都心部に建つ築40年の家を建て替え
安全・安心に暮らせる「終の棲家」が完成

人生の終焉を見据え、築40年の住いを新たに立て直すことを決めたFさんご夫婦。設計を担当した鈴木雅也建築設計事務所の鈴木雅也さんは、周囲の視線や、音、そして防犯面など数々あった課題をどのようにクリアし、理想の住いを作り上げたのだろうか。詳しくお話を伺った。

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緻密な窓廻りのデザインで生み出された
安全・安心のある静寂な住空間

市ヶ谷の住宅街に建つ、古い木造二階建てに住んでいたFさんご夫婦。「終活も兼ねて家をきれいに立て直し、将来子どもに相続したい」と思い、慣れ親しんだ家の建て替えを決意。設計を依頼したのが、息子さんの友人である鈴木雅也建築設計事務所の鈴木雅也さんだった。

鈴木さんが実際に現地に行ってみると、建物は築40年以上ということで、劣化が進んでいたそう。また、周囲を鉄筋コンクリート造の建物に囲まれており、見下ろされるような近隣の視線、騒音、流れてくる生活臭などが気になる状況だった。さらにFさんの話によると、周辺では空き巣の被害などもあり、防犯面での不安もあったという。

これらを踏まえて、外的環境に左右されず、バリアフリーにも配慮した住まいを目指すという方向性が固まった。

さっそく詳細なプランの検討に入った鈴木さん。最初は土地の中央に中庭を設け、この中庭を建物で囲むプランを考えたが、建物が大きくなりすぎ予算と会わなかったため断念。次に考えたのが、道路側に車1台を置ける駐車スペースを確保し、建物をセットバックするプランだった。

安心面・安全を考えて構造は壁式鉄筋コンクリート造とし、外断熱システムを採用。これにより、周囲の音や匂いなどの外的環境の室内への影響を限りなく少なくすることに。さらに防犯面を考えて、正面にRCの門扉、周囲に擁壁や高めのアルミフェンスを設置。しっかりと建物を囲んだ。

そして、F邸をプランニングするにあたり鈴木さんが最も注力したのが、隣家の視線を遮りつつ、自然光と風をうまく取り入れることだ。

そのために、可能な限り窓の数を押さえたプランニングを検討したという鈴木さん。しかし、窓が少ないと、室内が暗くなるリスクがある。そのため、かなり繊細な計画が必要だったと鈴木さんは振り返る。

「窓を少なくすることで室内環境が悪化することがないよう、ハイサイド窓や天窓、出窓など様々な形式の窓を用い、プライバシーを確保しながらも、多様で豊かな光と風が入るよう工夫しました。この窓のプランニングは、今回の家づくりでとても重要な鍵になったと思います」。
  • ダイニングからリビングと階段室を見たところ。やわらかい日差しが注ぐハイサイド窓は、チェーンを引くことで楽に開閉することができる

    ダイニングからリビングと階段室を見たところ。やわらかい日差しが注ぐハイサイド窓は、チェーンを引くことで楽に開閉することができる

  • 以前の住まいで使っていた照明を活用した玄関土間。土足であがるイメージで床には大谷石を使用、壁と天井には砂漆喰が使われている。奥は駐車場のため、雪見障子で視線を遮りつつ、足元の造園を楽しめるようにした

    以前の住まいで使っていた照明を活用した玄関土間。土足であがるイメージで床には大谷石を使用、壁と天井には砂漆喰が使われている。奥は駐車場のため、雪見障子で視線を遮りつつ、足元の造園を楽しめるようにした

  • 壁と床はタイル貼り。脱衣室とお風呂はガラス戸で隔てることで開放感を演出し、トイレも直接見えないよう工夫した。お風呂は在来工法で造作したもので、洗い場の床・脱衣所の床には温水の床暖房を敷設している

    壁と床はタイル貼り。脱衣室とお風呂はガラス戸で隔てることで開放感を演出し、トイレも直接見えないよう工夫した。お風呂は在来工法で造作したもので、洗い場の床・脱衣所の床には温水の床暖房を敷設している

  • 2階から3階に上がる階段。段板が36ⅿの厚さのオーク材を用いており、木の風合いが美しい

    2階から3階に上がる階段。段板が36ⅿの厚さのオーク材を用いており、木の風合いが美しい

住宅性能が格段にアップ!
夏も冬も快適な住まいが完成

F邸の間取りを詳しく見ていこう。1階の玄関を入ると、すぐ目の前に5畳ほどの広さがある土間が配置されている。この土間は、鈴木さんの提案でつくられたものだそう。鈴木さん曰く「玄関は広い方が使いやすいですし、靴のまま利用できる広いスペースがあると何かと便利なのです」とのこと。ちょっとした来客は、この土間で対応できるのだという。

さらに、主寝室を10畳くらいと広めに取り、お風呂やトイレなどの水回りも配置。将来もし車いす生活になった場合でも1階だけで生活が完結できるようにと配慮された間取りとなっている。リビングは2階だが、ホームエレベーターを設けることで、1階に寝室、2階にリビングというゾーニングが可能となった。
(いただいた追加事項こちらに加えました)

また、洗面脱衣と浴室はコンパクトな空間となっており、2つを仕切ってしまうとどうしても暗くなるため、鈴木さんの提案でこの間の壁をガラス張りにし、圧迫感を減らした。このような細部にわたる配慮は、鈴木さんが得意とするところだ。

Fさんの要望で、1階には全館空調を導入。お風呂や脱衣所なども居室と同様に空調管理されているため、冬でも寒さを感じずに入浴することができる。さらに階段の手前に引き戸が設けられており、ここを閉めれば1階で空調が完結できるようになっているそう。冷暖房効率もしっかり考えられているのは嬉しい限りだ。

階段を上がった2階には、居間食堂と台所、アイロンがけなどちょっとした作業ができる家事室を配置。また、その奥には室内で洗濯物を干すことができる物干しスペースがある。
ちなみに台所・洗濯機置き場・家事室・物干し場は回遊できるようになっており、家事導線への配慮も万全である。

そんな2階にも、鈴木さんの細やかな工夫が凝らされている。
「食堂と居間は全体的につながっているのですが、居場所の溜まりができるようにあえて袖壁を設け、2つの空間をゆるくつなげています。また、部屋のコーナー部分にハイサイド窓を設け、南側の光がやわらかく入るよう考えました。砂漆喰の壁を撫でるように入った陰影のある光は、時間の移ろいをより感じさせてくれます」。

そして、3階はFさんご夫婦の趣味室を配し、将来的に子供部屋として間仕切りできる仕様とした。北側は北側斜線にかかるため、これを前向きに捉え、バルコニーとして活用されている。

生まれ変わった我が家で、新しい暮らしを始めたFさんご夫婦。当初は最終的にどんな家になるか想像ができなかったものの、以前とはうって変わってひと目を気にせず静かに暮らせる住まいに、とても満足していらっしゃるそう。
「断熱性能や音の問題はすっかり解決し、とても快適だと仰ってました。あとは1階の全館空調で夏も冬も快適だと言っていただき、喜んでいただいているようです」。とほほ笑む鈴木さん。続けて、自身が目指す住まいづくりについて話してくれた。

「時代が変わっても多くの人が共感できるようなデザイン、そして、光や風など、五感で感じられるものを大切にしているのですが、この市ヶ谷の家でもそれをしっかり形にできたと思います。都市住宅の場合、周囲に拠り所がないことが多いですが、それだけに、窓をどう設計し、外の光をうまく取り入れるかが大切だと考えています。またそれは、住宅設計の本質であるとも考えていますので、今後も窓の設計を丁寧に探求していきたいと思います」。

難しい外部要因という課題をうまくクリアし、Fさんの希望通りの住いをつくりあげた鈴木さん。F邸はこれからも、世代を超えて愛され続けてゆくことだろう。
  • ダイニングとリビングを見たところ。キッチンから食堂に直接配膳ができるよう工夫した。エアコンはすべてビルトイン型とし、木製ガラリをはめている。

    ダイニングとリビングを見たところ。キッチンから食堂に直接配膳ができるよう工夫した。エアコンはすべてビルトイン型とし、木製ガラリをはめている。

  • バックカウンターにはキッチンと同じナラ材でつくった食器棚を設置。収納スペースを確保した

    バックカウンターにはキッチンと同じナラ材でつくった食器棚を設置。収納スペースを確保した

  • ダイニングの窓。窓もできるだけ端に寄せる工夫をすることで、壁に光を反射させ砂漆喰の壁の質感を楽しめるよう意識している

    ダイニングの窓。窓もできるだけ端に寄せる工夫をすることで、壁に光を反射させ砂漆喰の壁の質感を楽しめるよう意識している

  • 寝室の反対側には雪見障子を使用しており、ここからも柔らかな光が入るよう工夫。上部には空調の木製ガラリがはめ込まれている

    寝室の反対側には雪見障子を使用しており、ここからも柔らかな光が入るよう工夫。上部には空調の木製ガラリがはめ込まれている

  • ホテルライクな寝室。部屋を真っ暗にしたいという要望により、板戸をはめ、少しだけ外の光が入るように。床には南洋のククという木材が使用されている

    ホテルライクな寝室。部屋を真っ暗にしたいという要望により、板戸をはめ、少しだけ外の光が入るように。床には南洋のククという木材が使用されている

基本データ

作品名
市ヶ谷の家
施主
Fさま邸
所在地
東京都新宿区
家族構成
夫婦
間取り
5LDK+客間+家事室
敷地面積
122.85㎡
延床面積
157.49㎡
予 算
5000万円台