日当たり良好 さまざまな窓が生み出す
「開かれた家」の居心地の良さ

住宅の顔ともいえる窓は。窓の大きさや数、形によってその家の印象はもとより、暮らしやすさにも左右する重要なアイテム。大きな窓をはじめとした、さまざまな窓で、陽当りや開放感を実現し、居心地の良い家を作ったのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。つい長居したくなる、この家の秘密に迫る。

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仕切りのない家の原体験が生む
開放的な室内空間

低層の戸建てが立ち並ぶ世田谷の一角。風致地区にも指定されている閑静な住宅地にその家はあった。大きな窓がアイコニックなIさん邸。この家には大窓だけでなく、大小さまざまな窓があり、良好な陽当りと風通しを実現している。この家を設計したのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。元々農地だったこの土地に、10軒の分譲住宅の開発計画があり、デベロッパーから3棟の設計を任されたのが、施主の立場にたち満足度の高い家をつくると評判の伊藤さんだった。

一方、施主のIさんご夫妻とこの土地との出会いはまさに「縁」とも言えるものだったという。長く世田谷在住だったという奥様は、この地域が好きで、この土地も畑だったころからご存知だったという。「いつかこのあたりに住みたいと、漠然と思っていたんです」と奥様。
あるとき、この土地が分譲されることを知ったお2人。当時はまだ、家を建てることはおろかまだお付き合いしている状況だったというが「自分達の希望の場所に、戸建てが出るなんて縁だと感じました」とご主人。そうして2人の人生が大きく動き出したのだ。

こうして出会ったIさんご夫妻と伊藤さん。Iさんご夫妻からの要望は、窓を多くして明るい家にしてほしいということ。この窓というキーワードは、偶然にも伊藤さんの頭の中に描いていたものと一致した。この案件はデベロッパーとのコラボレーションのため、大胆な外観や配置はできなかった。そこで目をつけたのが窓の工夫によって開放感をもたらすというものだった。

開放感は、伊藤さんの建築のキーワードの1つだ。伊藤さんが育った家は、いわゆる「個室」がなく、必要に応じてふすまや間仕切りで空間を作っていた。そんな原体験がある伊藤さんがつくる家は、おおらかで開放感抜群の「開かれた家」が多い。

都会の家は隣との距離が近かったり、プライバシーの問題もあり、比較的窓が少なかったり小さかったりすることが多い。その分、開放感を犠牲にすることにもなる。もちろん、隣家と窓がぶつからないように気を配り、覗かれない工夫はするが、「どこまで窓を許容できるか見極めることが大事」と伊藤さんは語る。Iさんご夫妻と話をしていくうちに、Iさんご夫妻のライフスタイルや要望であれば大きな窓でも大丈夫と感じたのだという。「窓に関する意見が同じで、相性が良かったということでしょうか」と伊藤さん。

こうして、この家の特徴とも言える大窓を含む、大小様々な窓が誕生した。
  • 大きな窓が特徴的なIさん邸。ご近所から「大きな窓の家」と呼ばれることもあるのだとか

    大きな窓が特徴的なIさん邸。ご近所から「大きな窓の家」と呼ばれることもあるのだとか

  • モノトーンの落ち着きある玄関。奥様が海外で購入された小物で彩られている

    モノトーンの落ち着きある玄関。奥様が海外で購入された小物で彩られている

  • シナベニヤで作られた衣装棚には、キレイに折りたたまれた服が並ぶ

    シナベニヤで作られた衣装棚には、キレイに折りたたまれた服が並ぶ

  • 約3.5畳のウォークインクローゼットには、作り付けのハンガーラックを設け、たくさんの洋服が収納可能

    約3.5畳のウォークインクローゼットには、作り付けのハンガーラックを設け、たくさんの洋服が収納可能

開放的抜群の大窓は
ご近所さんとのオープンな関係をも築く

では、実際に邸内はどのような窓なのだろうか。邸内に入って気づくのはどの部屋にも大小いくつもの窓があること。1階にある寝室も2方向にタイプの違った窓があり、外の光を優しく導いている。洗面台の上にも窓。自然光でメイクや身支度ができる。トイレや階段にだって窓がある。明かり取りのためでもあり、通風のためでもある。3階の寝室は大きく取られた窓から、晴れた日には富士山が見え、多摩川の花火大会も見えるという。

圧巻は、2階のLDK。大小様々な窓から、燦々と陽が降り注ぎ、センスの良い家具やインテリアと相まって明るく清らかな空間となっている。大きな存在感を示すのは、道路側に向かってつくられた大窓。ご近所さんから「大きな窓の家」と呼ばれることもある、Iさん邸のシンボルでもある。「Iさん邸をご覧になってから、他区画のお客様からウチもあの大きい窓にしたいというお話があったようです」と伊藤さん。それほどに、魅了される窓だ。この窓があるおかげで、子供が遊んでいる様子が見えたり、掃除をする様子がわかるなど、ご近所さんとの距離感も近い。開かれた窓は、オープンな関係を生んでいるのだ。

ご主人のお気に入りは大窓の反対側に設けられたバルコニー。伊藤さんから提案を受けたバルコニーが、雑誌で見ていた天空のバルコニーのように感じられたのだという。今では、椅子やテーブルを持ち込み、焼き肉を楽しんだりもするのだという。「もしかしたら、伊藤さんにはこの最終形が見えていたんじゃないかと思えるくらい、うれしいバルコニーです」とご主人。バルコニーを設けることで、リビングに3方向からの開放感をもたらし、洗濯などを干すという実用性をもたせるばかりか、開放的なテラス席をも実現させてしまった伊藤さんの手腕には、驚かされるばかりだ。
  • 2階のリビングにも、大小さまざまな窓から陽が差し込み、とても開放的な空間となっている

    2階のリビングにも、大小さまざまな窓から陽が差し込み、とても開放的な空間となっている

  • LDKの南側は3面に大きな窓があり、サンルームのよう。訪れるお客様だけでなく、ワンちゃんもお気に入りのスポット

    LDKの南側は3面に大きな窓があり、サンルームのよう。訪れるお客様だけでなく、ワンちゃんもお気に入りのスポット

  • 3階の寝室も、窓が多く光が差し込む。窓の外には、富士山や多摩川の花火が見えるという

    3階の寝室も、窓が多く光が差し込む。窓の外には、富士山や多摩川の花火が見えるという

高い敷居よサラバ
身近な存在としての建築家の活用

いくつもの窓からの光が降り注ぎ、明るく温かみのある空間となっているIさん邸は、まさに居心地のよい空間。洗練された家具や調度品が上質さを感じさせるものの、かしこまった雰囲気ではないのだ。それは、この家とIさんご夫妻のやわらかさが大きく影響しているに違いない。

「この家に越してから、お客さんが多く来てくれるようになりました。でも、なかなか帰ってくれない」と笑いながら話すご主人。この言葉が象徴しているように、この家は訪れた人が、つい長居したくなる家なのだ。

Iさんご夫妻は、口々に「窓を大きく、たくさん作ってくれてよかった」「柔軟な対応をしてくれてありがたかった」と語る。

それは伊藤さんが、施主の話をよく聞き、じっくりと時間をかけ、施主が真に何を望んでいるのかを把握し、それを建築に落とし込むということを大事にしているからに他ならない。いわば、しっかりと施主に寄り添った家づくりをしているのだ。
伊藤さんは「建築家の仕事は家を作って終わりではない」と語る。完成し自分の手を離れた物件であっても、施主に困ったことがあれば、お宅を訪問し様子を尋ねているという。「お施主様が気軽に声をかけてくださる、そして私は家をずっと見守っていける、それが理想の関係です」と伊藤さん。


「建築家として、もっと身近な存在でいたい」「建築家をもっと使ってほしい」と伊藤さんは語る。家のメンテナンスや修繕、インテリアにとどまらず、土地探しや家に関するトラブル解決まで「なんでも気軽に相談してほしい。自分で対応できなくても、その道のプロを紹介することもできます」と伊藤さん。

このような、伊藤さんの施主 に寄り添う姿勢は、とかく敷居が高く感じがちな建築家のイメージを覆すものだ。伊藤さんはもはや、建築家の枠を超えた「住まいの頼れるパートナー」と言ってもいいのかもしれない。

これからも伊藤さんの手によって、居心地のよい家が生み出され、その家が長く愛され続けるに違いない。
  • ホテルライクな洗面台は、海外から取り寄せた特注品。上部の窓からの自然光の中で身支度ができる

    ホテルライクな洗面台は、海外から取り寄せた特注品。上部の窓からの自然光の中で身支度ができる

  • 閉鎖空間が苦手という奥様に合わせたトイレの扉は、上下が開放された乳半アクリル製

    閉鎖空間が苦手という奥様に合わせたトイレの扉は、上下が開放された乳半アクリル製

基本データ

施主
I邸
所在地
東京都世田谷区
家族構成
夫婦+ワンちゃん
敷地面積
87.62㎡
延床面積
85.51㎡
予 算
2000万円台