工業製品の多くは完成時がベストな状態で時が経つにつれ劣化してゆく。住宅もそんな宿命をもつものの1つ。しかし、時を経てもなお価値が衰えず、むしろ年月による変化が味となり、長く住み続けられる家がある。そんな家をつくったのは、建築家の大庭徹さん。住まう人や植えられた緑と共に成長していく家に迫る。
この建築家にまるで山並みのように連なる段状の屋根。それぞれの部屋に必要な高さや眺望を考慮して設計されたとのこと。建物の間には緑が植えられた「5つの庭」がある。
T様ご夫妻お気に入りのテーブルにテイストを合わせたダイニングキッチン。料理や食事をしながら、中庭の景色が存分に楽しめる。
夜になると灯りに照らされた樹々が映え、いっそう落ち着いた雰囲気に。
光の陰影が美しい和室。天井は、丸みをつけ葭束をあしらった。朱色のアクセントが映える京唐紙のふすま紙には、光の具合で銀色に輝く山桐の紋様が。
2階の個室の前は、家族が並んで勉強や仕事、趣味などを行えるDENを設けている。中庭の景色や六甲山も眺められる第2のリビング。子供室の扉を開け放つと1つの大空間となるのだとか。
大きな庇の下にある広々とした2階テラスからは六甲の山並みや港が見える。景色をより美しく望めるよう、軒先のかたちを水平にしたり、手すりも目立ちにくい細いものとする配慮も。左端には5つ目の庭である屋上庭も設けている。
寝室の天井に丸みを持たせることで、光の織りなす陰影が柔らかく感じられる。朝、目が覚めると視線の先に六甲の山並みが見えるであろう横長の窓。
水回りはキッチン近くにまとめることで、快適な家事動線を実現。バスルームと脱衣室は、檜仕上げ。ガラス戸とすることで空間を広く感じさせている。お風呂に入りながら奥庭の植栽の景色を楽しめる。
お手洗いの窓は、採光性とプライバシーを両立できるよう格子戸が。収納の引き戸の取手は長く使っても手垢で汚らしくならないように、端に寄せて濃い色の木(チーク)とするなど、細やかな工夫も
撮影:笹の倉舎 笹倉洋平