生活にメリハリができる多様な空間構成。
伸びやかな天井の下、優しい光と暮らせる家

建築家の岡さんは富山移住を機に自邸を新築した。移住を決意するきっかけとなったのは、連なる山々の美しい風景だ。後立山連峰と田園風景が楽しめる絶景の地を購入し、思い浮かべたのは「大樹に守られた暮らし」。大きな屋根が包み込む家で、テーブルを囲んで集う家族の暮らしぶりを見てみよう。

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柔らかな光に包まれる暖かいリビング。
大樹に守られた暮らしをイメージした家

「横山の家」は、建築設計室21の岡大輔さんが富山への移住を機に建てた自邸だ。京都出身の岡さんが初めて富山で暮らしたのは大学生のころ。美しい山の風景に魅せられ、いったん就職で離れたものの移住という形で富山に戻ってきた。

購入したのは南面いっぱいに田んぼが広がり、桜並木の向こうに後立山連峰がそびえるまさに絶景の地。「大樹に守られ、大きなテーブルを囲み、山々を眺める暮らし」をコンセプトに、家族5人で暮らす家のプランニングがいよいよ始まった。

大樹に守られる感覚を、岡さんは家の構成で表現したという。まず家の中心に大黒柱を立て、天井は構造を現しにした。さらに吹き抜けを設け、天井高や居室の広さに変化を持たせることで、大樹の枝ぶりや木陰を感じることができる。場所ごとに雰囲気が変わり、まるで日々刻々と変化する山の景色が家の中にも入りこんでいるようだ。

吹き抜けの下、1階のダイニングは光に満ちた温かい空間。吹き抜けから入る日射を、2階の窓の前に設けた壁を使って一度天井に反射させ、柔らかく変化させている。ダイニングの窓の外には軒を深くしたテラスを配置し、上からの光だけでなくこちらでも光量を調節した。また、椅子を6脚置いてもまだゆとりがある大きなテーブルを設置。南の絶景に向けて大きく開口した窓から田園風景や見事な山並みを眺めながら、お茶を飲みつつおしゃべりするなど、ゆったりとした時間が過ごせる。

こんな暮らしがしたいという思いを見事に表現した岡さん。雄大な自然を満喫しながら、笑い声の絶えない毎日を送っているそうだ。
  • 2階、子どもスペース。階段脇にあるのが大黒柱。構造を現しにした天井は、耐震性が確保できる杉Jパネルを使用して梁の数を減らした。画像右、南の窓から入る光は正面の白い壁面に反射し、天井に当たって1階に落ちる。夏場は画像左のエアコンのみの稼働で快適

    2階、子どもスペース。階段脇にあるのが大黒柱。構造を現しにした天井は、耐震性が確保できる杉Jパネルを使用して梁の数を減らした。画像右、南の窓から入る光は正面の白い壁面に反射し、天井に当たって1階に落ちる。夏場は画像左のエアコンのみの稼働で快適

  • 2階子ども室1、2。現在はハンモックを外し、建具を入れて2部屋にした。壁が入りコンパクトな空間になっても、天井が2階全体で繋がっているのがわかるため圧迫感がなく、また安心感を得られる。扉を開ければ、本やおもちゃなどが置いてある子どもスペースまで意識が拡張される

    2階子ども室1、2。現在はハンモックを外し、建具を入れて2部屋にした。壁が入りコンパクトな空間になっても、天井が2階全体で繋がっているのがわかるため圧迫感がなく、また安心感を得られる。扉を開ければ、本やおもちゃなどが置いてある子どもスペースまで意識が拡張される

  • 2階、長女の個室。当初は岡さんが書斎にするつもりだったそうだが「集中できるからとすごく気に入ってしまって」と、長女の部屋となった。学習に必要なものだけを部屋に置いてあり、気持ちの切り替えがしやすい。天井が低く落ち着きがあり、かつ窓の外には雄大な景色が広がる

    2階、長女の個室。当初は岡さんが書斎にするつもりだったそうだが「集中できるからとすごく気に入ってしまって」と、長女の部屋となった。学習に必要なものだけを部屋に置いてあり、気持ちの切り替えがしやすい。天井が低く落ち着きがあり、かつ窓の外には雄大な景色が広がる

フリースペースの使い勝手は自由自在。
収納場所を別に設け、個室の居心地が向上

暮らしぶりをもう少し詳しく見てみよう。2階は吹き抜けを囲むように子ども部屋やフリースペースを配置した。

切妻屋根を生かした天井の頂点に近い位置に配置されているのは、お子さまたちの絶好の遊び場となっているフリースペースだ。造り付けの本棚や、ピアノ、おもちゃなどが並び、お子さまたちが思い思いに過ごしている。一角は吹き抜けの壁面をガラス張りとし、キッチンやダイニングにいる親とのコミュニケーションが取りやすいように計画した。

お子さまたちの部屋は、それぞれフリースペースの外側に配置した。子ども室1と2はもともと1部屋だったが、最近になって建具を入れ2部屋にしたという。2部屋に分けるとそれぞれが6畳程度のコンパクトな居室となるが、隣接するフリースペースと自然な動線で結ばれているため狭くて困るということはない。さらに、建具と天井の間に空間があるため、フリースペースまで繋がりが感じられ圧迫感がないばかりか、コンセプトの「大樹の下で守られている」という感覚も得られる。

一番上のお嬢さまの部屋は、2階でも一番天井が低い位置にある。ここでもフリースペースが生きてくる。部屋の外に遊ぶものや趣味のものを収納しているので、部屋の中には勉強道具だけを置いておくことができるのだ。メリハリがついて集中しやすく、学力も上がったとのこと。広さや趣の違う空間を組み合わせたことによって使い勝手が向上し、居場所ごとの感覚の違いが大きな効果を生み出したといえるだろう。

  • 1階、夫婦の寝室。本棚やデスクを壁に入れ込んで壁面をフラットな印象に整えた。本棚に立てかけた梯子を上ると物置がある。天井高が低く、踏み台を用意すれば容易に物置に仮置きできる。「使い勝手を考えなくては、収納を用意しても結局使われなくなってしまいます」と岡さん

    1階、夫婦の寝室。本棚やデスクを壁に入れ込んで壁面をフラットな印象に整えた。本棚に立てかけた梯子を上ると物置がある。天井高が低く、踏み台を用意すれば容易に物置に仮置きできる。「使い勝手を考えなくては、収納を用意しても結局使われなくなってしまいます」と岡さん

  • 1階、洗面脱衣室、浴室。洗面のタイルはお子さまたちが選んだもの。岡さまの3人のお子さまは皆女の子。だからこそ、よりこの場所が重要になってくるだろうと広々とさせ、収納も使い勝手を考えながら造作した

    1階、洗面脱衣室、浴室。洗面のタイルはお子さまたちが選んだもの。岡さまの3人のお子さまは皆女の子。だからこそ、よりこの場所が重要になってくるだろうと広々とさせ、収納も使い勝手を考えながら造作した

  • 1階キッチンから、家を見渡す。2階の吹き抜けは一部ガラス張りにしたので、お子さまの様子がわかりやすい。顔が見えるところ、見えないところと両方計画し親子の距離感の取り方を調整した。2階正面は子供室1,2。上部の空間から天井が続くのが見え、1階の開放感が高まる

    1階キッチンから、家を見渡す。2階の吹き抜けは一部ガラス張りにしたので、お子さまの様子がわかりやすい。顔が見えるところ、見えないところと両方計画し親子の距離感の取り方を調整した。2階正面は子供室1,2。上部の空間から天井が続くのが見え、1階の開放感が高まる

家のどこからでもアクセスしやすい
ファミリークローゼットで快適な暮らしを

1階はLDKから南に突き出すように和室を設けた。LDKと和室でL字型にテラスを囲み、テラスのプライバシーを確保している。また、和室は西側にあるため、西日避けにもなるという。これらの工夫のおかげで、テラスは居心地がいい場所のひとつとなった。バーベキューをしたり、屋外用の炬燵を置いて景色を楽しんだりしている。

夫婦の寝室も1階にある。天井高が2m20cmと少し控えめで、とても落ち着く空間だ。本棚やワークスペースを壁の中に入れ込むデザインのおかげで室内に凹凸が少なく、非常にすっきりとした印象を受ける。また、LDKとの間にウォークスルークローゼットを挟んでいるため、LDKでの声が届きにくくゆっくり眠れるうえ、落ち着いて読書もできる。

低い天井高は、本棚の前にかけられた梯子の上にある物置の使用にもメリットがあるという。季節ものは全部収納できるというくらいゆとりある物置だが、梯子を使用して荷物を上げ下げするのは億劫だし危険だ。しかし、天井が低いため踏み台があればとりあえずの仮置きができるのだ。一度そうして荷物をまとめて上げてから、梯子で自身が物置に登れば整理もしやすい。使いやすければ使用頻度も上がるというわけだ。

2階の個室に物が少なく、また1階は特に目立った収納が室内に見当たらないにもかかわらず、きちんと整った印象がある「横山の家」。秘密は1階の主寝室と繋がるウォークスルーのファミリークローゼットにあるという。寝室のほか、2階へ続く階段や水回りからも無理のない動線でアクセスでき、やはり個室の一部に近い感覚で利用できるのだ。家事室からも近いため、物干しからハンガーごと衣服を収納できるなど、収納する際の使い勝手も申し分ない。

1年を通じて快適に過ごすための熱環境も整えた。夏は2階のエアコン、たった1台を稼働すれば家中が快適だという。少し離れた寝室にもファンとダクトで繋げ、冷気や暖気が届くようにしている。冬は1階の床下にエアコンの暖気を回すように計画した。床暖房よりもコストがかからず、また床下全体に暖気が届くので洗面室などまで暖かくできる。

実は、移住は転職も兼ねてのことだったという岡さん。前職は大手企業の技術部で活躍されていたそうだが、当時の少数精鋭で全体を見ながら物事を動かす仕事の仕方が現在も生きているという。

というのは、建築設計室21では、お施主さまが工事に関する諸々の会社や職人たちそれぞれと直接やりとりする「分離発注」というシステムを利用することができる。中間マージンが発生せずコスト面で双方納得できるうえ、選択肢が増えるなど利点は多い。その分手間がかかるが、お施主さまと業務委託契約を結んだ建築士がマネージメントを担うので安心だ。この契約料は、それぞれの工事にかかる手数料などの総計と比べると段違いに安い。

この家づくりも、分離発注で行い「全体的な価格も抑えられ、あらためてこれなら若い世代でもより低いハードルで家づくりができると思いました」と話す。転職し「分離発注」システムにおける働き方が自分に合っているという岡さん。家づくりを始める人の心強い味方になってくれそうだ。



  • 1階キッチン、ダイニング、和室。目の前に広がる田んぼと、桜並木、後立山連峰の絶景を満喫すべく、南面は大きく開口した。和室とダイニングでL字にテラスを囲み、視線と西日除けとしている。ダイニングには大きなテーブルを置き、家族団らんに役立てている

    1階キッチン、ダイニング、和室。目の前に広がる田んぼと、桜並木、後立山連峰の絶景を満喫すべく、南面は大きく開口した。和室とダイニングでL字にテラスを囲み、視線と西日除けとしている。ダイニングには大きなテーブルを置き、家族団らんに役立てている

  • 1階リビング、和室。天井が高い場所があるからこそ、天井が低く落ち着きのある場所のよさも引き立つ。リビングと和室はフラットに繋がり、戸を開けるとリビングが意識的に拡張する。和室は2方向に開口し、リビングのソファからも遮るものなく風景が楽しめるように計画した

    1階リビング、和室。天井が高い場所があるからこそ、天井が低く落ち着きのある場所のよさも引き立つ。リビングと和室はフラットに繋がり、戸を開けるとリビングが意識的に拡張する。和室は2方向に開口し、リビングのソファからも遮るものなく風景が楽しめるように計画した

  • 外観。暴風雪がある地域のため、メンテナンスのことを考えるとガルバリウム鋼板などの強い材料を使用したほうがいいという。しかし、人の目の高さの部分は柔らかい印象で仕上げたいと考え、自然素材ながら高耐久性をもつ「そとん壁」を採用した

    外観。暴風雪がある地域のため、メンテナンスのことを考えるとガルバリウム鋼板などの強い材料を使用したほうがいいという。しかし、人の目の高さの部分は柔らかい印象で仕上げたいと考え、自然素材ながら高耐久性をもつ「そとん壁」を採用した

  • 2階、南面フリースペース。左側の壁面で窓からの強い光を反射させ、1階には柔らかく光が落ちるように計画

    2階、南面フリースペース。左側の壁面で窓からの強い光を反射させ、1階には柔らかく光が落ちるように計画

撮影:シマセ写真館 島瀬航

基本データ

作品名
横山の家
施主
O邸
所在地
富山県下新川郡
家族構成
夫婦+子供3人
間取り
4LDK 吹き抜けフリースペース
敷地面積
359.84㎡
延床面積
149.74㎡
予 算
3000万円台