遠くに海を眺め、愛犬も喜ぶ住まいにしたい、イメージはプロヴァンス風、“利便性よりも思わずニンマリする設計”がご夫婦の希望。これに対して提案されたプランは合計43案にのぼった。膨大な量の提案のなかで、とりわけIさんご夫婦の目をひいたのが、建築家の菅原浩太さんの提案したプラン、「Casa Ciero y Mar」だった。家全体がゆったりしたワンルームのような間取り、ラグジュアリーな雰囲気がイメージに合い、ここに住んでみたいというイメージが具体的にわいた。打ち合わせで会った菅原さんも信頼できそうだと感じ、Iさんご夫婦は「Casa Ciero y Mar」を終の住まいと定めることにした。
「住民協定で、屋根のかたちは伝統的な日本家屋のものと決まっているんですね。ですから、「Casa Cireo y Mar」のプランだと屋根がルールに反するんです。そこで自治会長にご説明にあがったんですが、最初は怒られてしまいました。『苦労して街並を統一しているのを無視するとは』と。でも、建物の価値って、街並との調和だけで規定されるものでもないと思っていて。鎌倉は価値のある土地ですから、周辺の風格もあげていくような家になれば、新しいものを織り交ぜていってもいいのではとお話して、最後には納得していただきました」と菅原さん。屋上から望む景色もこの家の見せ場のひとつだったが、こちらも隣が見下ろせてしまう点が問題になり、隣家との間に面材をはって視線を遮ることで落としどころをつけた。