鎌倉の深緑に馴染むモダンな平屋。
レイヤーで外とつながる、光あふれる住空間

鎌倉の豊かな自然に馴染みつつ、モダンで都会的な佇まいが目を引くこの家を設計したのはdesus(デサス)建築設計事務所。邸内は光や風が心地よく通り、大切なペットへの配慮も盛りだくさん。鎌倉に住むならこんな家を建てたいと思える住宅だ。

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鎌倉の風景に溶け込む
モダンで洗練された建築美

desus(デサス)建築設計事務所(以下desus)の稲垣裕行さんと花形将壽さんが設計した住宅『Layered house』は、鎌倉市内の緑豊かなエリアに立つ。施主のOさまはdesusの設計で鎌倉に自邸を建てたご友人宅を訪れ、「こんな家に住みたい」と2人に設計をご依頼くださったという。

鎌倉は明治時代に政財界人の別荘地として脚光を浴び、以降、山海の自然や歴史の香りに惹かれて多くの文化人が移り住んできた街だ。

実際、有名寺院の裏手に位置する『Layered house』の近隣には、著名な作家の元邸宅や財界人の邸宅が。深緑に覆われ、瀟洒な雰囲気が漂うこの地を気に入ってのことだろう。

『Layered house』は、そうした明媚な場所にふさわしいモダンで上品な住宅だ。敷地は細い1本道の突き当たりにあり、背後には小高い山林。重厚な天然石の土留めの上に立つ建物はゆったりとした横長の平屋で、深い軒は先端がすうっと薄く、洗練された優雅な印象をもたらす。

シックなグレーの外壁とレッドシダーの軒天のコントラストも美しく、背後の山林の緑に溶け込む姿は、山間の高級リゾートホテルのよう。鎌倉を中心に多くの住宅設計を手がけ、街の景観に馴染む高いデザイン性で人気を博すdesusの魅力が存分に伝わってくるファサードだ。

静かな佇まいながら人目を引くこの家には、いったいどんな空間が広がるのか。『Layered house』という名前の由来と併せて詳しくご紹介していこう。
  • 道路に面した南の外観。『Layered house』は軒の深いゆったりとした平屋で、道路側には広いドッグランもある。シックなグレーの外壁、レッドシダーの軒天など、モダンな印象の外装が周囲の木々と緑に調和し、「この場所にこの家がある価値」を感じさせる

    道路に面した南の外観。『Layered house』は軒の深いゆったりとした平屋で、道路側には広いドッグランもある。シックなグレーの外壁、レッドシダーの軒天など、モダンな印象の外装が周囲の木々と緑に調和し、「この場所にこの家がある価値」を感じさせる

  • 東から見る『Layered house』。背後に小高い山林があるため、災害対策の条例に沿って山林際に擁壁を設ける必要があった。擁壁を全てコンクリートにすると重さが出てシャープな外観を損ねてしまうが、黒いロックフェンスを組み合わせることで洗練された印象に

    東から見る『Layered house』。背後に小高い山林があるため、災害対策の条例に沿って山林際に擁壁を設ける必要があった。擁壁を全てコンクリートにすると重さが出てシャープな外観を損ねてしまうが、黒いロックフェンスを組み合わせることで洗練された印象に

  • 敷地は道路より一段高い。盛り上がった土地を整えている石は、小田原・早川の天然石。この石はdesusとお付き合いのある植栽の職人さんの紹介で入手したもの。これまでに培ったネットワークを駆使し、コスト圧縮と、重厚感のある佇まいの両立を実現

    敷地は道路より一段高い。盛り上がった土地を整えている石は、小田原・早川の天然石。この石はdesusとお付き合いのある植栽の職人さんの紹介で入手したもの。これまでに培ったネットワークを駆使し、コスト圧縮と、重厚感のある佇まいの両立を実現

邸内のあちこちに「外」がある。
ホテルライクな空間で光と風を感じる暮らし

『Layered house』の邸内に足を踏み入れたら、予想に反した展開にきっと誰もが驚くに違いない。

その秘密はエントランスのトップライト。頭上に空が見えて燦々と陽光が降りそそぎ、邸内に入ったはずなのに「外」のような空間が広がるのだ。

思いがけない開放感に意表を突かれるエントランスと、その先に続くLDKとの仕切りは縦格子。適度に視線が通って邸内ののびやかな広がりを予感させ、期待が高まる。

そしてLDKに入ると、天井の高いモダンな空間の庭側に四角くくり抜いたようなスペースが。屋外の心地よい光や風をたっぷり取り込むテラスである。

邸内にテラスが入り込んだような造りだけでも外とのつながりが強調されるが、レッドシダーの天井は同じ素材・同じ高さでLDKからテラスまで伸び、内と外の一体感がますますアップ。エントランス同様にLDKにも「外」が存在し、またしても心が弾む。

庭とは逆の山林側に視線を移すと、LDK内の畳コーナーの横にも小さくくり抜いたようなスペースがある。ここも坪庭として邸内に緑のうるおいを与える「外」の1つだ。

この、エントランス(外)~LDK(内)~テラス(外)、あるいはテラス(外)~LDK(内)~坪庭(外)と、建物の内部で内と外が層のように重なる空間構成こそが『Layered house』という名前の由来。

稲垣さんと花形さんはこれまでも一貫して「設計で大切にしているのは外とつながり」と語っていたが、この家も然り。どこにいても、どう移動しても屋外の光、風、緑を感じられ、とても気持ちがいい。

塗装の白壁、グレーのタイル床で仕上げられた内装も上質感にあふれ、リビングの脇には薪ストーブも。「ここは高原リゾートですよ」と言われたら信じてしまいそうなくらい、ホテルライクで贅沢な居心地のよさを味わえる住宅となっている。
  • トップライトのある明るいエントランス。邸内に入るといきなり空が見え、屋外のような開放感に驚く

    トップライトのある明るいエントランス。邸内に入るといきなり空が見え、屋外のような開放感に驚く

  • LDK。室内にテラス(写真右)がぐっと入り込み、屋外の爽快感を間近に感じられる。大切なペットへの配慮も厚く、床はノンスリップの磁器タイル、壁は消臭効果を期待できる漆喰塗装。畳コーナー(写真左)の下のガラリの中にはペットに快適な熱環境をつくる床下エアコンがある

    LDK。室内にテラス(写真右)がぐっと入り込み、屋外の爽快感を間近に感じられる。大切なペットへの配慮も厚く、床はノンスリップの磁器タイル、壁は消臭効果を期待できる漆喰塗装。畳コーナー(写真左)の下のガラリの中にはペットに快適な熱環境をつくる床下エアコンがある

  • LDKのダイニング。造作したダイニングテーブルの天板はブラックウォールナット。desusはこうした造作家具の素材選びにも同行してくれる。エントランスとの仕切りは縦格子(写真奥)で、家事中も帰宅した家族の気配がわかりやすい。写真左奥には山林側に設けた坪庭が見える

    LDKのダイニング。造作したダイニングテーブルの天板はブラックウォールナット。desusはこうした造作家具の素材選びにも同行してくれる。エントランスとの仕切りは縦格子(写真奥)で、家事中も帰宅した家族の気配がわかりやすい。写真左奥には山林側に設けた坪庭が見える

厚い配慮でペットも幸せ。
鎌倉の家づくりの心強いパートナー

ご夫妻とお子さまの3人家族であるOさまには、犬、猫、ウサギたちというかわいらしい家族もいる。そのため『Layered house』は、ペットの住み心地も十分に考えてつくられている。

例えば、床は滑りにくい磁器タイル、壁は消臭効果を期待できる漆喰塗装。本物志向の内装はデザインや質感で選んだのかと思いきや、「ペットのため」が主目的だった。

メインで使う暖房も、床下エアコンの暖気をアクアレイヤーで蓄熱する方式で「寒くない」程度とし、ペットにとって快適な熱環境を確保。庭には元気に走り回れるドッグランもある。

desusの設計はデザイン性の高さに目が行きがちだが、こんな風に施主の要望に寄り添う配慮も細やかだ。内装を決めるときは、大きな模型に候補の素材を模したものを貼って見せてくれるなど、つくるプロセスも丁寧で施主ファーストに徹している。

『Layered house』では、desusの頼もしさがわかる別のエピソードもある。

この敷地は背後の山林によって災害対策の条例があったほか、市街化調整区域、歴史的風土特別保存地区など、建築に対する厳しい規制がかかっていた。

難度の高い条件だったが、desusの2人は行政と何度も打ち合わせしてクリア。平屋にしたのは規制を踏まえてのことだが、持ち前のセンスと高度なスキルで、制約を感じさせない洗練されたデザインに仕上げている。

この家ほど規制が厳しくないにせよ、歴史的建造物が多く、自然も多い鎌倉は、住宅建築のハードルとなる制約も多い。

それでも素敵な家を建てたいと思ったら、鎌倉にアトリエを構え、鎌倉の家づくりの知見が豊富なdesusは願ってもない存在だろう。

2人がつくる住宅は、快適性もデザイン性もパーフェクトといっていい。その上、景観をランクアップし、住まう人だけでなく街に対しても価値ある贈り物になっている。

歴史、文化、自然が調和する風景を誇り、人々を魅了し続ける鎌倉の街。鎌倉の美しさを支えているのは、実は、稲垣さんと花形さんのような建築家なのかもしれない──。『Layered house』を眺めていると、そんな風に思うのだ。
  • LDK。平屋の建物は庭と道路に対して横長の長方形。その中央がくり抜いたように凹んでいて、テラスになっている(写真右)。LDK内に「外」が入り込む開放感は特筆もの。テラスはガラス戸で仕切られ、リビングからはテラス越しにキッチン(写真中央奥)の様子も見える

    LDK。平屋の建物は庭と道路に対して横長の長方形。その中央がくり抜いたように凹んでいて、テラスになっている(写真右)。LDK内に「外」が入り込む開放感は特筆もの。テラスはガラス戸で仕切られ、リビングからはテラス越しにキッチン(写真中央奥)の様子も見える

  • テラスの屋根には大きなトップライトがあり、明るい陽光が邸内にも届く。トップライトの枠はしっかりした屋根の厚みを感じさせないよう丁寧にデザイン。下から見ると屋根が薄く見え、すっきりと洗練された印象

    テラスの屋根には大きなトップライトがあり、明るい陽光が邸内にも届く。トップライトの枠はしっかりした屋根の厚みを感じさせないよう丁寧にデザイン。下から見ると屋根が薄く見え、すっきりと洗練された印象

  • テラス夕景。日中は明るい光を届けるトップライトから満天の星が見え、プラネタリウムのよう

    テラス夕景。日中は明るい光を届けるトップライトから満天の星が見え、プラネタリウムのよう

撮影:ヤマベスタジオ 山邊章史

間取り図

  • 平面図

  • 断面図

基本データ

作品名
Layered house
施主
O邸
所在地
神奈川県
家族構成
夫婦+子ども1人+犬+猫+うさぎ
敷地面積
794.19㎡
延床面積
124.35㎡