完成後の暮らしが楽しみになる。
ミニマルな設計で叶えたゆとりある家

ビルをリノベしたようなラフな雰囲気の家を希望されていたお施主さま。予算の都合もありRC造ではなく木造で家を建てることになった。建築家の藤本さんはお施主さまのライフスタイルや趣味に合わせてメリハリを効かせたコストダウンを提案。趣味のDIYも存分に楽しめる、明るく気持ちのよい空間ができた。

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構成をシンプルに、十分なスペースを確保。
趣味を満喫できる住まい

兵庫県神戸市、芦屋にも近いエリアにある木造2階建ての家。間取りはシンプル、内装は余計なものがなく、あっさりとしたものだ。

このK邸の設計を手掛けた藤本高志建築設計事務所の藤本高志さんによれば、施主であるKさまの趣味はDIY。ならば、無機質と感じられるくらい簡潔な空間のほうが、これから思う存分DIYを楽しめるだろうと考えたとのこと。

1階にはインナーガレージと寝室、トイレを配置した。道路と接する壁面はシャッターで全開できる。大きく開くことでゆとりを持って駐車できるだけでなく、DIYに必要な大きな資材なども楽々運び込めて便利だ。また、ハザードマップによると床上浸水する可能性があることから、要望を受けて床面は掃除がしやすいコンクリートとした。

要素を詰め込まない、シンプルな構成のためインナーガレージは広々。おかげで車を置いても家族で楽しまれるキャンプ用品や、アクアリウムの水槽を置く場所を十分確保でき、電気自動車の充電スペースや水槽を洗うための水道も設けることができた。

寝室はガレージの奥、沓脱も兼ねた段差を上がった場所に設けた。K邸は住宅地にあり3方を家に囲まれているため道路側からしかほぼ採光は望めないものの、寝るための部屋なのでかえってちょうどよいという。床はガレージ部分と同じくコンクリート。Kさまがお好きな、ビルをリノベしたようなラフさが感じられる空間ができた。

引っ越して早速、2階へ続く階段の下に靴箱を造ったというKさま。家の竣工を新たなスタートとして少しずつ自分たちに合った住まいに整えていく作業は、どんなに楽しいだろう。
  • 外観。計算された手すりの高さでテラスの中が見えず、住宅街の中でもプライバシーを確保できるデザイン

    外観。計算された手すりの高さでテラスの中が見えず、住宅街の中でもプライバシーを確保できるデザイン

  • 2階LDK。キッチンの脇の通路は水回りに続く。キッチンの上部にはロフトを配置した。1階の雰囲気と合わせ、床にはコンクリートに似た柄のタイルを採用。収納はKさまがDIYするため空間はシンプルなデザインとし、床暖房など暮らしの快適性を高めるための設備を優先した

    2階LDK。キッチンの脇の通路は水回りに続く。キッチンの上部にはロフトを配置した。1階の雰囲気と合わせ、床にはコンクリートに似た柄のタイルを採用。収納はKさまがDIYするため空間はシンプルなデザインとし、床暖房など暮らしの快適性を高めるための設備を優先した

吹き抜けのLDKに、ロフトとテラスも。
住宅密集地でも、明るく開放的な居住空間

2階に上がると、生活の場の中心としてLDKと水回りがある。こちらも1階と同様にお施主さまがDIYできそうなものは省いた。これから徐々に建具や収納家具、ソファーベッドを置いてくつろぐスペースなどをつくる予定なのだそうだ。藤本さんは床暖房など後付けしにくいものや、高度な技術が必要になりそうな部分を判断。それらをあらかじめ取り入れ、住環境をよりよく整えた。

2階からはロフトと、そこから続くテラスに上がることができる。ロフトと、そのさらに上にあるテラスまでの高さを利用してリビングは吹き抜けに。天井はロフトの奥からテラスに向かって上がっており、リビングの上は約4mも天井高があるため面積はコンパクトでも狭さを感じない。むしろ天井に接するテラスの窓から空へ視線が抜けるので、開放的な気分が味わえるほどだ。さらに、窓からは豊かに光が室内に降り注ぎ、LDK全体を明るくしている。

水回りとキッチンの上部を利用したロフトは、広さ十分。さらに、リビング側は人が立てるくらいの余裕もある。収納としてだけでなく、お子さまが遊んだり、読書をしたりと有効活用できるよう、先端部分にはベニヤで壁面を設けて机や棚を設置しやすいようにした。

ロフトからキャットウォークを進むと「バーベキューがしたい」というKさまのご要望に応えて計画したテラスがある。見晴らしも良く、K邸のある住宅街を越えて駅のほうまで視界が開けて気持ちがいい。「道路を挟んだ向かいの家までの距離が近いため、視線を遮れるよう手すりの高さなどを計算しました」と藤本さん。光や風を存分に感じられるテラスでありながら、外からの視線が気にならないだけでなく、道路から見上げるとテラスそのものの気配がほぼ隠れてしまう。

外からは、まさか道路に向かってこんなに大きく開口しているとは想像できないつくりは、いつも意識していることと藤本さんは語る。「外部からはプライバシーを確保しながら、室内にはきちんと光が入ってきて明るい家を、と考えてプランニングしています」と話す通り、住宅街の中の限られたスペースであっても、K邸でなら贅沢に、豊かに、のびのびと暮らせそうだ。
  • 2階、キッチンからリビングを見る。階段や窓枠、巾木など木材を使用した箇所の塗装は木目が見える程度にした。素材感を大切に計画した内装は白い壁面と合わせてどことなく北欧っぽさも感じられる。壁面に設けるスイッチや照明は必要最低限に抑えられ、すっきりとした空間になった

    2階、キッチンからリビングを見る。階段や窓枠、巾木など木材を使用した箇所の塗装は木目が見える程度にした。素材感を大切に計画した内装は白い壁面と合わせてどことなく北欧っぽさも感じられる。壁面に設けるスイッチや照明は必要最低限に抑えられ、すっきりとした空間になった

  • 2階、キッチンは奥様の要望に細やかに応えられるオーダーキッチンを採用。ワークトップは見た目が美しく強度があるクォーツストーンを用いており、インテリアにも自然に馴染む仕上がりとなった。収納棚の取手は、タオルなどをかけたいという要望に応じてバー状のものを取り付けた

    2階、キッチンは奥様の要望に細やかに応えられるオーダーキッチンを採用。ワークトップは見た目が美しく強度があるクォーツストーンを用いており、インテリアにも自然に馴染む仕上がりとなった。収納棚の取手は、タオルなどをかけたいという要望に応じてバー状のものを取り付けた

  • テラスへの入り口から2階を見下ろす。準耐火建築物とするため、木造2階建て+ロフトとテラスという構成のK邸。空間にゆとりがあり、ライフスタイルの変化にも対応できる

    テラスへの入り口から2階を見下ろす。準耐火建築物とするため、木造2階建て+ロフトとテラスという構成のK邸。空間にゆとりがあり、ライフスタイルの変化にも対応できる

  • さまざまな理由から木造2階建てとなったK邸。「屋上でバーベキューがしたい」という要望は、家の一番高い場所にテラスを設けて叶えた。向かいの家との距離が近いため、外部からの視線が気にならないように手すりの高さを計算してプライバシーを確保した

    さまざまな理由から木造2階建てとなったK邸。「屋上でバーベキューがしたい」という要望は、家の一番高い場所にテラスを設けて叶えた。向かいの家との距離が近いため、外部からの視線が気にならないように手すりの高さを計算してプライバシーを確保した

勘所をおさえた予算配分で要望を叶えつつ
効率的にコストダウンできるプランを提案

K邸の家づくりは土地探しから始まった。その際、予算は土地購入費から建築費までのトータルで決まっていたという。防火地域の中にあり、またKさまの「ラフなつくり」という好みもあったことからRC造の耐火建築物にする案もあったが、土地の購入に思いのほか予算を取られてしまった。そこで建築コストを下げるため、木造の準耐火建築物とすることにしたのだそうだ。2階建て+ロフト、テラスの構成は、準耐火建築物の「100㎡以下の2階建て」という条件に合わせたものだ。

コストを下げるための工夫はさまざまだ。まずは空間を仕切る建具の数。2階はLDKと水回りエリアを仕切る1か所だけに建具を設け、洗濯室や洗面脱衣室への仕切りは省くなど可能な限り数を減らした。

また大きく開口したテラスの窓だが、開くのはキャットウォークに接する1枚のみとした。さらに外壁には塗装の必要がないサイディングを採用し、その色に合わせて屋根材やアルミサッシ、ドアなどの色を整えることで、雰囲気を壊さずに全体的なコストを大きく下げた。

もちろん、Kさまの要望は確実に叶えている。生活空間の壁面にはスイッチなどを設けずにすっきりとさせたい、さらにはスマホと接続して家電を遠隔操作できる装置を導入したいとの声を受け、全ての照明器具のスイッチは1階の壁面に集中させた。しかし、来客時や安全を考慮して、藤本さんの判断で階段やトイレにはその場で操作するスイッチも付けたという。

キッチンは完成後に手を入れることが難しいため、きちんと予算をかけオーダーキッチンを取り入れた。食洗器や浄水器など機能的な部分を妥協しなかったのはもちろん、収納棚の取手をバー状にしてタオルを吊るせるようにするなど、細やかなデザインで奥様の要望を叶えた。

予算を抑えることが課題のひとつだったとは思えないほど、豊かな家に感じられるK邸。ラフな雰囲気、かつ家の構成がシンプルながら単調ではない理由は、素材感にある。塗装をするとしても、その素材そのものが味わえるようにするのが好きと藤本さんは言う。コンクリートはクリアな塗装で素材を見せ、木材は木目が見える程度に塗る。「本物の木材を使用していますから、素材がわかるほうが贅沢ですよね」とのこと。素材そのものがときにアクセントとなり、ときに空間を引き立たせる土台にもなる。

Kさまのライフスタイルに合わせて的確に判断し、メリハリを効かせてコストダウンした藤本さん。それは、家族の数だけ形が違う「その家族らしさ」を見極めなければできないことだ。これからもきっと、お施主さま一家がいちばん楽しく暮らせる家を設計してくれることだろう。
  • 1階、インナーガレージ。床面のコンクリートと白く塗装した壁、木材、天井の木毛セメント板と、それぞれの素材感を大切にしたことでお互いを引き立て合っている。ガレージはシャッターで開閉、幅いっぱい開くため利便性が高い。玄関の右には趣味で使う水槽を洗うための水道がある

    1階、インナーガレージ。床面のコンクリートと白く塗装した壁、木材、天井の木毛セメント板と、それぞれの素材感を大切にしたことでお互いを引き立て合っている。ガレージはシャッターで開閉、幅いっぱい開くため利便性が高い。玄関の右には趣味で使う水槽を洗うための水道がある

  • 1階、右側にはトイレ、左側に寝室がある。建具は押して開けるタイプ。取手がなく、連続した壁のよう

    1階、右側にはトイレ、左側に寝室がある。建具は押して開けるタイプ。取手がなく、連続した壁のよう

  • 1階寝室。コストダウンも兼ねて独立したクローゼットを設けずに、寝室にハンガーパイプを渡してその代わりとした。床はコンクリートで、Kさまが好まれる「ラフさ」がある

    1階寝室。コストダウンも兼ねて独立したクローゼットを設けずに、寝室にハンガーパイプを渡してその代わりとした。床はコンクリートで、Kさまが好まれる「ラフさ」がある

  • 2階、洗面脱衣室。鏡の表面にライトを取り付け壁面はすっきりとさせた

    2階、洗面脱衣室。鏡の表面にライトを取り付け壁面はすっきりとさせた

撮影:髙橋菜生(Nao Takahashi)

基本データ

施主
K邸
所在地
兵庫県神戸市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
67.53㎡
延床面積
85.09㎡
予 算
2000万円台