独創的で住み心地のよい住宅設計で知られる建築家の伊藤寛さん。S邸ではプライバシーを守るための工夫をきっかけに、屋外の心地よさをふんだんに取り入れた住空間や洗練された外観デザインも実現。平屋住宅の至るところに自然を取り込むテクニックも必見だ。
この建築家に多摩川沿いの堤防道路から2mほど下がった敷地に立つS邸。どっしりと地面に根付く平屋づくりの外観が、おおらかな自然風景に馴染んでいる。シンプルなアウトラインとレイヤー状の壁がモダンな建築美を生み、人目を引く
堤防側の外観。S邸は天然木材で仕上げた住空間を、外周部に並ぶモルタル仕上げの構造壁で囲った「入れ子の構成」。外周部の構造壁の間はガラスがはめられていないので、住空間の壁とのレイヤーが凹凸の陰影を生み出す。夜は照明によって陰影がいっそう際立ち、美しい佇まいに
「多忙で手入れが行き届かないので植物は少なくしたい」というリクエストに応え、堤防側に広がる庭はモルタル仕上げに。植栽も最小限にとどめた。広々した外部空間はお子さまが遊んだり、ご主人が仕事の車を一時停車したりと、フレキシブルに使えて便利
玄関ポーチのさらに手前には、車2台をとめられる広い駐車スペースがある。住空間の屋根がそのまま張り出した軒下にあり、雨の日も濡れることなく車から邸内へ移動できる
玄関から邸内を見る。建物の東側に位置する玄関まわりも、外周部の構造壁と住空間をつなぐ屋根の下。奥の玄関扉を開くと邸内。写真右側は邸内に光をもたらす光庭。光庭はセキュリティに配慮して手前に引き戸を設置。夜は引き戸を閉め、安心して過ごせる
「光庭」と名付けられた中庭。左側は玄関と玄関ポーチ。正面と右側はダイニング、フリースペースなどの住空間に大きく面している
玄関土間から邸内に入ると半戸外の土間スペースが奥まで続き、家の中に入ったのにまだ外にいるような不思議な感覚になる。モルタルの腰高壁のように見えるものはペチカ。中に配管が仕込まれており、横付けした暖炉の排気による暖気をめぐらせることで室内がほどよく暖まる
ダイニング。テーブル越しの腰高壁の奥がキッチン。天井高が最大4.6mもあるのびやかな住空間は南の堤防側が天井までの全面窓で、たっぷりと光が入る。空や堤防の緑を一望できるが、住空間は敷地の奥に配しているため堤防道路からの視線は通らず、プライバシーを確保している
写真左側がフリースペース、右側がダイニング。中央の光庭に沿った横長のフリースペースは、光庭から入る陽光でとても明るい。邸内はサワラ、スギなど古くから愛される自然素材で仕上げられ、経年によって味わいが増す楽しみもある
堤防側の窓際上部には、物見台としてキャットウォークとデッキをつくった。ここにのぼるときらめきながら流れる多摩川を一望でき、気分爽快。振り返って上から住空間を見るのも楽しい