メリット多彩な大屋根が「家族を守る」
バルコニーや庭からは名物の花火も鑑賞

お施主様との会話や、敷地の特性からヒントを得て設計を行っている建築家・高瀬さん。今回は、厳しい気候条件に備える「大屋根」をかけた新築事例を紹介。敷地配置から外観デザイン、間取りのすべてを、お施主様ご家族のライフスタイルに合わせて、多彩な工夫を凝らしたプランの一邸だ

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「普通だけど普通じゃない」
個性あるデザインを大屋根で実現

道路から1m程高い位置に建つH様邸は、一見、平屋にも見える大屋根の家。「もともと1m程高くなっていた宅地でしたが、駐車場もスロープをつくって高い位置にとり直しました。」また、デザイン面についても、「奇をてらうようなあまりに個性の強いデザインではなく、普通だけど普通ではない感じにしようと話し合いました」と建築家の高瀬さん。もともとH様はアートに造詣があり、家づくりにあたっても、何かしらのデザインの工夫を期待しての依頼だった。

そこで高瀬さんが提案したのが、大屋根の家だ。H様邸の土地は東西に長かったため、まず、敷地を西から駐車場スペース・住まい・庭の3つのゾーンに分けた。駐車場スペースは、敷地内でUターンができるようにスロープの場所や広さを考え、住まいはT形のボックスタイプに。東に配する庭は、道路からの視線を遮ることで家族のプライベートゾーンとなるように配慮した。夏になると、この庭から名物の花火を観られるのも楽しみのひとつだ。

そんな庭には、勝手口の外に設けた物干し場、リビングとつながるテラスも設けており、物干し場は2階部分をオーバーハングにすることで雨除けにもなっている。テラスが庭に対して斜めに切られているのも特徴で、「あまり意図しているわけではないですが、設計上、見た目の美しさを考えた時に斜めラインを使うことがあります」と高瀬さん。

住まいとなるT形の建物には、ガルバリウム素材の「大屋根」をかけることに。この地方は雨の降り方が激しく、日差しもきついという気候条件のため、日陰をつくり、外壁の傷みも軽減してくれる大屋根は特にメリットが大きいという。大屋根をかけることで庇が長くなり、軒下には余剰空間も生まれる。H様邸では、玄関前に大屋根に守られた前室的なスペースができ、H様は「軒下になる玄関部分の雰囲気が気に入っています」という。また、この大屋根には、子育て世帯の「家族を守る」という意味も込めているという高瀬さん。T形の建物で屋根の形状が多少特殊になるため、以前にも複雑な形状の屋根を施工してもらった実績のある工務店に施工を依頼するなど、家族が安心して暮らせる品質も担保している。
  • 大屋根の軒下にあたる玄関前のスペースは、斜めの深い庇に守られている。植栽の緑が映えてやさしい雰囲気に

    大屋根の軒下にあたる玄関前のスペースは、斜めの深い庇に守られている。植栽の緑が映えてやさしい雰囲気に

  • 東側の庭から見た外観。物干し場の上がオーバーハングになり、2階部分の建物の中央に広々としたオープンエアのバルコニーを配置

    東側の庭から見た外観。物干し場の上がオーバーハングになり、2階部分の建物の中央に広々としたオープンエアのバルコニーを配置

  • キッチン横には、家事コーナーとして利用できるカウンターを造作

    キッチン横には、家事コーナーとして利用できるカウンターを造作

  • テレビボードや壁の棚、キッチン収納もすべて造作し、インテリアに統一感を出している

    テレビボードや壁の棚、キッチン収納もすべて造作し、インテリアに統一感を出している

「あいまいな空間」も多彩な造作収納も
家族のライフスタイルに合わせて設計

そんな「家族を守る」大屋根に覆われた建物内も、工夫を施したプランを提案。間仕切りを少なくし、居室の境界をあまり感じさせない「あいまいな空間」とした2階のフロアは、各自が居心地のよい使い方をしてもらえるように設計。横長のホールにお子さんが勉強に使えるカウンターを造作し、大屋根をかけることによって生まれる勾配天井の余剰空間を有効に利用した広めのストレージや、反対側には室内干しを備えたサンルームも設けた。また、「子ども部屋は、部屋の形をあいまいにして、遊ぶ場所、勉強する場所、寝る場所、しまう(収納する)場所といったように、行為で仕切るようにしました」と、2部屋分の空間を間仕切りなく繋げた。

さらに、サンルームから出ることができるバルコニーは約8畳と広くして、アウトドアリビングのようなイメージにし、「テーブルやイスを並べれば、夏の花火を観ながらご飯を食べたりもできます」。また「バルコニーにいても、来訪者があったら、すぐに気づけて声を掛けられるように」と、玄関ポーチを見下ろせる窓も設けるなど、実際に暮らし始めてからの使い勝手にも考慮した設計だ。

1階は開放的なLDK空間の横に、床の高さを上げた畳スペースを設けた。リビングとの間は収納棚と障子で仕切られ、棚はリビング側、畳スペース側の両方から利用できるように造作。お子様のおもちゃや絵本などを収納するのにぴったりで、天板はカウンターにもなっていてるため「お子さんがお店屋さんごっこをして遊ぶのにちょうどいい高さみたいです」と高瀬さん。ほかにもテレビボードなど収納は造作が多く、またキッチン横にはパソコンを利用できる家事コーナーとしてのカウンターも造作。「造作することで、インテリアに統一感を出すことができ、おさまりもよくスッキリしたデザインになります」。

随所に設けた収納は、「ちょっとしたコーナーや、手の届くところにある棚が暮らしに落ち着きを与えてくれているような気がします」とH様もその便利さを実感。大屋根が「家族を守る」H様邸は、巧みに工夫が施されたデザイン性と、「かゆいところに手が届く」暮らしやすさをみごとに融合。まさに、H様ご家族のライフスタイルにフィットした住まいとなった。
  • ナチュラルなインテリアのリビング。奥の畳スペースとの間には腰高の収納を造作しているが、収納上部の障子を開いておけば、開放感溢れる一体空間に。緩やかな階段の一段目が、隣接する畳スペースへのステップにもなっている

    ナチュラルなインテリアのリビング。奥の畳スペースとの間には腰高の収納を造作しているが、収納上部の障子を開いておけば、開放感溢れる一体空間に。緩やかな階段の一段目が、隣接する畳スペースへのステップにもなっている

  • リビングとの間仕切りにもなる造作収納は、お子様が畳スペースで遊んだ後の片付けもしやすい収納力。吊り押し入れも造作している

    リビングとの間仕切りにもなる造作収納は、お子様が畳スペースで遊んだ後の片付けもしやすい収納力。吊り押し入れも造作している

  • 間仕切りの少ない2階。左側の子ども部屋、中央のホールは、床も同じ素材を使用しフラットに繋げることで、まるで一体空間のよう。バルコニーの窓には大窓を採用したため、採光性も抜群

    間仕切りの少ない2階。左側の子ども部屋、中央のホールは、床も同じ素材を使用しフラットに繋げることで、まるで一体空間のよう。バルコニーの窓には大窓を採用したため、採光性も抜群

  • 2階ホールから繋がるバルコニーは見晴らしがよく、水栓も設けることで、アウトドアリビングとしての使い勝手もよくなっている

    2階ホールから繋がるバルコニーは見晴らしがよく、水栓も設けることで、アウトドアリビングとしての使い勝手もよくなっている

撮影:Takashi Uemura

間取り図

  • 間取図

基本データ

作品名
大屋根の家
施主
H邸
所在地
三重県伊勢市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
486.62㎡
延床面積
150.83㎡
予 算
3000万円台