「海が見える場所に店舗併用住宅を建てたい」と、レストランオーナーのお施主様より依頼を受けたあわデザインスタジオの岸田一輝さん。お施主様にとっての「普通の暮らし」を叶えるため、また、この場所だからこその海の風景を楽しむように岸田さんが作り出したのは、「くの字」に曲がった建物だった。
この建築家に建物は四角い住居部分を中心にくの字がつき、三又の形状。お店に来る人は、海沿いの道を通り、建物と道路の間の駐車場スペースに車を止め、手前のエントランスから入店。反対側の先端は地元の人たちが海へと行き来する小道につながっている
くの字の中心部、店員は厨房を背にしてこの視線で待機して客席全体を把握する。左右に延びる客席部分と、店員が待機する中心では天井の梁の太さと間隔に変化を持たせた。店の中心だけ雰囲気が変わり、初めて来たお客さんでも店員をすぐに見つけられるという
レストランの中心、くの字の中心部からエントランス側を見る。エントランスからはまず、奥様がご趣味で描かれた絵を鑑賞するエリアが広がる。「こちらは絵が80%、海が20%くらいの割合を目指した」と岸田さん。ソファの座席を上げると収納になっており、お店の備品などをしまえる
夕日も魅力の一つのため、店内の照明はあえて抑えている。「南イタリアをテーマにしたレストランですので、現地のレストランの雰囲気にも近づけました」と岸田さん。ライトの光を直接客席に落とさず、壁にバウンスさせて照らしているため、光源がふんわりと光り優しい雰囲気に
メインエントランス。T様の「視覚的に重たい雰囲気の扉にしてほしい」という要望に応え、バーンウッドという、実際にアメリカやイギリスの納屋や倉庫などで使われていた、外壁用の古材を使用した。「色も抜けてグレーになっていて、木材でないような風合い」と岸田さん
店内で一番人気という席。海へと続く道、里山の風景や地元の人の暮らしぶり、おおらかな海を一望できる
バーカウンターにある窓からも、庭の向こうに海が見える。くの字に曲げて緩やかに仕切った客席のうち、景色を楽しむ空間側では窓を多く配置した。「周辺の地形や建物によって海の風景の印象も変わってくる。窓によって異なる印象の海を感じてほしい」と岸田さん
撮影:平林克己