吹き抜けがあり1階と意識が繋がる

    住宅2階、リビングからキッチンを見る。階段と、画像左奥の窓に沿って吹き抜けがあり1階と意識が繋がる

  • 2階、リビングからキッチン・ダイニングを見る。キッチン側は勾配天井、ダイニング側は平天井。印象をはっきりと変え、それぞれの居心地を適したものにした。画像右奥、レンガ壁の奥はトイレがある

    2階、リビングからキッチン・ダイニングを見る。キッチン側は勾配天井、ダイニング側は平天井。印象をはっきりと変え、それぞれの居心地を適したものにした。画像右奥、レンガ壁の奥はトイレがある

  • 住居2階、キッチン(左)ダイニング(右)。正面の奥はパントリー。LDKを2階に配置したおかげで、国道に面するダイニングの窓もカーテンを閉めずに生活できる。中央、キッチンの収納棚はこの家で使用した床材や野地板の余りを活用して造作した。素材の美しさも感じられる

    住居2階、キッチン(左)ダイニング(右)。正面の奥はパントリー。LDKを2階に配置したおかげで、国道に面するダイニングの窓もカーテンを閉めずに生活できる。中央、キッチンの収納棚はこの家で使用した床材や野地板の余りを活用して造作した。素材の美しさも感じられる

素材感を大切に、本物にこだわる。
コストも重視したくつろぎの住空間づくり

LDKを含め住宅部分はインダストリアルな雰囲気があり、頼りがいも感じられる。それは、本物の素材を使用することや素材へのこだわりから生まれたものだろう。

たとえば2階のトイレに続く壁面はタイルや壁紙ではなく、本物のレンガで構成した。しかもリサイクル品だという。「汚す前提でこの家はつくりました」という通り、レンガのほかにもモルタルなど傷がつくことを恐れずに扱える素材が多く採用されている。さらには梁や柱は角を落とすなど、スタイルに合うように自身で加工したものを使用した。

素材がもたらす雰囲気が設えと合っているのも魅力的だ。少し煩雑なほうが落ち着いて過ごせるとの思いから、収納は隠さず、醸し出される生活感までもがこの家の味になるように整えた。

空間に統一感があることにも理由がある。キッチンの収納棚は造作したものだが、なんと床材や野地板の余りを活用しているのだ。髙須さんは「塗装も一度にしますから、余った材料が別の現場で使えることは少ないのです。捨ててしまわないといけない場合もあり、とてももったいないですよね」と語る。同じ素材だからこそ、コーディネートはばっちりと決まり、それでいてエコ、コストも下げられる。まさにいいこと尽くめだ。

最後に、店舗を見てみよう。奥さまが1対1でお客さまと向き合う接客スタイルを重視し、待合スペースは2階までの吹き抜けで居心地が抜群。施術中に次のお客さまがいらしても気にならないよう、セットスペースは待合室から目の届かない、階段を上がった中2階に配置した。セットスペースは南に向かって窓があり、植栽を眺めながらリラックスして過ごせる。この窓からはキッチンの窓も見えるが、中2階と2階で高さが異なるうえ、キッチンの窓は通り土間の吹き抜けに面しているため室内まで距離があり、室内の様子は伺えないという。

日ごろからお施主さまのご要望について、何のためにそれが必要なのかを探り、プランに反映していくという髙須さん。それがどのくらい家づくりにおいて重要なのかは、不安要素や立地条件をただクリアするだけでなく、暮らしやすさや快適性にもこだわり抜いてつくられた、この「松坂の家と美容室」を見ればよくわかる。
  • 住宅2階、LDK。リビングは画像奥、階段の吹き抜けの奥に配置。壁をつくらずオープンに計画し、視覚的にはワンルームのように捉えられる。画像右、キッチンには大きなFIX窓を設けた。南側にあるため光が入り室内が明るくなるうえ、開放感も増した

    住宅2階、LDK。リビングは画像奥、階段の吹き抜けの奥に配置。壁をつくらずオープンに計画し、視覚的にはワンルームのように捉えられる。画像右、キッチンには大きなFIX窓を設けた。南側にあるため光が入り室内が明るくなるうえ、開放感も増した

  • 住宅2階、キッチンからダイニングを見る。ダイニングの奥、トイレの仕切り壁はレンガを使用。イギリスなどで使用されたリサイクル品であり、重ねられた時間の重みも感じられる。また、梁や柱に使用した杉材は、室内の雰囲気に合わせて自身で加工した

    住宅2階、キッチンからダイニングを見る。ダイニングの奥、トイレの仕切り壁はレンガを使用。イギリスなどで使用されたリサイクル品であり、重ねられた時間の重みも感じられる。また、梁や柱に使用した杉材は、室内の雰囲気に合わせて自身で加工した

  • 住宅2階、リビングはダイニング・キッチンと離して配置した。他の部分よりも床が下がっており、また勾配天井側にあるため天井が高く、ゆったりと過ごせる。最近はここで食事をすることが多いとのこと

    住宅2階、リビングはダイニング・キッチンと離して配置した。他の部分よりも床が下がっており、また勾配天井側にあるため天井が高く、ゆったりと過ごせる。最近はここで食事をすることが多いとのこと

  • 住宅2階LDK。画像右、キッチンの窓は特注した。こちらの窓はFIXだが、その左隣に外階段に繋がる掃き出し窓を計画。風も入ってくる

    住宅2階LDK。画像右、キッチンの窓は特注した。こちらの窓はFIXだが、その左隣に外階段に繋がる掃き出し窓を計画。風も入ってくる

間取り図

  • 配置図

  • 1F図面

  • 2F図面

基本データ

作品名
松阪の家と美容室
所在地
三重県松阪市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
404.75㎡
延床面積
141.67㎡
予 算
2000万円台