性能、デザイン、住みよさ、価格をバランス良く
めざすは日本車のような家づくり

誰しもが住みたいと思える「良い家」とはどんなものだろう?素敵なデザイン、広さや部屋数、高気密・高断熱、収納たっぷりなど、要素はさまざま。そして価格も大きな条件。
施主に寄り添い、様々な要素をバランス良く兼ね備えた、まるで日本車のような家をつくるのは、AndM建築工房の溝上さんでした。

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あえて南からの採光をあきらめ中庭を
便利な動線を実現

福岡市南区の住宅街に真新しい家々が建ち並ぶ一画がある。建売住宅のように、全く同じ外観が並んでいるわけではないのに、モダンさと上質さを感じられるという点で、統一感がある。それもそのはず、これらの住宅は全てAndM建築工房の溝上さんが手掛けたもの。
「壁の色味や質感、屋根のかけ方など、それぞれの家でちょっとずつ変えています。それでも、区画全体が1つの街のように統一感のある雰囲気にしたかったのです」と溝上さん。

実は、この区画は地元の不動産会社が手掛ける、建築条件付きの土地。溝上さんは、その不動産会社から、建物のデザイン・設計はもとより、内外装・部材の標準仕様の策定、施工業者の選定までも任されていた。

本来であれば、それぞれの住宅の外観や外装材などは統一していたほうが、コストは低くなる。しかし溝上さんは「同じ外観が並んでいては、他社と差別化できません。それにお客様にとっても、外観もお隣とちょっとずつ変えられるほうが喜んでもらえます」と不動産会社を説得し、それを受け入れてもらったのだという。しかし、それでは販売価格も上がってしまったり、質の劣る部材を使うということにもなりかねないが、それは心配ご無用。溝上さんがこれまでに培ってきた経験と人的ネットワークにより、上質でありながらもリーズナブルに、部材調達が可能だったのだ。

施主のNさんご夫妻も、区画内に建つモデルハウスを訪れ、その質感の高さと価格に魅力を感じ、購入を決断されたお客様の1人。

Nさんの要望は、大きく動線問題と、キッチンからリビング全体が見渡せるという2点。
動線に関しては、玄関・パントリー・キッチンと、玄関・デッキスペース・洗面室というもの。洗面室付近には、ファミリークロークもほしいとのことだった。

この要望にとってカギとなるのは、1階LDKのゾーニング。様々な要素を実現するにあたって、溝上さんは「南面からの採光」というセオリーをあえて捨て、東面に中庭を設置。建物でコの字に囲み、そこから柔らかな光を取り入れることにした。実はN邸の東側は隣家の駐車スペースで、建物が目の前に迫っておらず東・南東から十分な採光が望めたのだ。

南面に大きな窓を設けないことは、道路からの視線を遮りプライバシーを確保するということにも役立つ。さらに、道路から出入りしやすい形で、2台分の駐車スペースをも確保できた。

光は南からとるという固定概念にとらわれず、施主の要望、土地の状況に合わせて、柔軟な発想をする溝上さんの手腕には驚かされるばかりだ。
では、室内を見てみよう。玄関を入ると要望だった「動線」が見事に叶えられていることに気づく。入ってすぐ左には、パントリー兼用のSICがあり、その先がキッチンへと続く。買い物をして帰ってきたときには、このルートからパントリーへの保管、キッチンの冷蔵庫へ収蔵などが一連して行える。ほかにも、玄関から廊下を通りリビングへと向かうメインの動線。そして、玄関から中庭のデッキ、その先の洗面・バスルームへと向かう動線がある。さらにデッキには、外周からも行き来ができる。子供が外で遊んで汚れて帰ってきても、玄関を通らず、デッキからお風呂場へ行くことができるし、夏になればデッキに設置したプールで遊んだ後に、すぐにシャワーを浴びるというようなこともできるだろう。
  • 周辺の住宅は全て溝上さんが手掛けたもの。街としての統一感とそれぞれの邸の個性を両立させるため、壁の色や屋根のかけ方などで違いをもたせた

    周辺の住宅は全て溝上さんが手掛けたもの。街としての統一感とそれぞれの邸の個性を両立させるため、壁の色や屋根のかけ方などで違いをもたせた

  • 玄関を入ると、中庭まで続く三和土が伸びる。右サイドには大容量のシューズボックスを確保

    玄関を入ると、中庭まで続く三和土が伸びる。右サイドには大容量のシューズボックスを確保

  • 玄関を入って左には、パントリーともなるクローゼットスペース。玄関、リビング、キッチンが回遊できるつくりに

    玄関を入って左には、パントリーともなるクローゼットスペース。玄関、リビング、キッチンが回遊できるつくりに

  • 1階はキッチン、リビング、和室が一直線に並ぶ大空間。キッチンで作業をしながら、子供が遊ぶ様子も目に入るゾーニング

    1階はキッチン、リビング、和室が一直線に並ぶ大空間。キッチンで作業をしながら、子供が遊ぶ様子も目に入るゾーニング

  • 客間としても使用される和室の畳は、ご主人お気に入りのブルーカラーで落ち着きある空間に。リビングの脇に子供が遊んだり、ごろりと横になれる和室は、何かと重宝する存在

    客間としても使用される和室の畳は、ご主人お気に入りのブルーカラーで落ち着きある空間に。リビングの脇に子供が遊んだり、ごろりと横になれる和室は、何かと重宝する存在

チーム溝上が施工まで請負うことで
さらなる高コスパ住宅が実現

中庭というプランで溝上さんが叶えたものは、便利な動線に留まらない。室内の明るさもしっかりと確保されている。中庭に面した動線はすべて窓や勝手口ドアとすることで室内に光を柔らかく取り込む。リビングの階段は光を邪魔しないようスケルトンにして2階からの光も下へと導いている。キッチン、リビング、和室と一直線に続く大空間は、南からの光がないとは思えないほどに、明るく開放的な空間。溝上さんは「キッチンからリビングが見渡せる」という要望以上に、1階のどこにいても家族の息遣いが感じられる快適な空間に仕上げてみせた。

実はNさんご夫妻は、家づくりの最初の段階では、「あまり要望はない」「建売でもよい」を思っていたそう。しかし溝上さんと話していくうちに、ポロッと要望が出てくるようになり、話を進めていくうちにまた1つ、2つと要望が出てきたのだという。

これが溝上さんの真骨頂。溝上さんは施主との対話の中から施主が真に望んでいることを引き出すことが上手な建築家だ。また、施主に迷いがあるときは、自邸を建てた経験や実際に暮らしの様子を伝えるなど、施主に寄り添うのだという。

こうしてできたN邸での暮らしにNさんご夫妻も「この家が私達家族にとって癒しの平安の場となっています。レイアウト、デザイン等細部まで一緒にシミュレーションして頂きました。上質で快適な住まいをご提供頂きありがとうございました」とコメントを寄せてくれた。

溝上さんは、自らの家づくりを「日本車のような家」と例える。
「自分は個性際立つデザインで選ばれるような建築家ではないと思っています。でも、使い勝手がよくて、価格も手頃で、見た目だって悪くない、そんな日本車のようなコストパフォーマンスのよい家をつくっていきたいんです」と溝上さんは語る。

そのために溝上さんが今取り組んでいることが「チーム溝上で、施工まで請負う」ことだという。

溝上さんはこれまでのキャリアを建築家だけでなく、不動産会社、工務店など建築に関わる様々な業種・職種で経験してきた。そこで培った知識や人脈は、設計のみに携わってきた建築家よりも何倍も豊富だと言っても過言ではない。

そうしたリソースを活用し、大工さんや外装、内装業者といった施工に関わる様々な人々を溝上さんが束ね、工務店に代わり工事まで請け負うという家づくり。

「それぞれの業者さんは、私が実際に仕事を通じてお任せできると感じた技量の方々に厳選しているので、クオリティーの心配もありません」と溝上さん。

「お客さんと対話するのが楽しい」「お客さんが喜んでくれる顔がみたい」と語る溝上さん。
じっくりとお客さんに寄り添いその要望を引き出す姿勢。要望をしっかりと実現するアイデア力。コストパフォーマンスを実現する経験と人脈。溝上さんはその3つの力をもつ稀有な建築家だ。

溝上さんは、これからも日本車が世界中から支持されるように、日本中の人々から愛される家をつくり続けてくれるに違いない。
  • 三方を囲まれた中庭のデッキスペースは、BBQや子供の遊び場として大活躍。東向きであるものの、室内に柔らかな光を導いてくれる。

    三方を囲まれた中庭のデッキスペースは、BBQや子供の遊び場として大活躍。東向きであるものの、室内に柔らかな光を導いてくれる。

  • 中庭には、隣地からの目隠のための縦格子を設置。視線を遮りつつ、光や風はしっかりと通す

    中庭には、隣地からの目隠のための縦格子を設置。視線を遮りつつ、光や風はしっかりと通す

  • 階段は、中庭と上階からの光を存分に受けられるよう、スケルトンに。一本桁のフォルムが美しい

    階段は、中庭と上階からの光を存分に受けられるよう、スケルトンに。一本桁のフォルムが美しい

  • 2階のバルコニー前には、物干しコーナーを設け、雨の日でも洗濯物の室内干しに対応可能

    2階のバルコニー前には、物干しコーナーを設け、雨の日でも洗濯物の室内干しに対応可能

撮影:OKBee Factory/岡部 将人

基本データ

作品名
中庭をコの字に囲む家
施主
N邸
所在地
福岡県福岡市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
153.14㎡
延床面積
113.43㎡
予 算
2000万円台