島根県大田市にある「ごいせ仁摩」は、グルメ、特産品、イベントの充実ぶりもさることながら、建物そのものにも地域の魅力が詰まった道の駅。訪れたらぜひチェックしたい建築の見どころなどを、設計を担当した安藤大輔さんに聞いた。
この建築家に駐車場から見た「ごいせ仁摩」。東西に伸びたファサードは抜群のスケール感。写真左から、物販・管理棟、レストラン棟、ステージ棟の3つの建物が並び、その手前には屋根付き通路がある
仁摩・石見銀山ICを抜けると写真左下の道路に出て、少し車を走らせると正面に「ごいせ仁摩」が現れる。石見銀山の玄関口であり、山海が近い自然豊かな好環境。上空から見ると建物がゆるやかに弧を描いているのがわかる
横長の建物が、同じく横長に伸びた背後の山々にしっくり馴染む。地元の杉や石州瓦をふんだんに使った建築は、周囲の自然に見事に調和。“むくり”をつけた瓦屋根が、ごくわずかに膨らんでいるのがわかる
物販・管理棟とレストラン棟は瓦屋根、屋根付き通路とステージ棟(写真右手前)は金属屋根。2種の屋根のコントラストが美しい
地元で開催された植樹祭で製作された御野立所を、舞台として再利用したステージ棟。敷地の境界側(写真右)は壁にして騒音防止に配慮しているが、敷地内で人が往来する反対側は音が聞こえる木製ルーバーを使用。イベント実施を音で気づき、足を運んでもらう狙いがある
ステージ棟の舞台上からの眺め。ステージ棟は舞台として御野立所を入れるため、ボリューム感のある建物となった。舞台を保護する鉄骨の屋根をかけることで、観覧スペースも確保。ここでは、地域の伝統芸能である石見神楽の公演が定期的に行われている
瓦屋根は地元の石州瓦。壁や構造に使った木材のほとんどは、今回の計画に合わせて大田市所有の山から切り出した杉材。安藤さんたちは木材調達に当たり、山の選定、樹種等の調査、伐採、製材、保管、乾燥、強度試験などのコーディネートを行った
建物を非常にゆるやかな円弧状とし、かつ、建物の向かいに屋根付き通路を設けることで、建物でもなく駐車場でもなく、人が集いやすい「広場」を創出。イベントやキッチンカーの出店などで賑わいを生む絶好のスポットとなっている
物販・管理棟、レストラン棟と屋根付き通路は、軒高を抑えて低めの重心にすることで、人間が本能的に安心できるスケール感に。低めの水平ラインと、奥に見えるステージ棟の山型屋根のメリハリが、東西に長い建物群にリズムをプラス。佇まいに豊かな表情を添えている
屋根付き通路~広場~建物というレイヤーの光と影の重なりが、正面から見る「ごいせ仁摩」に豊かな奥行きを生んでいる。建物自体は要素を絞った端正なデザインとし、「商品が魅力的に見えること、人がいる賑やかな風景が引き立つことを意識しました」と安藤さん
石見銀山のバッファゾーンとしての制約により、1つの大きな塊で建物を計画することが難しかったため、必要な空間をバランス良く分割。さまざまな用途の建物群をいかに調和させるかも、設計のテーマの1つだった
物販・管理棟の内観。天井の高い大空間に、魅力的な海産物や特産品が並ぶ。RC造・木造のハイブリッド、かつ、張弦梁という工法を用いるなどの工夫で、柱のないシンプルな大空間を実現。商品を展示しやすく、人の動きもスムーズ
建物を支える補強の筋交いは、「いかにも筋交い」とならないように木組みの格子をデザイン。木の雰囲気が心地よく、空間のデザイン性も高まった
撮影:淺川 敏