歴史が刻まれる農家住宅の「和」と
若い世帯が居心地のよい「モダン」を融合

「建築は機能や便利さ以外にも、家族とのつながりや自然を前にして感じることなど、楽しさがたくさんあります」と建築家・高瀬さん。そんな家づくりへの思いが十分に伝わってくるリフォーム事例を紹介しよう。暮らしの「実」の部分と、住まいに刻まれてきた「歴史」、その両面を大切に設計されている。

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制限がある中での間取りやデザインの提案、
耐震、断熱性も高められて快適&安心

伊勢神宮のお膝元となる三重県伊勢市郊外は田畑が広がり、建坪数の大きい旧家の日本家屋が今も数多く残っている。この地で建築設計事務所を営む高瀬さんのもとには、そんな旧家の面影を残したいという要望のリフォーム依頼も多いという。設計事務所へリフォームを依頼するというお施主様は、デザインへのこだわりもあり、自分たちが思い描く家にしたいという方が多い。そこで、いかに要望を叶えつつ、プラスαの工夫を提案できるかが、建築家の腕の見せどころとなる。

「新築への建て替えよりも、広い家をそのまま住み継ぐためにリフォームをしたいという方が、実は結構多いんです。例えば60坪程度の広さの旧家をリフォームするのと同じ予算で新築に建て替えると、広さは半分の30坪程度になってしまいますから」と建築家の高瀬さん。そんな旧家のリフォーム依頼で、外観の雰囲気、土台や柱、旧家ならではの立派な梁などを生かしながら、室内空間をモダンに生まれ変わらせた事例が、今回紹介するT様邸だ。

T様邸は代々受け継がれている農家住宅で、それまで離れで暮らしていたT様世帯が母屋に移り住むことになり、リフォームを計画。将来的には子どもたちにも住み継いでいってほしい建物なので、より自分たちが暮らしやすい間取りや現代のデザインに変更したいと考えていた。「LDKは広く使えるように、急だった階段は緩やかに、そしてファミリークローゼットも欲しい。ただし、外観と庭はそのまま残したい」というのがT様のご要望。T様邸の1階は、玄関から左側に2間続きの和室があり、右側に洋間と和室、台所がある。T様世帯の生活の中心となる、その右側を中心にリフォームする計画だ。

そこで、高瀬さんは洋間+和室+台所の旧間取りを再構築して、広いLDK空間として一体化。水まわりとファミリークローゼットも充実させ、生活動線をコンパクトにすることで、家事効率がよくなるようにも配慮。玄関から左側の2間続きの和室は客間としてそのまま残しつつ、右側のLDKにはガラスの建具を多用し、新しくなった空間と旧空間が視覚的につながるようにした。これによって、ガラス越しに和洋のデザインをミックス。

「派手過ぎず、でもスタイリッシュなデザインがいい」とT様が話していたため、何かしらデザイン的にもおもしろいことをしたいと、お互いにアイデアを出しあい、その中で出てきたアイデアがこのガラス建具だ。これによって、外観は昔ながらの日本建築の「農家住宅」でありながら、一歩、建物内へ入れば、スタイリッシュな和モダンの空間が広がるという、個性的な空間づくりが実現した。
  • 2階建て瓦屋根の純日本建築の外観は、そのままの見栄えを大切にしつつ、外壁に少し手を加えた

    2階建て瓦屋根の純日本建築の外観は、そのままの見栄えを大切にしつつ、外壁に少し手を加えた

  • 和テイストの玄関正面の飾り棚は元のものを生かしつつ、棚の背面は障子をはがして枠だけ残したモダンなデザインに変更

    和テイストの玄関正面の飾り棚は元のものを生かしつつ、棚の背面は障子をはがして枠だけ残したモダンなデザインに変更

  • 木の温かみあふれるインテリアに、ガラスの建具を多用した広々としたLDK空間

    木の温かみあふれるインテリアに、ガラスの建具を多用した広々としたLDK空間

  • 玄関の左側に配置されている8畳2間続きの和室は、そのまま残している。奥の窓の外に見える緑にも心癒される空間だ

    玄関の左側に配置されている8畳2間続きの和室は、そのまま残している。奥の窓の外に見える緑にも心癒される空間だ

「快適に安心して暮らせる」家をベースに
独自の個性が光るデザインをプラス

高瀬さんは「引き継いでいく家」をイメージして、元々あった柱も化粧をせずに残し、現しになった柱によって建物の歴史がわかるようにしたいとも提案。「昔は、子どもの背比べのときに、柱に傷をつけていました。そうして柱に残る傷は、子どもが大きくなってからも懐かしい思い出として記憶にもカタチに残ります。代々、住み継いできたことをそんな思い出として大事に残していきたいと思いました」と高瀬さん。いわゆる、分譲住宅でもありがちな「ナチュラルテイストの木の家」といったデザインではなく、お施主様ご家族の個々のライフスタイルや趣味、嗜好から生まれるイメージをいかに建物にデザインするかを、日々、追求しているという。

また一方で、「あたりまえのことですが、そこに住むご家族みなさんが、日々の暮らしを心地よく、安心して過ごせる家であることを何より大切にしています」とも言う。そのため建物の性能面にも配慮し、間取り変更に際して、必要な箇所には鋼製ブレースを入れ耐震補強も施している。また、断熱性能を高めるために、リビングのサッシも新しくした。その際、構造上、垂れ壁ができるため、折り上げにして間接照明をつけることで、デザイン的にも見栄えよくするなど、細かい点にも工夫を凝らした。

さらに、「三重県だと台風の影響を強く受ける地域が多いんです。ですから、雨戸をつけるか、シャッターにするかという選択も重要です」と高瀬さん。実はシャッターよりも雨戸の方が、台風の風雨に強いことから、「雨戸にしてほしい」という要望を受けることも多いという。立地条件に合わせた設計で、暮らし心地、便利さ、快適さをしっかりとベースに据えながら、お施主様ご家族ならではのデザイン性も加味することこそが、高瀬さんの設計の持ち味なのだ。

暮らしやすさを叶えた和モダンテイストの住まいに、T様ご家族も大満足。「リフォームが完了して間もなく、新型コロナウイルスが広がり始めました。学校も休校になり、部活動も休みが多くなったことで、子どもたちが家にいる時間が増えましたが、気持ちが沈むことはなかったように感じます」とT様。「ストレスを感じることなく、充実した“おうち時間”を過ごすことができているのは、高瀬さんに依頼して、思っていた以上の完成度でリフォームができたおかげだと思います」。
  • LDKの窓は大きなサッシのガラス窓を採用することで、外光がたっぷりと注ぎ込まれる明るいLDKを実現。窓際を折り上げ天井にすることで垂れ壁を隠し、間接照明でモダンに演出

    LDKの窓は大きなサッシのガラス窓を採用することで、外光がたっぷりと注ぎ込まれる明るいLDKを実現。窓際を折り上げ天井にすることで垂れ壁を隠し、間接照明でモダンに演出

  • リフォーム前の建物の柱は現わして、広いLDK空間の中に上手に溶け込むよう工夫されたデザイン

    リフォーム前の建物の柱は現わして、広いLDK空間の中に上手に溶け込むよう工夫されたデザイン

  • 2階の主寝室は落ち着いたトーンのモダンなインテリアに。大黒柱はリフォーム前の柱をそのまま採用して現している

    2階の主寝室は落ち着いたトーンのモダンなインテリアに。大黒柱はリフォーム前の柱をそのまま採用して現している

  • 朝のお出かけ前の忙しい時間帯にも家族がスムーズに準備しやすいよう、脱衣室前の廊下に2ボウルの洗面を設けている

    朝のお出かけ前の忙しい時間帯にも家族がスムーズに準備しやすいよう、脱衣室前の廊下に2ボウルの洗面を設けている

撮影:Takashi Uemura

間取り図

  • Before

  • After

基本データ

作品名
農家住宅の改修Ⅱ
施主
T邸
所在地
三重県伊勢市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
670.00㎡
延床面積
175.20㎡
予 算
2000万円台