3つの動線がすべてのエリアを繋ぐ家。
低コストで理想を叶える分離発注方式とは?

「北中の家」は、お施主さまが岡さんの自邸を気に入り、設計を依頼した家だ。自邸のエッセンスをベースとし、ライフスタイルと要望を上手に掛け合わせて豊かに、快適に暮らせる家を実現した。お施主さまと岡さんは、仕事上のパートナー。岡さんが手掛ける「分離発注」方式での家づくりも紹介する。

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土間を設け、LDKと庭がひとつに。
リズムある空間で極上の居心地を提供

「北中の家」のお施主さまのお仕事は大工で、日ごろから建築設計室21の仕事を請け負うこともある方なのだそうだ。「仕事を一番しっかり管理されるし、図面もきっちり描いてもらえるので仕事がしやすい」と強い信頼を寄せてくださり、自邸づくりを任せてくださった。「ありがたいことに、設計は私共にとお話を下さる関係者の方は多いですね」と岡さん。正直で、質が高い仕事をされる証拠だろう。

北中の家は、お施主さまが岡さんの自邸「横山の家」を気に入ったことがきっかけでスタート。特徴的な部分である吹き抜けや庭のつくりを取り入れたほか、もちろん具体的な要望を叶えながらプランニングを進めた。

では、具体的な要望から見てみよう。主なものは3つ。「庭が欲しい」「薪ストーブ導入」「プライバシー確保」だった。

敷地は575㎡以上とかなり広いが、将来同じ敷地に仕事用の建物を2つ建てたいと考えていることもあり、全体的なバランスを考慮して家を配置した。東と南に接道する一角で、4mある道路の反対側は建物が密集しているため、庭をコンクリート壁とフェンスで囲みプライバシーを確保。さらにフェンスに近い場所に背の高い植栽を植え、光や風を通しながらの確実な視線カットを可能にした。

1階はLDKと和室、寝室、水回り、そして土間がある。LDKと和室は一続きで計画。天井高に変化を持たせて抑揚をつけ、それぞれの居心地を際立たせた。ダイニングから庭までは連続性を大事にしており、流れるように土間、軒下テラス、そして庭へと視線が伸びる。さらに、吹き抜けを介して2階のフリースペースや天井まで一続きになる縦の連続性も重なり、非常に開放的な空間ができた。

連続性のおかげでLDKから軒下テラス、庭までの距離が感覚的に近しくなり、活用の幅も広がったのだそうだ。お気に入りの椅子をテラスに出し、お風呂あがりにビールを飲みながら涼む時間は格別なのだとか。

薪ストーブは土間に設置した。生活空間のちょうど中心に位置し、LDKや和室のどこからでも炎が揺れる様子を眺めることができる。もちろん機能的にもベストな場所であり、岡さん曰く「さらに吹き抜けもありますから、2階も含めて家中が輻射熱で温かくなります」とのこと。冬季において必要不可欠な存在となっている。

  • 1階、ダイニング、キッチン。画像左、木製の扉は階段室やシューズクロークに続く動線。その奥にある動線は壁一面に雑庫を設けた。大容量の収納にもかかわらず、生活空間からは死角になるためLDKがすっきりと整う。一番奥のスペースはパントリー

    1階、ダイニング、キッチン。画像左、木製の扉は階段室やシューズクロークに続く動線。その奥にある動線は壁一面に雑庫を設けた。大容量の収納にもかかわらず、生活空間からは死角になるためLDKがすっきりと整う。一番奥のスペースはパントリー

  • キッチンから生活空間を見る。ダイニングから土間、軒下テラス、庭までが連続的に繋がり、庭が生活の一部として取り込まれている。画像奥に見える薪ストーブは家の中心に位置し、どこからでも眺められるうえ、吹き抜けも利用し家全体を温められる

    キッチンから生活空間を見る。ダイニングから土間、軒下テラス、庭までが連続的に繋がり、庭が生活の一部として取り込まれている。画像奥に見える薪ストーブは家の中心に位置し、どこからでも眺められるうえ、吹き抜けも利用し家全体を温められる

  • 1階。画像左奥の玄関からLDKへは3本の動線を層のように重ねた。画像左端の動線は玄関と土間を結ぶ。左から2本目の動線は階段室とシューズクローク、突き当りにある駐車場への裏玄関までまっすぐに繋ぐ。3本目は水回りと雑庫がある廊下を通りキッチンに出る

    1階。画像左奥の玄関からLDKへは3本の動線を層のように重ねた。画像左端の動線は玄関と土間を結ぶ。左から2本目の動線は階段室とシューズクローク、突き当りにある駐車場への裏玄関までまっすぐに繋ぐ。3本目は水回りと雑庫がある廊下を通りキッチンに出る

  • 軒下テラス。過ごすときに目に触れる軒や柱には木材を用い、高級感を出した。空間の繋げ方で室内との領域が曖昧になったおかげで、外に出ることが面倒にならず活用の幅が広がった

    軒下テラス。過ごすときに目に触れる軒や柱には木材を用い、高級感を出した。空間の繋げ方で室内との領域が曖昧になったおかげで、外に出ることが面倒にならず活用の幅が広がった

どこにでもアクセスできる3層の動線。
移動のついでに片づける習慣で家中すっきり

「北中の家」の最大の特徴として、玄関から生活空間への動線が3本あることが挙げられる。玄関に近い場所から、玄関から土間、薪ストーブまでを結ぶ線、シューズクロークを抜けて階段室やLDKへと続く線、水回りと雑庫がある廊下を通ってキッチンに出る線だ。

玄関のほかにも、家に隣接した屋根付きの駐車場からダイレクトに入れる出入口がシューズクロークと直線で結ばれた位置にある。駐車場に保管している薪が運びやすいのはもちろん、富山は雨が多いため裏玄関として便利に使用している。

3本の動線を層として重ねるイメージで回遊性を持たせ、家中のアクセスもちろん、動線間の移動もたやすくした。便利になったのは移動だけではない。岡さんは、片付けやすさ、すなわち暮らしやすさも格段に向上させたという。

肝となっているのは、壁面いっぱいの雑庫と廊下を兼ねた、キッチンに近い線である。油断すると物があふれるLDKから近いにもかかわらず、完全な死角に入るように計画。水回りからも近く、両方のものを一気に収納できるだけでなく、シューズクロークやウォークインクローゼットも近いため、移動のついでに片付けられるのだ。

2階は、お施主さまが岡さんの自邸を見て導入したいと要望されたお子さまたちのスペースを配置。子ども部屋においては、家族それぞれ距離の取り方が違うこと、また男女構成でも関係性が異なることから必ずつくり方を相談するという。岡さんの自邸の子ども部屋は2部屋としても1部屋としても使えるフレキシブルな空間だったが、この家では独立した2部屋とした。

フリースペースはお施主さま自らがカウンターをつくり、勉強したり腰掛けたりとお子さまたちが自由に使っているそう。階が違っても、吹き抜けを介してLDKにいる親に顔を見せて声をかけるなど豊かにコミュニケーションを交わしている。
  • 1階LDK。吹き抜けのあるリビングと、天井高を抑えたキッチン、リビングが繋がり、抑揚ある空間ができた。木の質感を大切にした設えの中で、ステンレスのキッチンがキリリとしたスパイスになっている。リビング脇の扉は寝室に続く

    1階LDK。吹き抜けのあるリビングと、天井高を抑えたキッチン、リビングが繋がり、抑揚ある空間ができた。木の質感を大切にした設えの中で、ステンレスのキッチンがキリリとしたスパイスになっている。リビング脇の扉は寝室に続く

  • 1階、ウォークインクローゼットの前からキッチン方向を見る。画面右側の壁面は雑庫。左側の扉は洗面脱衣室で、LDKと水回りの両方で雑庫を収納場所にできる。また、生活空間からウォークインクローゼットや駐車場、玄関への動線上にあるため、移動のついでに片付けられる

    1階、ウォークインクローゼットの前からキッチン方向を見る。画面右側の壁面は雑庫。左側の扉は洗面脱衣室で、LDKと水回りの両方で雑庫を収納場所にできる。また、生活空間からウォークインクローゼットや駐車場、玄関への動線上にあるため、移動のついでに片付けられる

  • 2階、フリースペース。画像左奥の開口は子ども部屋である洋室A。共用で使えるスペースを子ども部屋からすぐのところに計画。右の壁面に沿ったカウンターはお施主さま自作によるもの。お子さまたちは勉強したり、遊んだりと思い思いに使っている

    2階、フリースペース。画像左奥の開口は子ども部屋である洋室A。共用で使えるスペースを子ども部屋からすぐのところに計画。右の壁面に沿ったカウンターはお施主さま自作によるもの。お子さまたちは勉強したり、遊んだりと思い思いに使っている

個々に契約する「分離発注」方式の家づくり
お施主さま、施工会社ともに利点が

最後に、岡さんが手がける、低コストかつ理想の家づくりができる「分離発注」方式について伺った。

お施主さまが家づくりをするとき、工務店を挟むなどの方法が一般的だ。しかし建築設計室21では選択肢がもう1つあり、お施主さまと施工会社や職人たち双方にメリットがある「分離発注」方式を選ぶことができる。

分離発注とは、お施主さまが工事を行う各専門会社などと個別に契約する方法だ。建築士とは設計・管理マネージメントの業務委託契約を結び、全体的な管理をしてもらう。双方にメリットというのは、それぞれの工事にかかるコストが明確になること。お施主さまにとっては工事以外にかかる間接費用が最小限に抑えられるため、同じ予算であっても家そのものにお金がかけられる。工事を請け負う側としても、間にハウスメーカーや工務店を挟むことなく直接やり取りするためお施主さまとの距離が近くなり、意思の疎通が図りやすい利点がある。

今回ご紹介した家のお施主さまも、この分離発注方式でのやりかたに賛同され、常に快く仕事を請け負ってくださっているという。

建築士にとっては、家づくりの全部を把握してすべてのやり取りに責任を持つため、一般的な方法に比べて負担は多い。しかし、岡さんは「プロジェクト全体を見て丁寧にマネージメントしながら進める仕事のやり方は、私の性格に合っているし、むしろやりやすいと感じています。細かい部分までこだわって家づくりができますので、ぜひ選択肢のひとつとして考えていただきたいですね」と話す。

岡さんは、お施主さまとも、施工を行う会社や職人たちともよきパートナーとして、よりよい家の実現を可能にする建築士なのだ。

  • 1階、リビングからの眺め。2階の奥まで空間が伸びやかに続く。お子さまたちとコミュニケーションもとれる

    1階、リビングからの眺め。2階の奥まで空間が伸びやかに続く。お子さまたちとコミュニケーションもとれる

  • 玄関。右に進むとシューズクローク、手前に土間、左はポーチ。それぞれを区切る建具を付け、寒さ対策とした

    玄関。右に進むとシューズクローク、手前に土間、左はポーチ。それぞれを区切る建具を付け、寒さ対策とした

撮影:シマセ写真館 島瀬航

基本データ

作品名
北中の家
施主
U邸
所在地
富山県魚津市
家族構成
夫婦+子供2人
間取り
4LDK+吹き抜けフリースペース+土間
敷地面積
575.4㎡
延床面積
185.23㎡
予 算
3000万円台