高気密・高断熱と心豊かな暮らしを両立。
ボール遊びも読書も楽しい、吹抜けのLDK

勾配天井の吹抜け空間。庭とつながる大開口。のびやかな心地よさが魅力のU邸は、高気密・高断熱、換気も万全のハイスペックな自然素材の家。設計を担当した安藤建築設計室の安藤大輔さん・かおりさん夫妻の、家づくりへの温かな思いも参考になる住宅だ。

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吹抜けの大空間のまわりには、
気ままに過ごせる居場所がいっぱい

島根県松江市に暮らすUさまご一家は、ご夫妻とお子さま3人の5人家族。昔からある住宅街に佇む自邸は、『安藤建築設計室』の安藤大輔さん・かおりさんの建築家夫妻が設計。大型建築を多数手がけてきた大輔さんと、自然素材を使ったパッシブデザインの家を得意とするかおりさんの手腕が発揮された、住み心地満点の住宅だ。

家づくりにあたり、「健康に仲良く過ごせる家」「家の中で子どもがボール遊びをできるような空間」「子どもたちがどこにいても本を読める空間・大きな本棚」という要望をお持ちだったUさま。大輔さんとかおりさんは、これらの要望をどのようにかなえていったのだろうか。

2人はまず1階に、勾配天井のLDKを計画。「ボール遊びができる」に応えるために天井の高い吹抜けとし、ペンダントライトは入れず間接照明とスポットライトを適宜配置していった。このとき本好きなご一家ということを考え、夜でもストレスなく本を読める明るさを丁寧に計算。施主のライフスタイルに細やかに心を配る2人の設計姿勢がうかがえる。

吹抜けのLDKの周囲には、広々したテラスや和室を配置。リビング内の階段に沿って大きな本棚をつくり、2階には吹抜けからLDKを見下ろせるスタディコーナーも設けた。

その結果、テラス越しの庭や2階と大きくつながるLDKを中心に、居心地の異なる居場所がたくさん生まれ、家族がつかず離れずで過ごせる理想的な住まいが完成。

天気の良い日はテラスでお茶を飲み、雨の日は天井の高いLDKで思い切り遊んだり、和室におもちゃを出して遊んだり。夜はリビングで一家だんらん。就寝前のひとときはスタディコーナーやベンチ代わりになる階段で、家族の気配を感じながら本を読む……。

2人は「ボール遊び」のために計画した吹抜けのLDKを起点に、「仲良く過ごせる」「どこでも本が読める」「大きな本棚」も一気に実現したのである。
  • おおらかな瓦屋根が印象的な外観。大胆なデザインだが屋根は写真手前の道路側に向かって流れており、圧迫感がない。瓦を使いたいとの要望に応え、奥さまの出身地で生産される日本三大瓦の石州瓦を使用。外壁はそとん壁や木壁などの自然素材。周囲の住宅街の景色にしっくり馴染む

    おおらかな瓦屋根が印象的な外観。大胆なデザインだが屋根は写真手前の道路側に向かって流れており、圧迫感がない。瓦を使いたいとの要望に応え、奥さまの出身地で生産される日本三大瓦の石州瓦を使用。外壁はそとん壁や木壁などの自然素材。周囲の住宅街の景色にしっくり馴染む

  • アプローチから玄関ポーチを見る。写真中央の板塀の先に玄関がある。奥の板塀の先は物干しスペース。邸内の水まわりから出られて家事動線が良いが、お子さまたちの遊び場にもなっている

    アプローチから玄関ポーチを見る。写真中央の板塀の先に玄関がある。奥の板塀の先は物干しスペース。邸内の水まわりから出られて家事動線が良いが、お子さまたちの遊び場にもなっている

  • 外観夕景。1日の仕事を終えて帰ってくると、玄関まわりとリビングからほんのり漏れる明かりが見え、ホッと心が和む

    外観夕景。1日の仕事を終えて帰ってくると、玄関まわりとリビングからほんのり漏れる明かりが見え、ホッと心が和む

  • 玄関ポーチからリビングを見る。リビングの大開口とテラスは南東向き。道路は写真左側にあるのでプライバシー確保も万全

    玄関ポーチからリビングを見る。リビングの大開口とテラスは南東向き。道路は写真左側にあるのでプライバシー確保も万全

一見すると、のびやかな自然素材の家。
実は驚くほどのハイスペック

では、「健康な家」という要望にはどのように応えたのだろうか。

1つは高気密・高断熱。これはもはやスタンダードになりつつあるが、安藤建築設計室は建物の構造・骨格に関する知見が豊富な大輔さんと、現在も大学院で熱環境の研究を続けるかおりさんの最強タッグ。熱環境を整える上での引き出しが実に多く、土地の風土や敷地条件、ライフスタイルに合わせて最適なものを計画してくれる。

U邸では地元の石州瓦を使った大きな屋根をかけ、深い軒で邸内への直射を和らげるパッシブデザインに。山陰の冬は湿気が多いことを踏まえ、断熱材は結露が起こりにくく防カビ・防虫効果を期待できるセルロースファイバー(天然木質繊維)、外壁は調湿性能があるそとん壁(自然素材の外壁材)。内装は素材自体が呼吸する漆喰やスギの無垢材を使っている。

衛生面にも気を配り、玄関からはLDKに行く動線のほか、ウイルス対策として洗面室への動線も確保。帰宅後すぐに手洗いできる。換気対策もしっかり施し、室温を一定に保つ熱交換型の換気システムを導入。国産の換気システムはダクトを使用するものが多いが、ダクト内部の衛生管理に懐疑的だったUさまのために、ダクト不使用のドイツ製を入れている。

空調は階段下に床置き型のエアコンを半分埋め込んで床下エアコンとし、冬は床下からじんわり暖め、のぼる暖気で2階もぽかぽか。床下で暖気が行き渡りやすいよう、家の基礎部分の造りにも配慮した。

夏は床下エアコンが上に噴射する冷気と、2階にある壁付けエアコンからの冷風で家中が快適に。吹抜けのおかげで1~2階が大きなワンルームのようなU邸は、冬は1台、夏もたった2台のエアコンで家中の空調ができてしまう。しかも、高気密・高断熱と風通しのよい窓計画でエアコンを使う時間も減ったそう。「光熱費もかなりお得です」と、Uさまも大満足の快適な住まいとなっている。
  • 1階LDK。テラス側から階段を見る。「大きな本棚」との要望に応え、リビング内階段に沿って大容量の本棚を設置。生活動線上で蔵書が自然に目に入り、本が身近な存在になる。インテリアとしても魅力的で、ブックカフェのよう。階段下のルーバー部分の中には床下エアコンがある

    1階LDK。テラス側から階段を見る。「大きな本棚」との要望に応え、リビング内階段に沿って大容量の本棚を設置。生活動線上で蔵書が自然に目に入り、本が身近な存在になる。インテリアとしても魅力的で、ブックカフェのよう。階段下のルーバー部分の中には床下エアコンがある

  • 1階LDKは、現しの勾配天井の吹抜け空間。大きな窓の先にはテラスがあり、屋外を間近に感じてくつろげる。壁は漆喰、床は無節のスギの無垢材。安藤建築設計室では床暖房の有無、板材の強度や幅の広さといった施主の要望に合わせて、スギ、ヒノキ、ナラなどの床材を使い分ける

    1階LDKは、現しの勾配天井の吹抜け空間。大きな窓の先にはテラスがあり、屋外を間近に感じてくつろげる。壁は漆喰、床は無節のスギの無垢材。安藤建築設計室では床暖房の有無、板材の強度や幅の広さといった施主の要望に合わせて、スギ、ヒノキ、ナラなどの床材を使い分ける

  • キッチンはかおりさんの設計。独自のセンスで素敵なキッチンをつくってくれる。U邸ではコンロとシンクのカウンターを分け、作業台を広く取った。これは、娘さんが2人いるご家庭なので親子で料理を楽しめるようにとの配慮から。大開口から入る陽光の中で気持ちよく料理ができる

    キッチンはかおりさんの設計。独自のセンスで素敵なキッチンをつくってくれる。U邸ではコンロとシンクのカウンターを分け、作業台を広く取った。これは、娘さんが2人いるご家庭なので親子で料理を楽しめるようにとの配慮から。大開口から入る陽光の中で気持ちよく料理ができる

数値にとらわれ過ぎない豊かな設計が、
住まい方も豊かにする

高気密・高断熱の家づくりに長けた2人だが、かおりさんは島根県内に建てた自分たちの家についてこんなことを話してくれた。

「私はドイツ式のパッシブハウスの設計に関わっていた時期があるので、自宅をドイツレベルの高気密・高断熱の家にすることも考えました。でも2人でじっくり話し合い、日本は気候も違うし、『ここに建てるならそういう家じゃないね』との結論になりました」

地方の長閑なエリアでの家づくりは都市部に比べてゆとりがあり、景色や採光条件に恵まれていることが多い。

「けれど、高気密・高断熱の性能数値にこだわり過ぎると設計に制約が増え、大きな窓などをつくりにくくなります。それはそれで1つの考え方ですが、せっかく庭があって光や緑も楽しめる環境なら、性能数値にこだわり過ぎず外とのつながりも大切にしたいと思いました」と大輔さん。そうしてできた安藤邸は、庭と大きくつながる気持ちのよい住まいだ。

U邸も先述の通り高いレベルの気密・断熱性能を備えているが、庭とつながる心地よさや光を感じる豊かさも大切にされている。

家を建てるということは、その土地に住むということでもある。季節ごとに表情を変える空、海、山、光や木々。あるいは家の前を行き交う近所の人々や子どもたち。そういった暮らしを取り巻く環境も、生活を彩る風景の一部として受け入れるような家。

安藤建築設計室の2人がつくる住まいは高い性能を担保しつつ、「その土地で暮らす」ことへの温かな目線が織り交ぜられている。住宅性能は確かにとても重要だ。しかし数値至上主義に走らず地域の風土とともに生きることができる住宅は、人生をさらに豊かにしてくれるのかもしれない。
  • キッチンからの眺め。写真左奥には和室、上部にはLDKを見下ろせる2階のスタディコーナー、写真右に行くとテラスがある。吹抜けのLDKを中心にさまざまな居場所があり、家族の距離感と一体感がちょうどいい

    キッチンからの眺め。写真左奥には和室、上部にはLDKを見下ろせる2階のスタディコーナー、写真右に行くとテラスがある。吹抜けのLDKを中心にさまざまな居場所があり、家族の距離感と一体感がちょうどいい

  • 2階の通路には、吹抜けを介してLDKを見下ろせるスタディコーナーが。写真左に並ぶのは子ども室。お子さまは子ども室とスタディコーナーを行き来しながら、好きな場所で読書や勉強ができる

    2階の通路には、吹抜けを介してLDKを見下ろせるスタディコーナーが。写真左に並ぶのは子ども室。お子さまは子ども室とスタディコーナーを行き来しながら、好きな場所で読書や勉強ができる

  • 2階スタディコーナーから階段を見る。写真右奥上にあるのが2階のエアコン。真夏は1階の床下エアコンに加えてこのエアコンも稼働させると、1~2階全体が快適に。写真右に並ぶのは子ども室。子ども室は上部の欄間部分を開け、邸内全体の空調効率を高めている

    2階スタディコーナーから階段を見る。写真右奥上にあるのが2階のエアコン。真夏は1階の床下エアコンに加えてこのエアコンも稼働させると、1~2階全体が快適に。写真右に並ぶのは子ども室。子ども室は上部の欄間部分を開け、邸内全体の空調効率を高めている

撮影:岡田泰治

基本データ

作品名
富士見が丘の家
施主
U邸
所在地
島根県松江市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
311.28㎡
延床面積
125.81㎡
予 算
3000万円台