都心を流れる小川に沿って続く鮮やかな桜並木。その通りに面しているUさん邸。20坪ほどの狭小地に建つこの住まいは、絶好のロケーションを活かして、日常生活をより楽しく、より快適に過ごす工夫がなされています。
絶好のロケーションを活かした住まい
東京都内でカフェを経営されているUさんは、お客様をもてなすプロフェッショナル。日頃から、どんなインテリアにするか、どんなメニューを提供するか、どんな食器を使うか、どんなBGMを流すか――といった具合に感性を研ぎ澄まし、快適な空間の創造に努めている。すべては「お客様に喜んでいただきたい」という思いからだという。
その気持ちは、家族に対しても同様だ。家族の喜ぶ、楽しく快適に過ごせる住まいがほしいというUさんの希望から、念願のマイホーム購入を決意したという。
さっそく不動産めぐりを開始したが、当初、ご夫妻はマンションの購入を検討していた。というのも、新居の候補地は東京23区内の繁華街。物件選びの難しさや予算の問題から、一戸建ての購入は想定していなかったそうだ。
ところが、ある不動産会社からたまたま紹介してもらった土地を見て、ご夫妻はそのロケーションに一目ぼれ。面積約20坪と狭小地ながら東南角地で、南側に美しい桜並木、並行して小川が流れている。素晴らしい風景は都会の喧騒を感じさせず、また東南が開けているので、住宅密集地ながら、明るく開放的な住まいを建てられそう。しかも、手に届く価格。ご夫妻は、この土地の購入を決めた。
思い描いた家づくりのテーマは、「土地の条件を活かした、豊かな住まい」。夢を実現してくれる建築家を都内で探していたところ、出会ったのが、秋山アトリエ一級建築士事務所の秋山功さんだった。最初の打ち合わせからフィーリングがぴったり合ったことから、ご夫妻は、秋山さんへの依頼を決めたという。
秋山さんが最も重視したのは、桜並木の景色を日常生活に取り入れること。そして、人通りが多いだけにプライバシーをしっかりと確保すること。提案したのはLDKを2階に配置するプラン。最も眺望がよく日当たりのよい南側をダイニングキッチンにして、アイランドキッチンとダイニングテーブルを造作した。
「Uさんがキッチンに立つ機会も多いと聞いていましたし、お二人とも食事スペースを大切にしているという思いが伝わってきましたので、ダイニングキッチンを家の中心に据えるプランを提案しました」と秋山さん。南側の壁には、あえて大窓を設けず、60cm×230cmほどの横長の窓を設置。そこから見える桜並木は、まるで景色の一部を切り取った絵画のよう。桜が満開の季節には鮮やかなピンク、それ以外の季節にも木々の緑を望むことができ、2階LDKは「癒しのスペース」に仕上がった。
内装にもこだわった。「素材の経年変化を楽しみたい」というUさんの希望から、フローリングをはじめ、造り付けのダイニングテーブルや家具など至るところで素材感のあるスギの集成材を採用。素材をスギにこだわり、歩留まりを高くしたことでコストパフォーマンスにも好影響を与えたという。
予算内でお気に入りの一戸建てを実現したご夫妻。新築後まもなく第一子が誕生し、幸せいっぱいのご様子だ。
限られた空間を巧みに活かして開放性、収納性をアップ
都会の狭小地ゆえ居住スペースが限られているだけに、「間取りは特に気を遣った」という秋山さん。「当初3LDKも検討しましたが、そうするとどうしてもLDKが狭くなってしまう。寛ぎのスペースを広く取りたかったので、あえて2LDKを提案しました」。1階は寝室や和室、水廻りをコンパクトにまとめ、2階は約22畳のLDKのみという間取りに。LDKは天井を高くとり、開放感を高めた。さらにリビング上部を利用してロフトをつくり、収納スペースも確保した。
コンパクトにまとめた1階も、寝室は10畳と余裕のある空間に。お子様の成長に合わせて将来間仕切りできるようにするなど、細部にわたって配慮が行き届いている。
【秋山 功】
Uさんご夫妻は、物事の本質を見抜く力に長け、日常生活のなかで何を一番大切にされているかしっかりと理解されていました。だから、2階の南側にダイニングキッチンを配するという提案にも「おもしろい」と気に入ってくだったと思います。