子供たちが巣立ち、夫婦2人だけの生活となったとき「新たな住まい方を、長く住み慣れたこの地で」と思う方も多いことだろう。そんな施主の思いを汲み、暮らしやすさとデザイン的な美しさも兼ね備えた家を設計したのは、KATIS建築設計事務所の石川厚志さん。人生の最終章を豊かにする夫婦の終の棲家に迫る。
この建築家に南側から見る全景。田んぼと北側の宮地岳による彩りが、四季の移ろいを感じさせる。道路境界は風通しのよい花ブロックと縦格子で、通行人からの視界を遮る
敷地の高低差を利用した大きな縁側。窓を開くとリビングと縁側が一体となった大空間に。大きな軒は、夏の日差しを遮り、冬の光を取り入れる絶妙な角度
和室は、能舞台をも想起させる独立した落ち着きある佇まい。南面の3つの大窓が水平に連なり伸びやかな開放感を実現。軒裏と天井のレベルが揃うことで、奥行き感を出している
玄関の建具の欄間は透明なガラス製。可動部が横ルーバーとなっており、室内の柔らかな光が漏れる。玄関横の縦格子はライトアップされ、訪れる者を出迎えてくれる
リビングから見た南面。庭越しに田園風景が広がり、四季の移ろいを感じられる
リビングと座敷の天井は、勾配屋根の垂木現し。座敷の仕切り上部をガラスにすることで、天井の一体感を生み、垂直方向にもおおらかな開放感を実現した。座敷奥の窓を広くすることで、南北の風通しと抜け感を実現
リビングは照明をつけると、一層落ち着いた雰囲気に。計算しつくされた照明配置で陰影のコントラストも美しい
リビングから縁側と軒裏を介して、和室を視認できるようにし、外部空間も取り込むことで、開放的な空間を体感できる。等間隔に並んだ天井の垂木が空間にリズムを与え、何かに包まれているかのような居心地のよい空間に仕上がっている。
琉球畳が美しい和室。壁面には凹凸のない作り付けの収納。サッシの枠は天井と床下に埋め込み、スッキリとした空間にしている
撮影:ブリッツスタジオ 石井紀久