転がり落ちそうな崖地に別荘を建てられるのでしょうか? と相談を受けた建築家の米村さん。豊富な別荘建築と崖地斜面地の設計経験によって、お施主さまの要望を叶え満足度の高い別荘をつくりあげた。夫婦2人が心地よくすごすための、ワクワク感を大切にした空間づくりの極意に迫る。
この建築家に崖下から別荘を見あげる。30度の急傾斜地である。当初、本当にこの地に家が建つのか? と不安だったKさま夫妻だったが、米村さんの設計力と信念で実現した。今はこの斜面地に家庭菜園ができている。外壁と軒、家を支える鉄骨の柱、梁、デッキの構成材の配色が目を引く
道路側から見た外観。画像右手前に中古の枕木を使用した階段がある。枕木の雰囲気に合わせて階段や玄関へのアプローチ空間をデザインしたと米村さん。郵便受け、サイン(表札)など、小物の選び方にもこだわりが光る。階段を下ると、家庭菜園へ行くことができる
玄関。趣味の自転車を手入れするメンテナンススペースにしたいとの要望から広く土間をとった。別荘を使いこなすコツの1つは、車からの荷物の出し入れにあるといわれる。寒い日、雨の日、暑い日、夜間の到着でもスピーディーに車から荷物を運び入れないといけない。棚はゆとりを確保し多目的な使用に耐えられるようにしている。湿気対策で戸は設けていない。正面は玄関扉、左は掃除用品の収納スペースの扉。下部を開放して、ロボット掃除機が出入りできるようにした
リビングエリアにはご夫妻が「別荘を持ったときにはこれを!」と決めていたという、デンマークのライス社製薪ストーブ(Q-BE)を設置。この薪ストーブの演出する炎の美しさは感動的であり、この炎をみるだけでも別荘に行く価値がある
LDKから視界が開ける南側を見る。正面、敷地内に育つシンボルツリーは、四季を通じていろんな表情をみせ木漏れ日を演出してくれる。その背後に相模湾、初島、大島、真鶴半島を眺めることができる。ウッドデッキは、室内と室外を繋ぐ第2リビンングである
左手前が床より30センチほどの高さの畳スペース。仕切りや壁は一切設けずに、オープンである。家族や来客の宿泊に対応するようになっている。空間を仕切る棚の裏側には、キッチン側の棚が背中合わせに配置されている
室内と外部をつなぐウッドデッキは第2のリビングとして活用。そこに設ける室内と外部をつなぐ境界の手摺りは、安全性とともに一体感を得るための透過性も確保し、2匹の犬たちの飛び出しを防ぐ必要があった
景色のよい傾斜地のメリットのひとつに、覗かれることがほぼないことが挙げられる。普段はあまりスポットが当たらないトイレや浴室にも出番がやってくることも! 大きな窓を
確保したり、長いカウンターテーブルを設けたり、お気に入りのタイルを夫婦で探しまわり現場で貼ったりと空間づくりを楽しんだ
キッチンでの作業、会話も重要である。家庭菜園でできた野菜の話をしながら食事をすれば話が盛り上がらないはずがない。できるだけ型にはまることなく、自由に創造的に使いこなしていくことを意図しステンレス製の業務用キッチンを採用している。中央に配膳カウンターテーブルを設置する予定もある